過日、サウジアラビアに鳥山明のマンガ『ドラゴンボール』を主題としたテーマパークが建設されることが発表された。このニュースは日本国内で大きな反響を起こし、マンガ・アニメファンのみならず、業界関係者の中でも大きな話題となっている。
近年、サウジアラビアがアニメやマンガへの投資を拡大させていることは日本でもしばしば報じられている。3月下旬に開催されたAnimeJapan 2024でも、『ドラゴンボール』のテーマパーク建設を発表したキディヤ・インベストメント・カンパニーと、東映アニメーションと共同でアニメを製作しているマンガプロダクションズといった同国の企業がブースを出展し、異彩を放っていた。
「なぜ、サウジアラビアはアニメに投資を?」と疑問を持つ人もいるかもしれない。だが、同国が投資を加速させているのは、何もマンガやアニメだけではない。あらゆるエンターテインメント産業を成長させ、コンテンツ立国となることを国家戦略として掲げているのだ。
サウジ・ビジョン2030
2016年4月サウジアラビア政府は、石油依存の経済体制から脱却するための多様なフレームワークを構築することを目指す「サウジ・ビジョン2030」を発表した。これは経済や文化的な多様化を促進させ、石油ビジネスに依存しない新たな国作りを指向するものだ。
包括的な国作りの指針を示すこの資料によるとサウジアラビアは、「国内における文化・娯楽活動への支出を、総家計支出の2.9%から6%に引き上げる」ことを目標とし、そのために「文化、娯楽活動の促進」を政府支出により推進していく旨が以下のように宣言されている。
「国家では地域、行政区域、非営利および民間部門における文化イベントの開催を奨励しています。また政府資金の拡充を図るとともに、国内外の投資家誘致、国外のエンターテインメント企業とのパートナーシップ締結なども進めていく予定です。文化・娯楽プロジェクトに必要な土地は政府より提供し、才能ある作家、文筆家、映像監督などへのサポートも充実させます。また図書館、芸術作品、美術館・博物館などの文化施設、各人の嗜好に応じたさまざまな娯楽活動も充実させたいと考えています」(※1:JETRO)
このビジョンをもとに、サウジアラビアは文化産業を急成長させるため、色々な分野に政府資金を投入して拡充を図っている。サウジアラビア娯楽省は2028年までに文化産業に最大640億ドルを投資する意向を表明している(※2:JETRO)。
ちなみに、「サウジ・ビジョン2030」では、同国の発電に占める再生可能エネルギーの割合を50%まで向上させることも目標に掲げられている(※3:JETRO)。気候変動の危機に対応するための脱炭素の動きが世界で加速しているが、世界有数の産油国であるサウジアラビアにとって、石油に頼らない産業構造への転換は国の将来に関わる重大事なのだろう。
ゲーム大国、映画大国を目指すサウジ
コンテンツ投資マネーの行先は様々だが、とりわけ目立つ投資先はゲームだ。
2022年9月、サウジアラビア政府は「国家ゲーム・eスポーツ戦略」を発表。サウジアラビアをeスポーツの中心地とすることや、国内ゲーム会社を250に増やすことなどが目標として掲げられ、国を挙げてゲーム産業の成長を後押ししている。また、単に企業誘致や莫大な投資を行うだけでなく、国内の雇用創出につなげる施策や人材育成の体制も整えていくとしている(※4:4Gamer.net)。今年から首都リヤドでは、eスポーツのワールドカップも開催され、数万人の雇用を生み出すことが期待されているという。
世界のエンタメ産業において、ゲームは最も巨大な利益を生む分野と言える。その中でサウジアラビアは中東市場の成長を牽引する存在だ。ジェトロの資料によると、中東と北アフリカ地域のゲーム市場は、今後数年間で11%というグローバル市場の中で最も高い成長率が見込まれているとのこと。そして、同国の国家戦略により、将来的には世界最大級の市場になることが見込まれるという。
また、映画産業への投資も活発だ。