2023年日本のアニメ産業の市場規模は初の3兆円を突破 シンエイ動画とトムスが語る海外戦略とさらなる売り上げ増のために必要なこと

TIFFCOM 2024にて、「日本のアニメーションの海外展開、未来への展望」と題したセミナーが開催された。2023年の日本のアニメの海外売上情報が世界で初めて公開され、積極的に海外展開を行うシンエイ動画とトムス・エンタテインメントがその取り組みを紹介した。

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「日本のアニメーションの海外展開、未来への展望」
© TIFFCOM 2024 「日本のアニメーションの海外展開、未来への展望」
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東京国際映画祭と並行して開催されるアジア最大級の映像コンテンツマーケット「TIFFCOM 2024」にて、「日本のアニメーションの海外展開、未来への展望」と題したセミナーが開催された。

日本アニメの人気が世界的に高まる中、2023年の海外売上高の速報が発表され、海外展開を積極的に行っているアニメ制作会社のトムス・エンタテインメントとシンエイ動画がその戦略を語った。

※UPDATE(2024/11/01 18:28):タイトル・本文の言い回しを一部調整しました。

2023年は前年比114%の大幅増

最初に、ビデオマーケット顧問で、アニメ産業レポートの編集統括を務める増田弘道氏から、2023年の日本アニメ市場規模の速報が発表された。

増田弘道氏。© TIFFCOM 2024

2023年は、前年対比で114%増の3兆3,465億円を記録。統計開始以来、初めて3兆円を突破した。

内訳として、海外からの売り上げが51.5%で国内を上回る。次いで商品化が20.9%、遊興10.1%、配信7.5%、ライブ3.2%、テレビ2.9%、ビデオ1.1%、音楽0.8%と並ぶ。海外の売り上げは配信や商品化など全ての売り上げを含んだ数字だ。

海外の売り上げが国内を超えるのは、2020年以来これで2度目となる。2023年に関しては国内市場も伸びているが、海外の伸び率がそれを上回った。

日本政府は、アニメやマンガ、ゲーム、映画などコンテンツ産業を国の基幹産業と位置づけ、官民連携で人材育成や環境整備、海外展開を支援していく方針を固め、2033年までに海外で20兆円の市場規模を目指す目標を掲げた。その目標を達成するためにはアニメ産業は年間5,000億超の売り上げ増が必要となる。2023年は大幅増を記録したが、これでもまだ4,188億円のアップであり、毎年5,000億円を達成するには、「国を挙げて(の支援を)考えないといけない」と語った。

増田氏は、こうしたコンテンツ産業の盛り上がりは2002年の小泉政権時代に掲げられた「知財立国宣言」に始まったものだという。長期的な取組みがようやく実を結びつつある実感をにじませた。

フランスと『化け猫あんずちゃん』を共同製作したシンエイ動画

海外での日本アニメの売り上げが大きくなる中、アニメ制作会社も海外に活路を見出そうとしている。セッションの後半では、『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』で知られるシンエイ動画の梅澤道彦代表取締役社長と、『名探偵コナン』で知られるトムス・エンタテインメントの上席執行委員・吉川広太郎氏が登壇し、両スタジオの海外展開についてプレゼンした。

シンエイ動画は、今年フランスのMIYUプロダクションと共同製作した映画『化け猫あんずちゃん』を公開した。2018年の新千歳国際アニメーション映画祭で久野遥子監督とMIYUのプロデューサー・エマニュエル=アラン・レナール氏との出会いから始まったこの企画は、3年かけて脚本をデベロップし、実写を撮影しアニメーションを作る「ロトスコープ」という手法で制作。フランス側で背景、レイアウトと原画はシンエイ動画が担当した。

本作は、カンヌ国際映画祭監督週間に出品、さらにアヌシー国際アニメーション映画祭のコンペティションにも選ばれるなど高い評価を受けている。これまで26の映画祭に招待されており、今後も増える予定だという。フランスでは今年8月に192館で公開されたそうだ。

本作の製作費は、日本とフランスで分担しあっている。日本の権利は製作委員会が、フランスの権利はMIYUが持っている。両国以外の権利窓口はシンエイ動画が持つが、セールス業務をMIYUに委託するという形が取られたという。


シンエイ動画は、その他様々な作品の海外展開を行っている。『ドラえもん』と『クレヨンしんちゃん』は世界的に知名度が高いキャラクターだが、近年、『あたしンち』が台湾や韓国、インドで人気を博しているそうだ。インドではディズニー傘下のハンマガTVというチャンネルで放送されているという。

その人気に目を付けて新作『あたしンちNEXT』をYouTubeで配信。英語、韓国語、中国語、スペイン語、インドネシア語の字幕に対応し、今年6月から9月でチャンネル登録者数は57.5%増加したという。

海外で展開しているのはドローイングのアニメだけではない。ストップモーション作品『PUI PUIモルカー』は、台湾で大きな反響を呼び地上波放送もされた。台湾公式のYouTubeチャンネルでは1期の第1話の再生回数が1,000万回を超えたという。また雑誌『ビッグイシュー韓国版』の表紙を飾ったり、New York Timesで記事が掲載されるなど、注目を集めているとのこと。

また、韓国の大元メディアと『MUZIK TIGER』の共同制作も行っている。韓国のMZ世代(ミレニアル&Z世代)に人気のあるキャラクターだそうで、ショートアニメーションを全30話制作予定とのことだ。

海外に営業拠点を持つトムス・エンタテインメント

トムス・エンタテインメント吉川広太郎氏。© TIFFCOM 2024

トムス・エンタテインメントは、近年他社作品のプロデュースにも力を入れている。「UNLIMITED PRODUCE プロジェクト」のもと、外部スタジオとの協業を強化。『アオのハコ』『アンデッドアンラック』『バイオハザード:インフィニット ダークネス』などをこれまでに手掛けている。

トムスはロサンゼルスとパリに営業拠点を構えている。アニメ制作会社が自ら海外に営業支社を構えるのは珍しいケースだ。この2拠点と東京オフィスで、世界各国の映画配給会社に配給協力し、国ごとに宣伝プランを練っているのだそうだ。

そうした地道な営業努力によって、トムスの海外ライセンスの売り上げは年平均30%の成長率だという。これは、日本アニメの海外売り上げ成長率を上回っているとのこと。

旧作の上映にも力を入れており、『名探偵コナン』の過去作や、『ルパン三世 カリオストロの城』を中国で公開する予定だという。今後は商品化やゲームビジネスにも力を入れていきたいのことだ。

セッションはクロストークに移る。


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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