日本・台湾の映像業界イベントから見えた、「アジアの国際共同製作の今」

近年、映像業界では「国際共同製作」が大きな話題となっている。「国際共同製作」とは一国だけでなく、複数の国が出資をし、参加国のスタッフやキャスト、ロケ地などを活用し作品製作を行うことだ。グローバル動画配信サービスが主流になり、世界の多様なコンテンツが観られるようになった一方で、製作側も様々なコラボレーションの形を模索している。

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2024 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ
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  • 第25回東京フィルメックス
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近年、映像業界では「国際共同製作」が大きな話題となっている。

「国際共同製作」とは一国だけでなく、複数の国が出資をし、参加国のスタッフやキャスト、ロケ地などを活用し作品製作を行うことだ。グローバル動画配信サービスが主流になり、世界の多様なコンテンツが観られるようになった一方で、製作側も様々なコラボレーションの形を模索している。これまでは、EUがある欧州など各国の距離が近い地域で主流に行われていた国際共同製作だが、現在はアジアでも活発になってきているという。

筆者もアジアの映像コンテンツのイベントに出向き、その広がりを実感した。本稿では台湾で開催された大型展覧会「2024 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」と東京フィルメックスでの同テーマのセッションの様子をレポートしていく。

「2024 TCCF」、共同製作のノウハウをイベント内で共有

2024年で5回目を迎えた「TCCF」には、台湾独自の要素を打ち出しながら、グローバルなパートナと組むことで、市場と予算の拡大をはかっていきたいという意思が明確なプログラムが揃っていた。たとえば、TCCFが力を入れている「ピッチング」は、投資家や業界関係者に向けて映像化プロジェクトをプレゼンテーションする場。今回は、開催前に開かれた登壇者へのトレーニングの講師として「SHOGUN 将軍」の宮川絵里子プロデューサーを招くなど、世界の第一線で活躍する業界関係者を集め、グローバルに打って出るためのノウハウを貪欲に学ぼうとするプログラムが目をひいた。

TCCFの主催者である台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー (TAICCA/タイカ)は、文化コンテンツ産業の支援を行う行政機関。TAICCAが行う支援は、業界関係者が国際共同製作について語る時によく引き合いに出す「助成金」の支給とは異なり、文化コンテンツに対する「投資」だ。


TAICCAが昨年立ち上げたのは、グローバルに活躍する脚本家の支援プロジェクト「インターナショナル・ライターズ・プログラム」(国際編劇人材合作支持計画)。このプロジェクトは、台湾の製作チームと、経験豊富な外国の脚本家、ショーランナー、スクリプトドクターとの共同製作をサポートし、クリエイター間の交流を促進しようとするもの。台湾の映像プロジェクトに世界的に活躍する脚本家を参加させることで、市場性を備え、グローバルな視野を持ち、かつローカライゼーションされた長編映画やドラマシリーズ、アニメーションの製作を促進する狙いがある。

TCCFの期間中、「共同製作を超えて:台湾と海外の作家による共同開発」というテーマで同プロジェクトのトークイベントが開催された。日本からは、日本と台湾の合作になるボクシング映画『関鍵一撃』(原題)を手がける李鳳宇プロデューサー、武正晴監督、脚本家の山口智之氏が登壇。本作は台湾出身のプロボクサー、ロッキー・リンこと林明佳が主人公の作品で、1990年代が舞台になるという。主人公の生まれ故郷やゆかりの地を取材する中で、台湾側スタッフと密に仕事をすることができたそうで、「台湾チームのメンバーとは食事やお酒を囲んで話し合うことが多かった」と国際共同製作ならではの醍醐味を語る場面もあった。

映画『百円の恋』、ドラマ「全裸監督」などで知られる武監督は、「4年くらい配信ドラマを作ってみて、映画のシナリオの力強さに気づいた」と動画配信サービス普及後の変化について実感を吐露。山口氏は「今までの日本は海外を意識しなくても国内で消費して終わりという部分があったが、もう少し外に目を向けてという流れがある。もし台湾の脚本家と組んで作品を作れるなら、夢のあることだと思う」などと語った。

国際映画祭でも存在感を高める台湾

台湾の動向をもう1つ紹介すると、昨年の釜山国際映画祭には台湾から計30作品がノミネートまたは出品され、台湾は過去最多人数のチームを派遣。文化部、TAICCA、台北映画祭が共同で壮行記者会見を開くなど、政府が強力に台湾映画人の“世界進出”を後押しした。

台湾のドラマ・映画制作会社「瀚草文創(グリーナグラスカルチャー)」は、同映画祭の中で、今後5年で5,000万米ドル(約16億台湾元/約74億円)を投じる「アジアの春」プロジェクトを発表。国際共同製作でドラマ15作品とホラー映画5本を製作すると明らかにした。東山彰良のベストセラー小説『僕が殺した人と僕を殺した人』の映像化や、台湾と日本の歴史時代ドラマシリーズ『琥珀:黑夜的叛徒』(仮題)などが含まれており、続報が楽しみだ。

