【イベントレポート】なぜ今、日本アニメに「グローバル人材育成」が必要なのか? キネマシトラスらが挑む「グローバル・アニメ・チャレンジ」の全貌と現在地

世界で人気を誇る日本アニメに、なぜ今グローバル人材が必要なのか?育成プロジェクト「GAC」のトークイベントをレポート。実践的なカリキュラムや日仏の制度比較を通じ、クリエイターが生き残り、アニメの多様性を広げるためのヒントを探る。

グローバル マーケット&映画祭
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2024年、アニメーション業界に新たな風を吹き込む人材育成プロジェクト「グローバル・アニメ・チャレンジ(以下、GAC)」が始動した。文化庁の「クリエイター・アーティスト等育成事業」として採択されたこのプロジェクトは、単なる技術指導にとどまらず、海外スタジオへのインターンシップや国際共同製作を見据えた、実践的な取り組みだ。

Branc主催のトークイベント「Dialogue for BRANC #11」では、このGACの中核を担う3名のキーパーソンが登壇。「なぜ今、日本アニメにグローバル人材教育が必要なのか」をテーマにトークした。

イベントには、GACのプロジェクトリーダーであり株式会社キネマシトラス代表取締役会長の小笠原宗紀氏、同社海外企画プロデューサーの長谷川博美氏(オンライン参加)、そして株式会社日本総合研究所・上席主任研究員の安井洋輔氏が参加。3カ年計画で進められる本プロジェクトの現在地から見えてきた、日本アニメ産業の課題と希望について、その濃密な対話のごく一部をレポートする。


「グローバル・アニメ・チャレンジ」が目指すもの

イベント冒頭、小笠原氏はGAC発足の背景について率直に語り始めた。「元々、このプロジェクトをやりたいと自ら手を挙げたわけではなかった。ハードルが高くて手を挙げる人がいないという話を聞いて、だったら我々が引き取ることにした」という。

日本アニメが世界中で隆盛を極める今、あえて人材育成という観点で国外に学ぶ必要があるのか。「日本アニメは今、世界で人気なのだから日本のやり方を極めればいい」と周囲からは懐疑的な声も少なくなかったという。しかし、小笠原氏は「AIの台頭などもあり、クリエイターが生き残るための道、彼らが幸せになれる道とは何かを考える必要がある。フランスやアメリカのモデルから学べることは多いはず」と語る。

GACのカリキュラムは「インプット(講義)」と「アウトプット(実践)」に分かれる。小笠原氏自身も「自分が若い時に受けたかった」と語る全15回の講義内容は充実したものだったようだ。数土直志氏(ジャーナリスト)や齋藤優一郎氏(スタジオ地図)、田中栄子氏(STUDIO4℃)など、業界のトップランナーによる講義に加え、日本総研の理事である山田英司氏からクリエイティブとビジネスを結び付ける視点を学んだり、KADOKAWA執行役の菊池剛氏から製作側の視点を学ぶ機会も提供、知財の専門家を呼んだ回もあったという。

講義を通じて候補生たちは、技術論だけでなく予算管理や海外展開のノウハウも体系的に学んだ。小笠原氏は「監督たちは、予算票を見たことがないという人がほとんど。特にお金の話は重要だった。どこにお金が消えているのかを知れば、効果的な使い方がわかるようになる」と意識改革の成果を強調した。

そして、GACは講義だけでなく、海外スタジオへのインターンシップも行う。小笠原氏は安井氏らとともにフランスやアイルランドのスタジオに視察に行き、現地のクリエイターの保護の厚さ、同時にそのための税金の高さなどを実感することができたという。

英語に対する恐怖心をなくす実践的コミュニケーション術

GACのもう一つの柱が、1年間にわたる徹底的な英語トレーニングだ。指導にあたった長谷川氏は、「目標は英語で会話ができるようになることではなく、英語に対する恐怖心をなくすこと」とゴール設定を明確にする。

