アニメスタジオの地方進出は、地域と業界の課題をともに解決する?高知アニメプロジェクトの取組み

近年、アニメスタジオの地方進出やアニメを活かした地方の町おこし事業が盛んに行われている。そんな流れの中、高知県では高知信用金庫との官民連携で「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」が立ち上がった。クリエイター創出やアニメアワード、さらには大型イベントも開催する本プロジェクトにはどのような可能性があるのだろうか。高知にスタジオを構えるふたりに話を聞いた。

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近年、アニメスタジオの地方進出が増えている。また、地方行政もアニメを活かした町おこし事業を盛んに行うようになってきている。

そんな流れの中、高知県と高知信用金庫の官民連携により「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」が立ち上がった。このプロジェクトでは、アニメクリエイターの育成・発掘・交流を促進し、高知ゆかりのアニメクリエイターを増やすことで、「企業誘致」「雇用創出」「観光創出」の実現を目指すものだ。同時に、アニメ業界の課題、人材不足や働き方改革の解決にも貢献していくという。

高知県は同プロジェクトのもと、アニメ業界の企業誘致を推進。2021年に、スタジオエイトカラーズが同県初のアニメスタジオとして設立された。2023年には、3Dプリンターフィギュア制作などを展開する吉本3Dファクトリーが事業を開始した。また、アニメ作家を支援する「高知アニメクリエイターアワード」やファンが集うイベント「高知アニクリ祭」も今年から開催した。

アニメスタジオが地方に進出する場合、重視するのは地元にアニメを教える教育機関が充実していることや、一定の人口規模があるかどうか等だ。あるいは、東京でスタジオを立ち上げた者が地元を応援するためという動機の場合もあるが、高知県はそうしたパターンには当てはまらないように思える。

高知県にはどんな可能性があるのか、スタジオエイトカラーズ代表の宇田英男氏と吉本3Dファクトリー代表の吉本大輝氏に話を聞いた。

スタジオエイトカラーズ代表 宇田英男氏(写真左)、吉本3Dファクトリー代表 吉本大輝氏(写真右)。

なぜ高知を選んだのか

――宇田さんと吉本さんは、ともに高知県に縁があったわけではないんですよね。

宇田はい。たまたま知人経由で高知県主催のイベントがあると聞いて行ったのが人生二度目の来県だったと思います。その後、色々なご縁があって高知でアニメスタジオを運営することになりました。

吉本僕は兵庫県出身ですが、祖父が香川県出身で四国にはよく行っていました。よく高知にも遊びに行っていたこともあり、距離に対するギャップはそこまで大きくなかったです。

――アニメ会社が地方にスタジオを作る場合、その地域に縁がある人が立ち上げるか、専門学校など教育機関が多い地域に就職の受け皿としてサテライトスタジオを作るパターンが多いと思うのですが、宇田さんや吉本さんの場合、そういうパターンではなさそうですね。

宇田そうですね。僕は昔スタジオコロリドという会社を立ち上げたのですが、その頃からクリエイター不足の問題を感じていて、地方にスタジオを作りたいとは思っていたんです。おっしゃる通り、当初は僕も一定の人口規模でアニメを教える学校があって、行政が協力的な地域を探していました。なかなか決め切れずにいたところ、前述の高知のイベントに行く機会があり、高知を一つの候補としてみてみることになりました。

高知県にはアニメを教えている学校もないし、人口規模も多くないので最初は難しいなと思ったのですが、行政の皆さんが非常に協力的だし、高知信用金庫が100周年記念事業を立ち上げようというタイミングだったので、人的にも資金的にもパックアップをしてもらえそうだという感触を得て高知県を選びました

