3月17日(金)から22日(水)にかけて新潟市で開催された「新潟国際アニメーション映画祭」。映画祭では映画の上映だけでなく、有識者を招いてのフォーラム、研究発表などが多く開かれた。本記事では21日に開かれたシンポジウム、「地方とアニメ、その現状と未来-新潟から始める地方分散」の様子をお送りする。
登壇者は、司会進行役に敬和学園大学人文学部准教授の松本淳氏、日本アニメーション学会産業研究部会主査で、日本動画協会の増田弘道氏、同学会でデータ周りを扱う長谷川雅弘氏、新潟市に本社を置くアニメ制作会社・新潟アニメーション代表の内田昌幸氏の4人。ゲストには映画祭のジェネラルプロデューサーで、アニメ製作会社ジェンコ社長の真木太郎氏が招かれた。
真木氏は冒頭の挨拶で、「今日のシンポジウムのテーマは特に目新しくもなんともなくて、かなり前からいろいろなところで議論されてきた。せっかく新潟で国際映画祭が開かれる上で、何か新しいアイデアや切り口が出ればいいなと思っているし、出なさそうだったら発言していきたい」と挨拶した。
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新潟アニメーションの取り組み
最初に、内田氏から新潟市におけるアニメ・マンガを活用したまちづくりの経緯や、新潟アニメーションの事業内容の説明があった。
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新潟市では1998年の「にいがたマンガ大賞」創設以降、アニメ・マンガを用いたまちづくりが続けられてきており、2000年に日本アニメ・マンガ専門学校が開学。2010年には「がたふぇす」というイベントが始まり、12年から現在に続く「新潟市アニメ・マンガを活用したまちづくり構想」がスタート。ここから13年に「新潟市マンガ・アニメ情報館」や、「新潟市マンガの家」といった専門の施設が誕生している。
新潟アニメーションの取り組みとしては、2014年に主に彩色を担当する「仕上げ」専門のスタジオとして始まり、2020年に作画部が設立。作画の仕事も請けるようになる。地域連携の取り組みとしては、新潟に本拠地を置くプロサッカーチーム「アルビレックス新潟」のマスコットキャラクターを用いたアニメを製作したり、2021年に設立された開始専門職大学アニメ・マンガ学部や、市内の専門学校などに講師を派遣したりしているという。新潟アニメーションの現在の従業員数は、作画が6人、制作進行が1人、プロデューサーが1人、仕上げが12人で、あとは内田氏の計21人で運営されている。
アニメーション制作における変化(集約から分散へ)
続いて、日本アニメーション学会産業研究部会として、長谷川氏から発表があった。新潟アニメーションの動きを受け、アニメ制作会社が東京一極集中から地方分散している実態が発表された。
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元々アニメ制作会社は、主に4つのスタジオからスタートしている。それは1956年設立の東映動画、61年設立の虫プロダクション、62年設立の竜の子プロダクション、52年のTCJ(現・エイケン)の4社で、主にこの4社にいたスタッフが分派を繰り返したことで、2020年現在で811社まで増えている。
そしてこの全811社のうち、東京都だけで85%以上の692社を占める。さらにこの692社のうち、東京都内の杉並区が149社、練馬区が103社を筆頭に、新宿区、渋谷区、中野区など東京都西部に集中している。過去10年間と比較しても、その数は増加している。
その一方で、アニメーション制作のデジタル化が進んだことで、制作会社の地方移転も可能になってきている。先に進められたのが、大半の工程がパソコン上で行われるCG制作会社で、近年ではタブレット端末での作画が進んだことで、作画系の制作会社も徐々に地方進出が進んでいる。これは国内に限らず、アジアなど海外にスタジオを開設する動きもあるという。
この要因としては、地方や海外に人材を求める動きから始まっている。一方で、松本淳氏は自身が指導する大学で、「アニメ業界に憧れはあるが満員電車など東京行くの怖い」という声があると指摘した。実際に多くの社員が地元新潟の専門学校出身である新潟アニメーションの内田氏も、「『東京行くの怖い』という人は多いなという印象」と同意した。そして内田氏は、「どこで働きたいかという意味では、地元でアニメ業界の仕事に就ける選択肢が増えてきている」と述べた。
これに対して真木氏は、「働く場所というのは選択肢の中でやるしかない。逆にそういう選択肢を増やしていくために、どうすれば地方にスタジオを増やしたり誘致したりできるのか、そういう話をしないといけない」とマイクを握った。