脚本開発の部分にも積極的に支援を行うなど、国際共同製作プロジェクトへの挑戦を政府の資金で強力に支えている台湾。投資を担うTAICCAだけではなく、国際共同製作をサポートする文化部の補助金に関するガイドなども非常に見やすく、公的サポートが丁寧で手厚い。こうした取り組みの成果が作品となって現われるのはおそらく数年後。今後の成果に注目したい。

国際共同製作作品が中核を担う東京フィルメックス

冒頭で述べたように、国際共同製作が増えているのは日本を含むアジア全体の流れだ。

昨年11月には東京フィルメックスで、「国際共同製作の今」というトークイベントが開催された。本イベントは、25年続く同映画祭の歴史で初めて、コンペティション部門とメイド・イン・ジャパン部門の全上映作品が国際共同製作による作品になったという経緯から、登壇者が国際共同製作にした経緯や資金調達、合作ならではの面白さなどについて、それぞれの経験を語り合うという内容だ。

出席者は、パレスチナ、ドイツ、イタリア、カタール合作『ハッピーホリデーズ』のスカンダル・コプティ監督、中国、アメリカ、フランス、シンガポール合作『空室の女』のチウ・ヤン監督、フランス、韓国合作『ソクチョの冬』のコウヤ・カムラ(嘉村荒野)監督(以上3作品はコンペティション部門)、日本、マレーシア、フィリピン合作『DIAMONDS IN THE SAND』(メイド・イン・ジャパン部門)のジャヌス・ヴィクトリア監督。そして、『淵に立つ』や『LOVE LIFE』など、数々の作品を日本・フランス合作で撮ってきた深田晃二監督が進行役を務めた。

深田監督によると、国際映画祭で上映されるような作品に1ヵ国で制作されているものは少なく、ほとんどが国際共同製作になっているという。「(理由は)映画という表現方法がお金のかかる芸術であること」と同監督が言うように、資金調達面でのメリットがその大きな要因だ。

まず、深田監督が、自身の資金調達の経験についてシェア。フランスの映画に対する助成金は非常に手厚く、100以上の種類があるものの、日本映画としてアクセスできるのはフランス国立映画映像センター(CNC)の外国映画を対象とした助成制度「シネマ・ドゥ・モンド」ただ1つ。しかも助成金として得たお金の大半は、フランスで納税している人に使わなくてはいけない。

「私は幸運なことにフランス生まれなので、ファンディングへのアクセスはしやすい」と語ったのは、日系フランス人のカムラ監督。『ソクチョの冬』は51パーセントがフランス、49パーセントが韓国資本で、フランス国籍の者が使えるファンドを利用。この場合、出資比率が劇中のセリフの言語の割合にも影響するといい、「フランス語が50パーセントを超えないといけない。足りていないと、セリフの量を増やしたり、ポッドキャストでフランス語の放送を聞いているシーンをプラスするなどして、なんとか達成した」と公的資金を財源とする助成金ならではの制約も明かした。

「ただほど高いものはない」ということわざを引用して、こうした制約があるためにフランスとの合作は諦めたと語ったのは、パレスチナ出身のコプティ監督。パレスチナでは、自国での資金集めが望めず、国際共同製作で作らざるを得ないという事情があるが、なるべく使い道を限定されない制度を利用したいと希望を語った。

これに近いのが、中国出身のチウ監督。中国のインディペンデント系の監督は欧州資本で作品を撮ることが多い。自身が2019年に撮った短篇と『空室の女』は、フランスのファンディングを得て、ポストプロダクションをフランスで行ったという。プリプロダクションについてはオランダからの助成も得たが、オランダの納税者を雇って重要な作業を行うという条件があり、資金をオランダで使い切ることができなかったため、結果的に公的なファンディングより、個人からの投資が大部分を占める形になったと明かした。

ファンディングの形はそれぞれ異なるが、監督たちの意見で共通していたのが、国際共同製作が作品の芸術面にもたらすメリット。複数の文化の多様な視点が入ることで豊かさが増すなど、国際共同製作の魅力は計り知れない。

次回作は日本で撮るというカムラ監督は「私の考える日本は、どうしてもフランス人の見る日本になる。日本のチームには、おかしな部分は指摘してほしい。だからといって、全部その意見に合わせるわけではなく、意見を聞いた上で選択したい」と希望を述べ、合作は必須だったと語った。

チウ監督は、「中国人だけのために映画を作っているわけではないので、より多くの人に通用する視点を加えたい」と多様な視点を入れられるメリットに言及。多国籍のクルーと通訳を介して意識を共有しているというコプティ監督もまた、そのような現場に数ヵ月身を置くことで交流が生まれ、いろいろなことが見えてくると指摘。「さまざまな要素が加味されていく。フィルムメーカーとしてチャレンジであると同時に、嬉しい副産物ももたらしてくれる」と国際共同製作の醍醐味について語った。

《新田理恵》

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新田理恵

趣味と仕事が完全一致 新田理恵

大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、日中友好関係の団体職員などを経てフリーのライターに。映画、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆するほか、中国ドラマ本等への寄稿、字幕翻訳(中国語→日本語)のお仕事も。映画、ドラマは古今東西どんな作品でも見ます。

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