それに人口は少ないかもしれませんが、高知にはマンガ文化を育てようという県の施策もあったので、クリエイティブに興味がある若い人は一定数いるというのもあります。

――吉本さんの方はどういういきさつだったのですか。

吉本宇田さんが高知アニメプロジェクト一期生とすると、僕は二期生ですね。僕が高知を訪れたのは、2022年の高知アニメクリエイター聖地プロジェクトの立ち上げのカンファレンスに招待していただいたのがきっかけでした。そのカンファレンスには、大手の出版社の方も多数訪れていて高知県が本気でコンテンツ産業に取り組んでいることを肌で実感したんです。

既存のフィギュア事業は、基本的に何個作るか決めて申請してから注文、個数に合わせてロイヤリティを支払うという形ですが、フルカラー3Dプリンターの場合は、注文を受けてから印刷という形で、全く在庫を持たずにグッズビジネスを展開できるのが強みです。これは従来のフィギュア製造・販売の仕組みとは異なる新しいビジネスモデルなので、慎重な検討が必要となります。そんな中、アニメ産業の経営層の方々が高知に集まる機会があることを知り、直接ビジネスを提案できるチャンスになるのではと考え、ここで会社を立ち上げることを決意しました。

地方スタジオ進出が地域の課題と業界の課題をどう解決する?

――これまでも地方自治体による、アニメを活かした町おこし施策は数多くありましたが、高知の場合何が異なるのでしょうか。

宇田地域のアニメ施策は全国に様々なものがあり、聖地巡礼やロケ誘致、イベント開催など素晴らしいものもたくさんあります。高知県の場合は、クリエイターが働きやすい環境を整え、発掘と育成、就労可能な環境を作ろうとしていて、そこが他の自治体とは違うかなと思っています。

地方自治体は、若年層の人口流出に危機感を持っています。例えば、アニメの仕事では地元に機会がなく、東京に人材が流れてしまうという現状があります。それに対して、アニメ産業は地域の課題解決に貢献できるし、アニメ業界側の人材不足の課題にも取り組める。2つがリンクするので、高知県は今、クリエイターを応援すると訴えているわけです。

――先ほどのお話にもありましたが、高知にはアニメを教える専門学校はないですよね。人材をいかにリクルーティングするかも重要になってきますね。

宇田龍馬学園という専門学校にマンガ学科があって、アニメ学科も以前はあったそうですが、高知でアニメ関連の就職が難しいということでいったん閉鎖になったようです。現在高知アニメプロジェクトと連携して教育機会を作っていこうと話しています。

――スタジオエイトカラーズの新規採用に応募はどれくらいあるんですか。

宇田最初の説明会では、4,5人来ればいい方かなと思っていたんですけど、結果として約155人が参加してくれました。基本、アニメを仕事にする場合、東京に行くのがリアルな選択肢ですけど、どうしても東京に馴染めない人や、親御さんが東京にやるのは心配だという場合もあるし、様々な事情がありますから、地方でアニメを仕事にしたいというニーズは潜在的にあるんだと実感しました

――10月から元請け作品『ねこに転生したおじさん』の放送が始まりますね。これにも、高知出身のスタッフもすでに参加されているんですか。

宇田もちろんです。監督は東京在住ですが、アニメーターは高知で活動している人が中心です。一話90秒程度とはいえ、48本あるので、それなりのボリュームだし、スタートしやすい形だと思います。手前みそですが、非常に良い作品に仕上がっています。

吉本高知で造形関係やホビー系の仕事をしたいけれど、会社がないという話もよく聞きます。直近面接した方はモデリングもできるし、専門的な知識を有している人で、潜在的にこういう人材はどこの地方にもいると思うんです。関西圏も人材の獲得競争が激しい状況です。一方、高知では地域に根差した形で人材育成から事業展開まで取り組めるチャンスがあり、それが大きな魅力だと感じています

――今の吉本さんの話は、東京でアニメスタジオをやる時、人材確保の面で直面する課題と同じですね。

宇田おっしゃる通りで、東京では人材の取り合いになっています。

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「GEAR」イメージ図

――やはり自治体のバックアップや助成は重要な要素だと思います。高知はこの辺りはどうなんでしょうか。


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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