映画やアニメ作品の“パイロットフィルム”に特化した映画祭「渋谷パイロットフィルムフェスティバル(Shibuya Pilot Film Festival)」が、12月14日に渋谷シネクイントで開催された。
パイロットフィルムとは、映像作品の企画段階で試験的に制作される短い映像のこと。企画書や脚本など、文字の資料だけでは伝えきれない企画のコンセプトや魅力を伝え、資金調達や制作チームを集めるためなどに制作されるケースが多い。そのため、公に公開される機会は極めて少ない。
同映画祭では、実際の上映にこぎつけた作品のみならず、実現しなかった企画のものや、映画化に向けて進行中の作品のパイロットフィルムを集めて上映した。さらにはトークショーも充実。本稿では、映画プロデューサーを務めるふたり、K2 Picturesの紀伊宗之氏とNOTHING NEWの林健太郎氏が登壇した「プロデューサーが見据える映画の未来」のセッションのレポートをお届けする。
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映画プロデューサーが考えるパイロットフィルムの有効性
紀伊氏は今年、東映を退社して新たなプロダクション「K2 Pictures」を立ち上げた。東映時代には『孤狼の血』や『シン・仮面ライダー』、『十一人の賊軍』などの話題作を手掛けたことで知られる。新たな会社を立ち上げたのは、日本映画の興行から製作にいたるまで、業界が抱えるさまざまな課題を自分なりのやり方で変革するためだという。シンプルに映画のプロデュースをするだけなら東映に残った方がよかったが、日本映画をもっと世界に届けたり、クリエイターに利益をより多く配分できたりするような仕組みを作れないかと考え、新会社でそれらの実現を目指している。
林氏は、大手映画会社を離れ映画会社「NOTHING NEW」を立ち上げた。今年発表した短編ホラー映画『NN4444』がミニシアターで満席続出のヒットを記録。現在30代の林氏は、自分と同世代や下の世代の作家たちと世界を目指すオリジナル作品を作りたいという動機で会社を立ち上げたそうだ。大手映画会社に勤めていた時、若手作家が1本目の長編に挑戦できる機会が限られていると感じ、新しい才能との挑戦を軸とした、新たな映画製作の環境づくりを目指しているとのこと。
パイロットフィルムに関して、紀伊氏は『十一人の賊軍』の製作前にビデオコンテを制作した体験を話してくれた。2時間30分の絵コンテを動画にして台詞を収録、東映の重役に見せたところ、企画が動き出したという。紀伊氏は、アニメの絵コンテ作りを参考に、大作映画で予算がかかる作品であれば、同じことをやるべきだと考えたという。
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また、紀伊氏は大きな映画会社だと決定権を持つ人に映画製作の経験がない場合もあり、シナリオだけでは企画の面白さを伝えきれないことがあるため、映像にして見せた方が話はスムーズに進みやすいと語る。こうした試みは、日本の実写映画ではまだ珍しいという。
林氏は短編の製作から始めているが、それらをある種のパイロットフィルムとして位置付けており、長編企画の実現を目指している。短編製作を通じて監督と企画がマッチしているか確認ができるほか、それらの作品は監督たちの名刺代わりにもなる。林氏は、大手の会社には大手の論理があるので、それは理解できるとする一方、新たな才能をフックアップする仕組みを作る必要があると考えているという。ミニシアターで短編映画を公開し、劇場に多くの人を集めることができた経験から、パイロットフィルムを上映して、製作を実現させる方法もあるかもしれないと語る。
紀伊氏は、K2 Picturesではファンド形式で映画の製作資金を集めようとしている。パイロットフィルムを作り、それを公開して一般の投資家から資金を集めるやり方もありかもしれないと語る。制作資金にお金を出した人はかなりの確率で映画を見に行くと考えられるからだ。今後は宣伝とファイナンス、製作を一体にして動かしていく必要があるという。
林氏も紀伊氏に同意し、実際にパイロットフィルムを映画館の大画面で見るとすごく良いものに感じられたそうで、これをプロモーションと同時にファイナンスにつなげていくことにも可能性を感じたようだ。
日本映画がより海外に進出するためには?
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続いて、話題は海外進出に移る。紀伊氏は、今は考えられないほどの日本ブームだと言い、様々な国の制作者から一緒に日本で制作したいと声をかけられるそうだ。そして、そうした制作者たちが望んでいるのは、日本固有の文化に根差したドメスティックなものだという。かつて、紀伊氏は香港スターのチャウ・シンチーに、日本には空手や柔道、合気道など多くの武術があるのに、なぜそれを活かさないのかと指摘されたことを明かした。
林氏は、ロッテルダム国際映画祭のプロデューサープログラムに参加した経験を語ってくれた。映画祭のマーケットには多くの会社が来ているので、英語力と営業力があれば門戸は開けると実感したそうだ。その時、スマホですぐにパイロットフィルムを見せられるようにしておくのは重要だと語る。また、映画祭のマーケットで若手の日本人を見かける機会は少ないと振り返り、紀伊氏は日本の映画人に英語力を持つ人材が少ないことを指摘した。
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英語力の足りなさをカバーするという意味でも、映像で企画の良さを伝えられるパイロットフィルムは、むしろ日本人にとって有効かもしれない。そんなことを実感させるトークショーだった。