「日本映画に必要なのは国際的なプロデューサー」VIPO事務局次長に国際プロデューサーコース設立の意義を聞く

VIPOが運営する育成事業「VIPO Film Lab」では、国際的に活躍できる映画プロデューサーを育成する「国際プロデューサーコース」の受講者を募集している。なぜ今、国際的に活躍できるプロデューサーの育成が必要なのか?VIPO事務局次長の槙田氏に聞いた。

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コンテンツ業界を支援するNPO法人映像産業振興機構(VIPO)が運営する育成事業「VIPO Film Lab」では、国際的に活躍できる映画プロデューサーを育成する「国際プロデューサーコース」の受講者を募集している。

8月から12月に渡って開催される本コースは全10回の講座で構成され、映画祭や映画マーケット、セールスエージェントや企画マーケットの役割など、映画の国際共同製作に必要な実践的な知識を習得することを目的にしている。講座のテーマに沿ったプロフェッショナルが講師を担当し、海外の講師も多数参加しており、本場の知識を学べる貴重な場となっている。


2021年から始まった同コースは今年で3回目。なぜ今、国際的に活躍できるプロデューサーの育成が必要なのか、VIPO事務局次長・映像事業部長・情報サービス事業部長である槙田寿文氏に話を聞いた。

槙田寿文氏

国際プロデューサーが日本映画に必要な理由

――「VIPO Film Lab」で国際プロデューサーコースを立ち上げた経緯をお聞かせください。

VIPOでは経済産業省委託事業でオランダのロッテルダム国際映画祭に併設されている「Rotterdam Lab」(プロデューサー&企画開発ラボ)に若手プロデューサーを派遣する事業の事務局を行っています。それがとてもいいコースでして、これと似たようなコースが国内にも欲しい、海外に挑むプロデューサー予備軍を増やしたいと思ってこのコースを自主事業として立ち上げました。同コースは2021年に始まりましたが、コロナ禍でリモートが普及したおかげで、海外のプロフェッショナルを講師として呼ぶことのハードルがかえって下がり、実現できたという面があります。

――VIPOでは、国際プロデューサーコースの他にも映画プロデューサー養成(基礎編)講座なども行っていますが、棲み分けはどのようになっているのでしょうか。

養成講座 はエントリーレベルという位置づけで、これから映画プロデューサーを目指す方も対象にしていますが、国際プロデューサーコースは、すでにある程度実績があり、これから国際的なプロデューサーとして活動したいと考えている方向けですね。すでに国際的な企画を抱えている方が受講されることもあります。

――国際的な人材を養成するために、カリキュラムはどんな点にこだわっていますか。

プロデューサーは企画の最初から最後まで戦略を立てねばなりませんから、知るべきことは山ほどあります。各映画祭の特徴やセールスカンパニーにはどういうところがあるのか、小さい会社から大きなセールス会社にどのようにステップアップしていくのか、その他資金調達や国際共同製作における契約のあり方など、日本は全ての面において情報が不足しているのではないかと思っています。ですから、特別にどこかに力を入れるというよりかは、必要最低限のことを網羅できるように企画しています。映画プロデューサーになるマニュアルはないですから、こちらも最低限のことは教えることはできますが、残りは自分で模索してもらうしかないという世界なんです。

――そもそも、なぜ今国際的に活躍できるプロデューサーが求められているのでしょうか。

海外を意識している映画監督の方々に話を聞くと、とにかく一緒に企画を持って走ってくれる、国際的なビジネススキルを持ったプロデューサーがなかなか見つからないと異口同音におっしゃいます。我々も日々、それは実感している部分で、だからこそ敢えてこのコースは「国際」と名づけています。今年の講座では10講座のうち6講座は海外の方が講師になり、英語で行います。

――日本社会全体が少子高齢化で人口縮小傾向にある今、国内市場は縮小する可能性があります。今後はプロデューサーも国際マーケットを目指す必要がありますよね。

日本のメジャースタジオはアニメを中心に海外でビジネスができるチャンスが生まれてきています。しかし、インディペンデント系の映画は、海外志向の作品はあるものの、国内市場でリクープすることだけを目指しているものもまだ多いと思います。そうなると国内の想定興行収入から逆算して製作費はこの程度、となって企画がどんどん小さくなっていってしまうので、作り方がだんだん行き詰ってきています。そうなると必然的に、海外市場を見据えていかないといけなくなるのではないでしょうか。

――製作費の話が出ましたが、海外映画祭を経験された監督の中には、他国の作品と比較して日本映画の製作費が少ないと指摘される方がいます。今の世界の映画産業で、一国で製作費を賄うことは稀で、海外市場を見据えて国際共同製作することが常識になっていますが、日本はその波に乗れていないということですね。

そうですね。そもそも国をまたいで共同で製作することは海外では当たり前です。欧州映画などは、複数の国の資金で作っているのが普通で、自国のファイナンスだけで製作してリクープするというのは、すでにそもそも成り立たなくなっているんです。アジアも同じ状況なので、日本もアジア・EU・北米との製作資金調達のノウハウを身に付けなければいけない状況に益々なってきていると感じます。

