Branc(ブラン)編集長のmarindaが若手業界人とラフにおはなしする「【Next-Gen】若手業界人とおはなし」の第4弾。
今回は、配給会社トランスフォーマーで宣伝を務める堀内音々さんにインタビュー。堀内さんが宣伝プロデューサーを務める映画『クレオの夏休み』が公開を控える中、これまでのキャリアや作品への思い、宣伝秘話を伺った。
🌻クレオの夏休み<あらすじ>
2023年カンヌ国際映画祭<批評家週間>オープニング作品。
父親とパリで暮らす6歳のクレオは、いつもそばにいてくれるナニー(乳母)のグロリアが世界中の誰よりも大好き。しかしある日、グロリアは遠く離れた故郷へ帰ることに。突然の別れに戸惑うクレオを、グロリアは自身の子どもたちと住むアフリカの島国カーボベルデの家へ招待する。そして夏休み、クレオは再会できる喜びを胸に、ひとり海を渡り彼女のもとへ旅立つ。
大学卒業からトランスフォーマーで働くまで
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――トランスフォーマーでの業務に至るまでの堀内さんのご経歴からお伺いしたいです。
トランスフォーマーは2社目で、新卒で入社したのはテレビ局の子会社の制作会社でした。私はテレビ局の中の映画の部署に二次利用担当スタッフとして入って、親会社のテレビ局製作の邦画を販売するコンテンツビジネスの仕事を3年ぐらいやりました。
――二次利用というのは主にDVDなどですか?
BS・CS局といった有料放送や、配信です。映画が劇場公開されてある程度経ってから、次の段階としてタイミングを調整しながら各サービスに売り出して映画を展開していく形でした。
――タイミング的にはコロナ禍真っ只中の時期でしたか?
そうですね。コロナ禍になる前に2年ぐらいやって、コロナ禍に入って1年ぐらいその仕事をしていました。
――配信サービスが現れて、業界の変化を感じられるタイミングで、その業務に携わっていたんですね。
本当に変化をすごく感じました。これまでのリズムがガラッと変わってしまって。そもそも新作映画が予定通りには劇場公開できなくなってしまうような状況でした。そうすると劇場公開を待たずにテレビや配信にいきなり出すかもしれないという話になってきたり、家やテレビで配信を観る需要も急増していたので、急にすごく高い金額でやり取りするようになってしまったんですね。だから、コロナ禍で急激に売上や市場が変化した瞬間を見てしまった……みたいな感覚でしたね。それまで数百万円とかで売っていた作品が急に何倍もの金額になったりして。
――そんなに変わるんですね!そもそも就活の段階ではエンタメ業界や映画業界を広く見られていたんですか?
そうですね。ミニシアター系の海外作品が好きな映画オタクという感じで、「なんでもいいから映画の仕事をしたい」と思っていたんです。大学では映画サークルに入っていたんですけど、そこで代々受け継がれている小さい映画配給会社のインターンの枠があって。それに参加して、会う人みんなに「なんでもいいから映画の仕事をやりたいんです」と話をしていました。
ミニシアター関連の仕事をしたくても新卒で入るってなかなかできないし、映画と関わるにはどういう仕事があるんだろう……って思っていたら、たまたまテレビの制作会社がコンテンツビジネス部で人を探していると聞いて紹介してもらいました。テレビ局子会社での仕事は最初こそ“ミニシアター業界の仕事には就けないけど映画の仕事ができる”っていうちょっと遠回りの感覚だったんですけど、テレビ局の大作映画にいきなり触れたのは衝撃で面白い体験でしたね。プロデューサーがいる部署だったので、制作の様子も間近でみられて楽しかったです。
――2社目のトランスフォーマーさんへ転職を決めたタイミングはいつだったんですか?
コロナに入ってから急に在宅勤務になったんです。そうすると、当時みんなそうだったんじゃないかと思うんですけど、「この先どうなっていくんだろう」とか「私ってどうなるの?」って1人で考える時間が増えて。待っていた映画も上映延期になっちゃって、映画館は経営難っていうニュースを見た時に「いつか映画の配給の仕事をしたいって思っていたけど、その仕事もなくなってしまうんじゃない?」という不安な気持ちになって。だからこそ、やるなら今だって思ったんです。1社目の会社は上司に恵まれていてすくすく育ててもらっていたので、もしコロナがなくて、劇場公開のリズムも今まで通りだったら、そのまま続けていたかなと思います。
熱い想いが詰まった『クレオの夏休み』との出会い
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――7月12日(金)公開の『クレオの夏休み』とはどのように出会ったのですか?
『クレオの夏休み』はカンヌ国際映画祭の批評家週間に出ていた作品です。弊社は買い付け作を担当問わずみんなで観て決めるのですが、私はその年は現地に行っておらず、話題になっていると聞きつけてオンラインで観ました。夜に家で観ていたんですけど、感動しすぎてこんなに泣くことある?ってくらい号泣してしまって。「こんなに特別で素敵な作品は他にありません」と、勢いでグループチャットに送ったら、「いいね」って国際担当も動いてくれて、うまく話がまとまって配給できることになりました。
私は宣伝担当ですが、『クレオの夏休み』を買った当時は、まだ自分ひとりで宣伝プロデューサーをやりますと進んで言えるような段階ではなかったんです。でも「あなたが一番気に入っているんだから、あなたが宣伝するのがいいと思うんだがどうだ」と言ってもらえて、「はい!」って(笑)。
――私も映画を拝見させていただきました。クレオがアフリカの島国・カーボベルデに行って、乳母だったグロリアには家族がいるということに気づく瞬間など、細かい描写に心が動かされました。
最初に観て感動した理由が“共感”だったんですよね。自分だけの世界にいてくれる人だと思っていたのに、その人には自分がいなくてもいい世界があって、自分には知らない一面があることを知る。なかなか厳しい話でもありますよね。初めての社会との出会いというか、結構ショックだと思うんです。
私も、小学生の時に先生が携帯電話の後ろに彼氏とのプリクラを貼っているのを見て、“先生”っていう生き物だと思っていたけどこの人には私の知らない人生があるんだって、すごいショックを受けたことがあるんです。お母さん、おばあちゃんとか、兄弟でもいいんですけど、そういう自分じゃない他者を認識するっていうのは人間として大きな一歩で、それを6歳で経験するなんて……って。この映画がシンプルな感動映画や、子どもが可愛い冒険映画という枠に収まらない特別なところかなと思います。