世界のコンテンツ産業において、存在感を高めている東南アジア。若年層人口の厚み、OTTの普及、中国語コンテンツへの受容度の高さといった条件が重なり、台湾の文化コンテンツ業界が近年、積極的にコラボレーションを進めている。
昨年11月、台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー (TAICCA/タイカ)は文化コンテンツ産業の大型展覧会「2025 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」でマレーシア、ベトナム、タイの大手プラットフォーム関係者を招いたシンポジウムを開催。東南アジアのストリーミングプラットフォームはどのようにコンテンツを調達しているのか、さらに台湾との協業の可能性などについて率直な議論が交わされた。
【パネリスト】
ローランド・リー(Roland LEE Chee Seng):アストロ(Astro)華人顧客事業コンテンツ制作部門 ヴァイスプレジデント
レー・トゥイ・チャン(LE Thuy Trang):FPT Play(ベトナム)コンテンツ調達・パートナーシップ部門ディレクター
コミン・アウドンプハン(Komin AOUDOMPHAN):トゥルーデジタルグループ コンテンツ事業部アシスタントディレクター
【モデレーター】
イボンヌ・チェン(Yvonne CHEN):チョコ・メディア株式会社 オリジナルコンテンツ部門ディレクター
データ分析を核としたコンテンツ調達と視聴者インサイトの把握
各配信プラットフォームのコンテンツ調達を支えるのは、膨大なユーザーデータだ。
マレーシアのアストロでコンテンツ制作部門のヴァイスプレジデントを務めるローランド・リー氏は、データが調達のボリュームを決定する“確かな武器”であると強調。「これらのデータは、毎年どの市場からどの程度のコンテンツを調達すべきかを示す重要な指標であり、視聴者の多様なニーズに応えるための指針となっている」といい、定期的なアンケート調査や閲覧レポートから視聴者が好むジャンルやキャストを把握し、ドラマ、バラエティ、リアリティ番組、音楽番組といったジャンルの選定に役立てていると説明した。
ベトナムFPT Playでコンテンツ調達・パートナーシップ部門を統括するレー・トゥイ・チャン氏も、データドリブンによるアプローチの重要性を指摘した。ISP(インターネットサービスプロバイダー)およびIPTVとして強力な顧客基盤を持つ同社は、家庭での加入が大半を占めるため、ドラマシリーズ、子供向け番組、スポーツへの関心が高いという。興味深いのはベトナム国内の地域性だ。レー氏によると、「北部、南部、中部でそれぞれ視聴者の好みが異なるため、全地域のニーズを満たすためにデータを非常に慎重に分析する必要がある」という。「コンテンツ戦略を立てる際に求めるのは、独占性と新鮮さ。また、視聴者の好みを常に注視し、グローバル基準のクオリティとローカル要素のニーズを融合させることが重要だ」と強調した。
タイのトゥルーデジタルグループでコンテンツ事業部を率いるコミン・アウドンプハン氏もまた、市場の声に耳を傾けることを重視する。タイ市場では約5年前まで韓国コンテンツが主流だったが、データによると、現在は中国ドラマが海外コンテンツの中で圧倒的な存在感を示すようになっているという。「東南アジアにおいて、タイは中国ドラマが海外コンテンツの中で圧倒的なシェアを占める唯一の国」とコミン氏は語る。iQIYIやWeTVといった中国のプラットフォームと提携し、コンテンツのプロモーションを共同で推進した結果、中国ドラマの視聴者が同社プラットフォームの主な牽引役になっているとし、「内部データが示すパフォーマンス評価こそが、どのコンテンツを継続的に提供するか判断する鍵となる」と述べた。

ローカルとグローバル、投資バランスの苦悩
集客力の高いローカルコンテンツと、コストパフォーマンスのよいグローバルコンテンツのバランスをどうとっていくのかも大きな課題だ。
コミン氏は、投資面での厳しい現実について吐露。「一般的にグローバルコンテンツはローカルコンテンツよりも調達コストを低く抑えられるが、実際にサービスへのトラフィックを牽引するのは常にローカルコンテンツ。ローカルコンテンツの制作には多額の投資が必要で、タイ市場の収益だけでそれを回収することは困難。ローカルコンテンツの支出を補うために、より多くのグローバルコンテンツを調達し、全体のコストバランスをとる必要がある」と説明した。
FPT Playにおいても、このバランス調整は「大きな悩み」だという。レー氏によれば、ベトナムではテレビ局が自社制作のローカルコンテンツの独占権を保持し、他社への販売を控える傾向が強いため、他局からローカルコンテンツを調達することは容易ではないという。「年間25,000~30,000時間に及ぶ膨大な新規VOD(ビデオ・オン・デマンド)コンテンツをすべて自社制作でまかなうことは不可能。既存顧客の維持と新規顧客の獲得という2つの目標を達成するため、高品質なグローバルコンテンツの調達が賢明な判断となる」
マレーシアは、多言語国家ゆえの複雑な競争環境に直面しているという。「中国語コンテンツに関しては、シンガポール、台湾、中国製作のコンテンツとの競争になる。ローカルとグローバル、どうバランスをとるかはその時々の状況を見て判断する」というリー氏。さらに、近年は大手OTTが高予算作品を独占する傾向があるため、調達コストが上昇している現状を指摘した。「アストロは自社制作コンテンツの拡充に注力する方向へ移行している。ローカルなテーマや題材を反映した自社制作作品は、外部調達のものにはない独自性があり、大きな顧客基盤を生み出すことができる。そこに台湾や香港のキャストを招くことで、グローバルな要素を加える戦略をとっている」

