政府は今度こそコンテンツ産業の人材支援に向かうか。是枝監督も提言した新しい資本主義実現会議の内容とは

4月17日、総理大臣官邸2階大ホールにて、「第26回新しい資本主義実現会議」が開催され、『怪物』の是枝裕和監督や『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督が出席した。今回の会議ではクリエイター支援に焦点が当てられ、さまざまな視点から議論が繰り広げられた。

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政府は今度こそコンテンツ産業の人材支援に向かうか。是枝監督も提言した新しい資本主義実現会議の内容とは
Photo by Andrew Harnik/Getty Images 政府は今度こそコンテンツ産業の人材支援に向かうか。是枝監督も提言した新しい資本主義実現会議の内容とは

4月17日、総理大臣官邸2階大ホールにて、「第26回新しい資本主義実現会議」が開催された。『万引き家族』や『怪物』で知られる是枝裕和監督や『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督が出席したことなどがすでに報じられている。

新しい資本主義実現会議は、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとし、新しい資本主義を実現していくことを目指すもので、2021年10月に閣議決定された。この26回目のテーマは「官民連携によるコンテンツ産業活性化戦略」だった。

政府機関によるコンテンツ産業支援は、長らく上手くいかなかった分野である。2010年から始まった「クールジャパン」推進は、巨額の赤字を出しながらあまり成果を上げられず、日本のクリエイティブを支える人材に支援が向かわなかったことが指摘されている。

そういう歴史を踏まえてか、今回の会議ではコンテンツ産業の支援として、第一にクリエイターの支援をすることを掲げている。日本のコンテンツ産業支援はようやく人材支援に向かうだろうか。

会議の主要論点はクリエイター支援

内閣官房のホームページに、この日提出された資料が閲覧できるようになっている。是枝監督以外の出席者の資料にも、軒並み人材に関わる文言が入っていることは注目に値する。

日本総合研究所の翁百合委員は、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)と日本動画協会の資料を引用し、アニメ業界の若年層の賃金が低く待遇改善が必要であることを指摘、アニメスタジオへの利益配分が著しく低いとも言及している。(※1:内閣官房

渋澤委員の資料は、コンテンツ産業の活性化は「人」に焦点を当てるべき、という一文から始まる。日本労働組合総連合会の芳野友子会長の資料では、芸能関係のフリーランスの長時間労働の常態化や契約内容の曖昧さでフリーランスが不利な立場に立たされていることを指摘し、実態を踏まえたガイドラインの策定や施策強化を求めている。

その他の委員の資料も概ね、人材への投資が必要であるという内容が含まれており、総じて今回の会議はコンテンツ支援とは「人」の支援であるということを踏まえた内容になっていると言える。

公取が会議に参加している理由とは

この会議には、公正取引委員会も出席し資料を提出している。「クリエイター支援のための取引適正化に向けた実態調査」と題されたこの資料では、今年の4月から、芸能分野の取引実態を把握するため、レコード会社や放送事業者、芸能事務所などを調査をして年内に公表する予定であることが記されている。

それに伴い公取の公式サイトに、「移籍・独立を妨げられた、一方的に契約更新された、移籍・独立後に芸名や写真の使用を制限されたなどの情報はございませんか?」という呼びかけとともに情報提供フォームも設置された。(※2:公正取引委員会

これは、昨年の旧ジャニーズ問題でも指摘されたように、個人のタレントが不利な立場に立たされる状況を是正するためのアクションだろう。この会議に公取が出席し、個人のクリエイターに不利な契約実態をあぶりだすという内容の資料を出している意味は大きいかもしれない。この会議の本部長は岸田総理であり、行政のトップの指揮下に置かれている会議だ。

岸田総理は、会議で次のように発言している。

「アニメ・映画・音楽・ゲーム・漫画・放送番組といったコンテンツは、我が国の誇るべき財産です。そして、技術進歩によりコンテンツの競争力の源泉は、クリエイター個人に移りつつあります。
 他方で、制作現場の労働環境や賃金の支払といった側面で、クリエイターが安心して持続的に働くことができる環境が未整備です。我が国のクリエイター個人の創造性が最大限発揮される環境を整備する必要があります。
 公正取引委員会の協力の下、契約を適正化するため、実態調査を行い、結果を踏まえて、優越的地位の濫用を防止し、それに反する行為は独占禁止法に抵触するおそれがあることを示す指針の作成を図ります。」(※3:首相官邸

コンテンツ競争力の源泉がクリエイターという「個人」であると明言され、不利な契約状況を是正できるように取り組むと明言している。

人材支援と海外市場拡大はセットで検討する必要

しかし、クリエイターの支援を公的資金で充当すればそれで問題が解決されるわけではない。この日の是枝監督も現場の人材にお金をくれと、それだけを求めているわけではない。

この日の会議には、現在の日本コンテンツの海外市場規模を示す資料が基礎資料として提出されている。この資料を見ると、日本のコンテンツ産業で輸出の大部分を占めるのは、ゲームとアニメであることがわかる。


《杉本穂高》

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映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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