映画プロデューサーに必要な能力とは

――これはそもそも論になりますが、一般人から見ると映画プロデューサーとは何をするもので、どんなスキルが必要なのかイメージしにくいです。プロデューサーにはどんな資質が求められるのでしょうか。

確かに、プロデューサーとひとくちに言っても、思い浮かべるイメージも人によって異なります。かつて、撮影所システムがまだあった時代には、プロデューサーとは基本的には社内プロデューサーのことで、企画を社内で立ち上げ、社内で作っていくものでした。その後、外部プロデューサーの持ち込み企画による映画製作も増えていきましたが、最近はそれだけではないわけです。

ただ、どんなプロデューサーにも共通して必要なのは企画を見る目があることだと思います。これは実は一番難しいことで、要するにクリエイティブなことをきちんと理解する、ということです。そして、企画を国際展開できるものに育てる力量とビジネススキルがあることが大事です。国際共同製作では、海外の出資先を探すことが求められるので、そのために海外の補助金や助成金について精通している必要があります。また、そのために海外の誰を知っていればそこにたどり着けるのかといった情報に詳しく、最後に製作費を回収することまで考えてプロジェクトを組み立てることが求められ、契約関係の知識も必要になってきます。

――企画のポテンシャルを測る審美眼にビジネススキームを組み立てる能力、さらには契約関係の法律なども知っている必要があると。

プロデューサーは最初から最後まで面倒を見ないといけない立場ですから、そこまでやるのが仕事です。高い能力が求められる仕事ではあります。ただ、国際共同製作をすでに経験した方でも全てのことに精通しているわけではないです。経験によって自分に足りない部分が分かってきますから、それを補うためにこの国際プロデューサーコースに参加するという方もいらっしゃいます。

オープンマインドでチャレンジ精神があることはもちろん、コミュニケーション能力も求められますし、あとは調整能力があることでしょうか。そして、出資してくれる方と監督も含めたスタッフを導いていく役割ですからリーダーシップも重要です。全てをパーフェクトに兼ね備えている必要はないですが、様々な能力が求められると思います。

――国際プロデューサーコースをこれまで受講された方で、その後すでに活躍されている方もいらっしゃるのでしょうか。

昨年カンヌ国際映画祭にも選ばれた早川千絵監督の『PLAN 75』の水野詠子プロデューサーは第一回の参加者です。その他、実際に映画を国際共同製作で製作中の方もいらっしゃいます。

――『PLAN 75』のように国際共同製作をするケースは、日本でも増加しているのでしょうか。

はい。心理的なハードルもだんだん下がっていますし、若い世代には英語力に問題ない方も多いです。日本の映画会社に企画を持っていっても少ない製作費しか提示してもらえないなら、海外と組んで少しずつ企画を育てようと考える方が出てきています。日本の出資は断って100%海外出資に活路を求めて動く方もいますし、事例は着実に増えています

カンヌで感じたアジアへの追い風

Photo by Pascal Le Segretain/Getty Images

――槙田さんは今年のカンヌ国際映画祭にも行かれたそうですが、是枝監督の『怪物』が脚本賞とクィア・パルム賞、ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』で役所広司さんが男優賞を受賞したことで国内メディアは盛り上がっていました。実際に現地で日本映画の注目度はどうだったのでしょうか。

確実に注目度は上がっていると感じました。賞を受賞した作品や上映作品が増えていることは質の高い作品が製作されているということですが、米国アカデミー賞を見ていても判るようにダイバーシティの流れでアジアへの注目度が上がっているという要因もあるように思います。これは本当にチャンスなので、積極的にその流れに乗って海外映画祭を通じて国際マーケットに挑むべきだと思います。

――VIPOは、先日カンヌ国際映画祭監督週間と提携し「カンヌ監督週間 in Tokyo」を開催すると発表されました。この提携の狙いはなんでしょうか。


まず一つ目は、カンヌ監督週間で上映される作品とはこういうものだと、特に映画監督やプロデューサーに観ていただきたいです。カンヌの監督週間はこういうタイプの作品が選ばれているんだと実感していただきたい、そうすることで同映画祭に挑戦する方が増えて欲しいと思っています。

――なるほど。映画ファンに監督週間の良質な作品を観てもらう機会なのかと思っていました。

もちろんそれもありますが、カンヌに対する心理的ハードルがこれで下がればいいなと思います。もう一つは、「カンヌ監督週間 in Tokyo」ではカンヌ監督週間とVIPOがセレクトした日本映画も上映しますので、選ばれた監督の励みになればいいなと思っています。

――カンヌ監督週間に限らず、どの映画祭にも傾向や方向性があるもので、それを知ることで戦略も立てやすくなるということですね。

そうですね。映画祭にはプログラマ―という存在がいて、そのプログラマーの好みもあるわけで、その辺りの謎に包まれたベールを少しでも明らかにして、フラットに体験してほしいんです。

――ベールに包まれた謎を解いてしまえば、海外の壁は案外高くないと思えるかもしれませんね。

別に海外映画祭が偉いというわけではないと思うんです。矛盾したことを言うようですが、海外を目指してほしいですが、それだけが全てではありません。別の方法や選択肢でも全く構わない。ただ、挑むにしても相手を知らないことにはどうしようもないわけです。「カンヌ監督週間 in Tokyo」はそれを知るひとつの機会にしていただければと思っています。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。