世界No.1ヒット『ナタ 魔童の大暴れ』興行収入3,000億円の背景にある偶然と必然【日中アニメトレンドウォッチ👀🔍】#3

『日中アニメトレンドウォッチ👀🔍』の第3章。中国四川省出身で現在は日本の広告代理店でプランナーを務めるEIKYOさんをゲストライターに迎え、『ナタ 魔童の大暴れ』大ヒットの背景にある偶然と必然が錯綜する複合的な要因を紐解いていく。

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【日中アニメトレンドウォッチ👀🔍】#3
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中国のアニメ映画にとって、『ナタ 魔童の大暴れ』は歴史的な成功を収めた作品である。

前作『ナタ~魔童降臨~』(2019年)は約50億元の興行収入を記録し、当時も「異例の大ヒット」として注目を集めたが、今作『ナタ 魔童の大暴れ』はその約3倍となる150億元(約3,027億円)を突破。中国国内映画興行収入1位を記録し、『インサイド・ヘッド2』を抜いてアニメ映画の世界歴代興行収入ランキング1位、実写を含む世界歴代興行収入ランキングでもトップ5入りを果たした。興行収入や関連グッズ情報など、ネットニュースやSNS上が「ナタ」で持ち切りの状況は、公開から約1ヵ月続いてきた。

『ナタ 魔童の大暴れ』は中国国内では圧倒的に好評が多い。とくに映像クオリティの向上が顕著で、中国のゲーム産業の発展とともに培ってきた3DCG制作技術の進化が垣間見える。また、前作よりストーリーの完成度も高まり、共感を語る観客が増えている。

一方、中国で信頼度の高いコンテンツレビューサイト「Douban」でのスコアは前作とほぼ変わらず、否定的な意見も同様に増えている。たとえば冒頭から長々と続くトイレネタや一部のセクハラ描写に対して苦手意識や疑問を呈す声がある。また、物語の結末にどう共感を覚えたのかは理解しがたいなどと、物語やヒット自体に対する違和感も散見される。

それにもかかわらず、『ナタ 魔童の大暴れ』は興行収入3,000億円という驚異的な成功を収めた。本稿では、大ヒットの背景にある偶然と必然が錯綜する複合的な要因を紐解いていきたい。


起爆剤は、春節シーズンにおける競合作品の「吸収」

中国の映画市場には年間を通じていくつかの興行ピークがある。中でも「春節シーズン」は安定した需要が見込める特別な時期だ。春節には家族や友人と穏やかな団らん時間の過ごすという伝統があり、多くの店舗が休業となるので、みんなが共に楽しめる娯楽は限られる。そのため、コメディ要素やハッピーエンドが多い「賀歳片」(正月映画)は定番の選択肢となるわけだ。

毎年春節シーズンにはいくつかの注目作が上映される。しかし、今年の春節は『ナタ 魔童の大暴れ』以外の注目作はそろって不評だった。その結果、『ナタ』が他作品の興行収入を「吸収」する形となった。

実際のデータを見ると、比較的バランスよく分散していた各作品の興行が時間の経過とともに『ナタ 魔童の大暴れ』へ集中していく様子がよくわかる。この「吸収効果」によって前例のない初動成績が生まれ、一気に話題が拡散し、ライト層やミーハー層も巻き込む「起爆剤」となったのだ。

※「艺恩娱乐数据(EntGroup)」のデータをもとに筆者が整理・作成

中盤以降の押し上げは「自国コンテンツ」への熱狂的支持


《EIKYO》

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EIKYO

中国四川省出身で四川大学卒業後2014年来日。 早稲田大学大学院文学研究科社会学修士課程を経て広告代理店のストラテジックプランナー。 日中アニメ・コンテンツ・広告のことをいろいろ考えながら市場分析・生活者洞察の仕事をしています。 連載コラム【日中アニメトレンドウォッチ👀🔍】更新中。

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