第二回新潟国際アニメーション映画祭にて、日本アニメーション学会産業研究部会のシンポジウム「地方から拡がるアニメ産業のミライ・望ましい地方展開の姿とは?――政策・スタジオ・クリエイター・地域」が開催された。
本シンポジウムは、人材不足が指摘されるアニメ業界において、新潟をはじめとする地方に制作体制を整え、人材発掘と確保を試みる会社が増えていることを背景に、豊かな制作環境に必要なことは何か、実際に新潟に拠点を構えるスタジオの代表らを招いてディスカッションするものだ。
登壇者は松本淳氏・森祐治氏・増田弘道氏・長谷川雅弘氏(日本アニメーション学会会員)、内田昌幸氏(新潟アニメーションスタジオ)、荒尾哲也氏(柏崎アニメスタジオ)の6名。
まずは学会員の長谷川氏から、アニメ制作会社の地方進出状況の概況が説明された。アニメの制作会社は全国で811あり、そのうち東京都内に692もの会社が集中しているという(2020年時点)。新潟県には5社のアニメ会社が本社を構えており全国で7番目に多いとのことだが、2023年以降に3社ほどが県内で新設されており、増加傾向にあるようだ。また、新潟県にはProduction I.G新潟スタジオやエイトビットなど在京会社の支部もある。
全体的にアニメ会社の全国分散が進んできているようで、5年以内にスタジオを地方に新設、または今後新設を考えているかの質問に対して52社中19社が新設したか検討しているという回答だったという。
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地方にスタジオを構える時に重視することは、インフラに移転費用、人材の確保や行政の支援があるかどうかという回答が多く見られるという。人材確保・発掘に関して、アニメーター不足への対応や現地教育機関からの採用などの言及が見られるとのこと。一方で、地方スタジオで指導をする中核人材の確保が重要であるとも言及された。
「新潟発」アニメ制作スタジオ2社の取り組み
続いて、新潟アニメーションスタジオの内田氏から人材育成への取り組みの発表があった。
同スタジオは、2014年に仕上げ専門の会社として創業、2021年に作画部を設立し内田氏がそのタイミングで就任、現在は作画5名、仕上げ12名、制作2名体制だそうだ。
新潟にスタジオを設立した理由は、地域が昔からマンガやアニメ関連のイベントに力を入れていることに加え、2000年に誕生したアニメ・マンガ専門学校の卒業生の就職先が東京にしかない状態を改善するために立ち上がったとのこと。地元サッカーチーム、アルビレックス新潟のオリジナルアニメを制作するなど地域密着で業務をしているそうだ。
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人材育成への取り組みとしては、指導者人材の確保が難しく、対応策として開志専門職大学アニメ・マンガ学部と連携し、採用から実践指導まで一貫した体制を構築、東京の元請けスタジオとも提携するようにしているとのこと。東京のスタジオも同様に育成に課題を抱えているため、育成できたところで優先的に提携スタジオの仕事を受けるという連携をとっているそうだ。
次世代の人材育成について、首都圏の大手スタジオは教育機関と連携していて、それができない会社は不利になるが、新潟は県内に29校専門の教育機関があるので、その弱点を補えると内田氏は語る。また新潟の行政支援は資金的にも手厚いので、首都圏のスタジオと連携することで育成を活性化できるのではと語った。
続いて、柏崎アニメスタジオの荒尾氏が発表。荒尾氏は地方ならではの人材発掘と仕事の創出の実践について語ってくれた。荒尾氏は、柏崎にアニメスタジオを作った理由について、町の緩さが良かったという。東京は常に競争する空気があるが、ここにはそういう空気はなく、この環境で成長できる人材もいるようで、実際に東京から柏崎に指導役として来た人材も、東京時代よりも成長しているという。
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また、地方ならではの仕事の創出について、地元のニーズに応えることで東京にはない仕事を生めるという。その実践として、柏崎商工会議所らが出資する「とびだせ!」シリーズを制作した。これは柏崎の町が持つ余裕や遊び心を見せる目的で制作されたという。こうして地元で生まれた仕事を請け負い、人を育てていくことで地場にも好影響を与える循環を創り出していけるのではと荒尾氏は語る。
こうした地元の仕事とともに、メジャーな仕事も並行して請け負い、東京だけでなくアニメを志す者が新潟でも夢を見れるような環境を作ることを目指しているという。
地方アニメスタジオが自立するための条件とは?
続いて、学会員の森氏のプレゼンでは、地方アニメスタジオがその地域で産業として自立するための条件についての考察が発表された。