Chatworkでの連絡は英語で行い、週1回のオンライン英会話を実施。ポイントは「翻訳ツールなど、使えるものは何でも使う『ズル』を推奨した」点だ。目的は正しい文法を話すことではなく、コミュニケーションを成立させる成功体験を積むことにある。

トレーニングの一環として、候補生たちはSIGGRAPHや新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)などの国際イベントに参加。「レセプションなどで10人の外国人に声をかけ、一緒に写真を撮る」というミッションをこなし、着実に経験値を高めていった。5月のシカゴ・Anime Centralにもゲスト参加するなどして積極的に国内外で交流を積み重ねることで、、1年を通じて英語で堂々とコミュニケーションを取る姿へと変貌を遂げたという。

インターンから戻ったら、今度は6月のアヌシー国際アニメーション映画祭に向けた準備を進めるとのことだ。

エコノミストの視点から見るイノベーションと構造改革

日本総研の安井氏は、エコノミストの視点からグローバル人材育成の意義について解説した。キーワードは「イノベーション」だ。安井氏は、日本のアニメ業界は言語の壁や仕事の忙しさもあってか、人との繋がり方が内向きの「結束型(ボンディング)」が目立つと分析する。

一方、GACを通じて海外の異文化に触れ、異なる文脈を持つ人々と交わることは、新しい風を吹き込む「橋渡し型(ブリッジング)」の役割を果たす。このブリッジングの発想があれば、日本アニメは、国内の良いところを活かしつつ新たな要素と組み合わせることで、さらに良いものを生み出せるようになるのではと安井氏は語る。

また、安井氏が小笠原氏と共に視察したフランスでは、「著作権」のあり方が日本と大きく異なっていたという。日本では著作権が出資をした製作者に帰属することが多いが、フランスでは著作者(監督やキャラクターデザイナーなど)に帰属し、利益が還元される仕組みが法律で守られている。日本のアニメスタジオが抱える課題に対して、参考になる点が多いと安井氏は語る。

さらに、欧州市場攻略の鍵として「国際共同製作」のメリットを提示。EUは自地域の文化保護のためのクォータ制度があるので、外国作品の総数が限られる。国際共同製作作品であれば、1つの作品が複数の国籍を持てるために、クオータの壁を突破できるが、日本がユネスコの「文化的表現の多様性の保護条約」を批准していないため、公的な共同製作協定を結べないという制度的なハードルも浮き彫りになった。

運営を経て見えた日本アニメの現在地と次なるステップ

イベント後半のディスカッションでは、日仏の制度の違いから「日本の製作委員会方式」の再評価もなされた。小笠原氏が「製作委員会方式のおかげで、我々クリエイターは資金調達のリスクを負わず制作に集中できる側面もある」と語ると、安井氏も「どちらが正解というわけではなく、選択肢を増やすことが重要」と同調した。また、フランス側から日本の製作委員会方式への興味関心を示される場面もあったという。

一方、小笠原氏は「日本国内では評価が低いものが、海外では喜ばれているときもある。マーケットが広ければ、多様な作品をつくれるチャンスがあると思う。多様な作品を世に出し続けるためにも海外という選択肢が必要だ」と語った。

GACの候補生たちは、2026年1月から欧州各地へ飛び立っている。彼らが持ち帰る経験は、日本アニメの新たな可能性を切り拓く試金石となるはずだ。まだ先のことにはなるが2027年3月に予定されている成果報告会に期待したい。

また、GACではプロジェクトの運営を支えるための協賛金を募集している。

個人・法人を問わず、オンライン決済(Square)を通じて1万円から100万円の範囲で支援が可能。

協賛へのリターンとして、100万円以上の法人支援者はGAC公式サイトにロゴが掲載され(宣伝費として計上可能)、少額の支援や個人の場合でも、将来制作されるパイロットフィルムなどのエンドロール(スタッフリスト)に名前がクレジットされる特典が用意される。

協賛金の詳細はこちら:https://global-anime-challenge.com/sponsorship_detail.html

協賛金振込:https://global-anime-challenge.square.site/s/shop

《杉本穂高》
杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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