ティルダ・スウィントンが語る、作品の中での“存在感”と役作り【CHANEL & CINEMA – TOKYO LIGHTS②】

シャネルのプロジェクトにて、ティルダ・スウィントンが自身のキャリアや役作り、作品の中での“存在感”についてなど、是枝裕和監督と1時間30分に渡りトークを繰り広げた。

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ラグジュアリーブランドのシャネルは映画監督・是枝裕和氏とともに「CHANEL & CINEMA – TOKYO LIGHTS」を立ち上げた。

シャネルは本プログラムの一環として、映画業界の未来を担う人たちに教育の機会を提供するマスタークラスを開催し、都内で11月27日・28日の2日間に渡り行われた。

Brancでは本イベントの様子をセッションごとにレポートしていく。



「CHANEL & CINEMA – TOKYO LIGHTS」ではインロトダクションに続き、ティルダ・スウィントンと是枝裕和監督によるトークが開催された。


スウィントンは映画業界でのキャリアを監督からスタートし、映画が興行化される前から親友や仲間と共に、自由に撮影する環境で育った。自由度が高い映画制作は資金もなければ予算もなく、利益も生み出さないが、アートの世界を広げる開かれた環境であったと振り返る。「自分の故郷はインディペンデントなのです」と語るスウィントンは、いちシネフィルとして、映画スタジオがどのように機能しているのか、あるいはしないのか。また、一つのアイデアを多くの人が何年もかけて成熟させていく仕組みに興味を持ち、商業映画にもかかわるようになったという。

スウィントンは自身のことを“俳優”ではなく、“フィルムメーカー”と呼ぶ。その理由は、自ら映画制作のプロセスに最初から最後まで関わるからだ。スウィントンは完成された脚本を観てから現場に入ることは少なく、初期から企画のアイデアをサポートし、映画が公開されてからは観客と話すまで作品と密に関わることを好むという。「私は人生の中でほんのわずかな時間しか演技をしていないし、自分自身を俳優とは呼びません。<~中略~>(演技をしているときは)“パフォーマー”という言葉の方がしっくりくるのです」と話す。

作品の中の“存在感”は自然体でリラックスした状態

是枝監督は「役者を評価するときに“存在感”という言葉で逃げてしまうことが結構あるんです」と話し始め、スウィントンに役者として、作品の中で存在感をどのように構築していくのか質問した。

スウィントンは「まず私が言いたいのは、存在感にはある種の神秘性があるということです。存在感を持っているのは少数の人だけだと考えるなら、誰もが存在感を持っていると私は言いたいです。そして、時に人々は存在感について、まるである種のカリスマ性かのように話します。だけれど私は、“存在感”をリラックスした状態で出てくるものだと位置づけています」と話し、二つの作品の演技を例にあげた。

一つ目は、ロベール・ブレッソン監督の『バルタザールどこへ行く』のロバ。「大好きな映画・パフォーマンスなんです」と話すスウィントンは、本作のロバは自意識がなく、フレームに自分自身を投影して共有しているとし、とても力が抜けてリラックスした状態であると例にあげた。

そして、二つ目にあげたのが、『誰も知らない』の柳楽優弥の演技だ。スウィントンは本作がカンヌ国際映画祭で上映された際に審査員を務めていたが、審査員の中で本作での子どもたちの演技が話題になったという。柳楽優弥の演技について「彼はカメラに完全に身をゆだねていて、私たちは彼の表情を通して感情を共有できました。それがまさに望んでいたことですそして明らかに彼は、彼をリラックスした状態に保つことができる素晴らしい監督と仕事をしていました。なぜなら、12歳の子どもでも自意識過剰になって隠れることは可能だと私は確信しているからです」と話し、是枝監督の仕事を評価した。

是枝監督も、本作を撮影した際は演技指導よりも環境づくりを意識していたそうで、役者を守れる環境を作ることを目指していたと話した。

“好奇心銀行”から実在の人物の所作を引き出す!ティルダの役作り

リラックスした演技をするうえでも、役作りは重要になってくる。是枝監督はスウィントンに役作りのこだわりを聞いた。

スウィントンは、「何年も経った今でも、私には自分なりの速記法やルーティンのようなものがまだありません。でも、私がやっていることは、自分の記憶銀行(my memory bank)や好奇心銀行(my curiosity bank)の中に、私が頼れる実在の人物を見つけようとすることだと思います。それはまるで、地中の奥深くの錨(いかり)のように支えてくれる存在です」とその演技の秘訣を話す。

これらの“銀行”は過去の作品時も使われたと言い、ポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』では監督との食事会をきっかけに、当初は台本になかったキャラクターを一緒に作っていったそう。スウィントンが演じたメイソン総理はナニー(乳母)の声を真似したそうで、「ある朝、メイソン総理がばかばかしい声のナニーによって演じられたらどうなるだろうと考えました。<~中略~> 私はナニーをよく知っていて、彼女の話し方も態度も知っています。だから、私はまったく努力する必要がないのです」と振り返り、実在の人物からキャラクターに反映できる要素を見つけると本番はとても簡単であとは撮影を楽しむことができたという。

また、ウェス・アンダーソンの『グランド・ブダペスト・ホテル』で参考にしたのは自身の祖母だそうで、口紅をはみ出して塗ってしまう仕草やネイルの塗り方、靴などのディテールを入れ込んだ。

2025年1月公開のペドロ・アルモドバル監督作『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』では自分自身が源となったそうで、キャラクターの世の中に対する態度や話し方を自分に寄せていると話し、これらの作品をあげ、具体的な実践例を教えてくれた。

演じるキャラクターにもダブルスタンダードが存在する

トークでは観客からの質問にも答えた。人とのつながりを重要にしているというスウィントンの話を聞き、観客から、「幼少期から人付き合いが苦手で、孤独感を感じる。どうすればうまく人付き合いをやっていけるのか?」という悩み相談があった。

スウィントンは、「こうやって初対面の私に質問して、繋がる勇気を持ってくれたことをまずは讃えたいです」と話し始め、「多くの人々があなたと全く同じ気持ちを抱えているんです。みんなシャイだけれどそのあり方が違うだけです。寡黙で孤立感を感じる人や、シャイだからこそ自己顕示欲が強く前に出る人もいたりします。<~中略~> でも、そうやって自覚があることがあなたの強みになります」

「ほとんどのアートは繋がりとその難しさについてです。特に、スクリーンや舞台で描かれるほとんどのヒューマン・ストーリーはどれだけコミュニケーションが難しいかを描いています」「時には、自分のキャラクター、つまり自分が演じている人物が、その瞬間にどれだけ真実を語っているか、自分自身に問いかける必要があります。キャラクターが100%真実を語ることはめったにありません。キャラクターの中にあるダブルスタンダードを認識することは非常に重要です。そして、自分が演じているキャラクターの矛盾を大事にしながら、それをケアしたり、見せたり隠したりしながら演じるのです」と、演じるうえでのアドバイスも教えてくれた。

グローバルに活躍するスウィントンのフィルムメーカーとしてのキャリアや演技手法、映画制作の話のみならず、人としての在り方についても参考になる話が多く、このように直接かつ具体的に1時間30分に渡るトークを聞けることは非常に貴重な機会となった。

《marinda》

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Branc編集長 marinda

Brancの編集長とアニメ!アニメ!の統括をやっています。好きな動物はパンダです🐼

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