『PERFECT DAYS』トークイベントが開催。高崎卓馬が語る、“素人”だからこそたどり着いた日本映画の新たなカタチとは?

ヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』のUHD/Blu-ray/DVD、書籍の発売を記念して特別トークイベントが開催。

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映画『PERFECT DAYS』トークイベントより
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ヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』のUHD/Blu-ray/DVD、書籍の発売を記念して特別トークイベントが開催された。

映画『PERFECT DAYS』は、『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』など数々の傑作を世に送り出し続けてきた名匠ヴィム・ヴェンダースが、長年リスペクトしてやまない役所広司を主演に迎え、東京・渋谷の公共トイレ清掃員の日々を描いた物語。

第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したことを皮切りに、第50回テルライド映画祭、第48回トロント国際映画祭、第71回サンセバスチャン映画祭、第60回台北金馬映画祭と名だたる映画祭に招待された。また、米国アカデミー賞では国際長編映画賞・日本代表としてノミネートされ世界中の注目を集めた。

8月14日(水)に代官山蔦屋書店にて行われたトークイベントには、高崎卓馬氏(共同脚本・プロデュース)と伊藤さとり氏(映画パーソナリティ・映画評論家)が出席し、特別ゲストとして企画・プロデュースの柳井康治氏もサプライズで登壇。

本作の企画段階では、柳井氏と高崎氏がヴィム・ヴェンダース監督に手紙を書いてアプローチをしたそう。高崎氏は「通常通り企画書を送って正式なルートで送ってしまうとどうしても“仕事”になってしまうので、手紙を送りました。手段として使うというよりは、“僕たち二人は最後まで逃げませんよ”という印だと思っています。幸いにも、僕も柳井さんも映画業界の人間ではなく、作り方や映画作りの常識を持っていなくて、“あなたと一緒に作りたい”ということだけだったので、ヴェンダース監督のやり方に合わせることができ、その点はとても良かったのかなと思っています。結果的に最後まで逃げなかったですしね」と笑いながら振り返った。

また、当時を振り返って高崎氏は「柳井さんはちょっとおかしいんです(笑)今まで出会った人の中でも抜群にフットワークが軽いというか、行動範囲が広い」と言い、手紙を送ったあと知らぬ間に柳井氏がヴェンダース監督に会いに行っていたという驚きのエピソードを話した。柳井氏は「監督と手紙でコンタクトが取れ、リモート上でもお話はできたけれど、本当にやってくれるかどうかは不安でした。直接会って話せば、“とりあえず日本に行くだけ行くか”って思ってくれるかなと。そういう思いもあって会いに行きましたね」と振り返った。

「カンヌ国際映画祭にも行き、日本映画の現状を知っていかがでしたか?」という伊藤氏の問いに対して、柳井氏は「“素人”なので日本映画の何がいい悪いは本当の意味で分かってはいないけれど、やり方は一つだけではないことは確かだと感じました。普段自分が働いているときもそうで、一日として同じ成績になることはないし、このやり方じゃないとダメだというこだわりはない。特に人と仕事するときは自分の感情だけではどうしようもないですし、映画はこういうものというのがあっても、必ずしもそうしなければいけないというわけではないと思いました」と答えた。

高崎氏は「功を奏したのは、ヴェンダース監督も同じだったこと。“いつもこうやって映画を作るんですか?”と聞くと、“毎回違う”と答えるんです。ヴェンダース監督は自分の作りたいことを企画書にはしないし、企画書にしたとしてもその内容には縛られない。本作も映画作りのメゾットや海外での映画の作り方とも逸脱している。そういう人だったから、僕たちの何も知らないゼロから考えるスタンスと合っていたと思います」とヴェンダース監督とのタッグの秘訣を明かした。

さらに伊藤氏から、これまでにないかたちで出来上がった本作について「本作のポスタービジュアルは今の邦画ではあまり見ないビジュアルで、海外の映画祭で並んでいるようで最高に素晴らしいと思いました。さらにそこにヴィム・ヴェンダース監督の名前が載っている。“今きっと日本の映画の製作の人たちがやってみたかったこと”を真っ先にやっているなと思ったんですよ。お二人は今後どんなものを作るんですか?」と真っすぐな質問が。

柳井氏は「”映画”が作りたい、という気持ちが先だってあるわけではなくて。この映画との出会いもThe Tokyo Toiletというトイレのプロジェクトがあったからこそでした。『PERFECT DAYS』が各国の映画祭など色んなところに連れて行ってくれていたこともあり、そもそもの目的を忘れがちになりますが、次なにかこのように映像作品に関わることがあるとすれば、まずしっかりとした理由がないといけないなと思いました」と答え、高崎氏は「いろんなアウトプットがあって、今回様々な条件が重なって最適なものが映画という形でした。もしかしたらそれが写真集だったかもしれないし、小説だったかもしれない。一生懸命考えた結果が映画だったら、また映画をやるかなと思います」と話した。

高崎氏はカンヌ映画祭から始まり、これまで監督や役所広司氏が受ける取材の数々を見てきたが、「監督も主演の役所広司さんも映画の主題については絶対に触れない」のだそう。続けて「やっぱり映画は観た人が感じるものだから、そこを作り手が言っちゃうのは良くないんですよね。広告の仕事をしていると、千人見たらできるだけ誤差なく同じ気持ちになってもらう為の表現を作るのが大切だけれど、映画はそうじゃなくて、千人見たら千人違う受け止め方があって良い、というのが一番大きな学びでした。映画をつくりつづけるためには、ビジネスとして成功することを目指す必要はやっぱりあります。それを否定することだけでは新しいものは生まれない。産業として成り立つ方法と、いい映画をつくることがどうすれば両立できるか。そこからは逃げずにやるしかない。なんつって映画の人間ではないんですけど」と日本映画の将来を見据えながら、最後は少しおどけて回答。製作に携わった2人ならではの話に熱心に耳を傾けていた参加者たちからの質疑応答も終え、大盛況でイベントは幕を閉じた。

映画『PERFECT DAYS』トークイベント概要

【日時】8月14日(水)19:00~20:10
【会場】代官山 蔦屋書店(渋谷区猿楽町17−5 代官T-SITE)3号館2階シェアラウンジ内
【登壇者(敬称略)】高崎卓馬(共同脚本・プロデュース)、柳井康治(企画・プロデュース)、伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)

《Branc編集部》

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