市場競争で勝ち残るための収益化と差別化の戦略とは?
熾烈な市場競争に打ち勝つため、各社とも独自の収益化モデルとマーケティング戦略を展開している。
アストロは自社制作のIP(知的財産)をグローバルプラットフォームへ輸出することで収益化をはかっており、詐欺をテーマにしたオリジナル中国語ドラマ「The Queen's Ploy」(中国語タイトル「詐騙女王」)をNetflixに販売した実績がある。リー氏は「詐欺のような普遍的なテーマは、地域を問わず通用する」として、単なるIPの取得ではなく、ローカル要素を注入したリメイクや共同製作を推進しているという。
FPT Playでは、スポーツコンテンツが加入者獲得と維持の強力な柱となっている。レー氏は、高額な投資が必要なスポーツ中継を成功させるための要素として「時間」の重要性を挙げた。「国際的なイベントは時差の問題があるため、試合開始時間がベトナムの視聴者の生活習慣に合うかを厳密に調査している。単に試合を見せるだけではなく、試合前後の番組にも多額の投資を行い、加入者の関心をメインイベントへ導いている」。また、「当社はローカライゼーションとマーケティングに多大な投資を行っている」とレー氏は語る。「成功は優れたタイトルを獲得することだけではなく、顧客のニーズに応える適切なマーケティングとローカライゼーションにかかっている」と述べ、字幕や吹き替えといったローカライゼーションの質が、顧客満足度と広告収益の最大化に直結すると強調した。
トゥルーデジタルは、まずオリジナルコンテンツの部分で、韓国CJグループとの合弁会社「True CJ」を設立し、年間約4タイトルの韓国のドラマシリーズをタイ版にリメイクしている。経験豊富なスタジオと制作体制、 CJからの配給面における支援もあり、収益化が順調に進んでいるという。ローカルコンテンツに関しては、現地スタジオが制作するコンテンツの大半は、同社が提携するテレビ局によるもので、コンテンツ配信の主要チャンネルでもあり、共生と収益化の両立がかなうエコシステムの構築をはかっているという。その一環として、テレビでコンテンツを初公開し、その30分から2時間後にOTTで見逃し配信を行うという仕組みをとっている。その後、一部のテレビ局が自社OTTを開始したことによって生じた課題に対しては、ウィンドウ戦略を策定したと説明。「テレビでの初放送後、3か月から6か月の保留期間を経て、当社の配信サービスで提供することにした。コンテンツが最も検索される時期に収益化を最大化できる」とコミン氏は説明した。

台湾コンテンツが東南アジアでシェアを広げるには?
シンポジウムの結びには、台湾コンテンツが東南アジア市場でシェアを拡大するための課題について、各パネリストが意見を交わした。
長年、台湾コンテンツを調達しているアストロでは、まず出演している台湾のタレントのマレーシアにおける認知度を確認する。少なくとも1~2人の主要キャストがマレーシア市場で認知されていることが必要だという。リー氏はまた、中高年者層の間で台湾の福建語コンテンツが人気であり、同社の福建語チャンネルが好調だという意外な事情を紹介した。
克服すべき課題として、タイのコミン氏が挙げたのは、「ブランディングとイメージ」だ。「韓国にはロマンス、タイにはホラーという明確で象徴的イメージがあるが、台湾にはそれがまだ欠けている。市場に切り込むための鍵となるイメージを見つける必要がある」
ベトナムのレー氏は、台湾ドラマのストーリーテリングの質の高さは以前から評価されているものの、「10年前が台湾ドラマの黄金時代だった」と振り返る。現在の視聴者が「アイドルの知名度」で作品を選ぶ傾向が強いことに触れ、韓国や中国に比べて台湾の俳優のプロモーションが限定的である点を課題として挙げた。「出演者の親しみやすさが視聴者の選択基準。台湾のコンテンツプロバイダーにはベトナム国内でのプロモーションキャンペーンへの支援を期待したい」と述べた。
今後の協力形態について、アストロのリー氏は、単なるコンテンツの買い取りという一方的な関係から、共同制作の拡大などを通じた双方向の取り組みへの進化を提言。そうすることで、台湾コンテンツの東南アジア市場における長期的かつ継続的な提供が可能になるとまとめた。







