3月17日(金)から22日(水)にかけて新潟市で開催された「新潟国際アニメーション映画祭」。
映画祭では映画の上映だけでなく、有識者を招いてのシンポジウム、研究発表など多く開かれた。本記事では20日に開かれたフォーラム、「海外における日本のマンガ・アニメの価値づけの状況」の様子をお送りする。
登壇者は、映画祭の実行委員長で、新潟市にある開志専門職大学アニメ・マンガ学部教授の堀越謙三氏、文化庁メディア芸術担当調査官の椎名ゆかり氏、映画祭のプログラム・ディレクターを務め、普段はアニメジャーナリストとして活躍する数土直志氏、エンタメ業界のデジタルマーケティングを主に手がけるGEM Partners株式会社代表取締役の梅津文氏の4人。司会進行役は開志専門職大学アニメ・マンガ学部教授の成田兵衛氏が務めた。
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研究発表の内容は、「海外における日本のマンガ・アニメの価値づけの状況」を海外で著名な日本アニメ・マンガの研究者・プロデューサー・ジャーナリストにインタビューを実施し、その結果を報告するというもの。「価値づけ」とは、海外での消費・流通の観点だけでなく、どのように評価されているのかという質的な見方も含んでいる。
調査の目的について、堀越氏が「去年の5月ごろ。文化庁とのやりとりで、『アニメ業界について売上だけで論じられることが多いが、本当にそれだけでいいのだろうか』という話が雑談で上がった。それで、『価値づけ』という質的研究をしてみようという話になった」と冒頭で明かした。
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続けて数土氏が、「アニメの評価というのはヒットしたヒットしてないといったような数字的な評価は出ているが、そもそもの作品の価値はあまり論じられてこなかった。例えばジブリの宮崎駿監督や高畑勲監督では、数値的には宮崎監督作品のほうが高い評価を受けているが、世界的な評価では高畑監督も高い評価を受けている。そこがどういう基準で決まっているのかが調査の始まりだった」と話した。
インタビューは大きくアニメとマンガのセクションに分け、アニメは数土氏、マンガは椎名氏が聞き取り調査を担当した。インタビュー対象者はイギリス・フランスの2ヶ国に限定した。その理由は、ひとえにヨーロッパといっても国によって様々な価値観があるため、こうしたバイアスを排除するためにまずは2ヶ国で実施したという。
質問事項は大きく、「価値づけに対する評価」、「コミックス/バンド・デシネ、もしくは映画/アニメーションに対する該当国の施策について」「価値づけに対する自身のご意見」の3項目。質問内容は主に梅津氏が考えたという。インタビューは、基本的に対面で実施された。
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アニメ:インタビューから得た2つの気づき
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アニメではまず、イギリス在住で欧米を代表する日本文化研究家のヘレン・マッカシー氏、ブリストル大学映画テレビ学部教授のレイナ・デニソン氏、フランス在住ではパリ本拠地がある映画配給・製作会社「Charades」の共同設立者であるヨハン・コント氏の3名にインタビューが行われた。
ヘレン・マッカシー氏には、「日本アニメの認知を築いたアーリーアダプターの役割」、「スタジオジブリと『AKIRA』の価値づけの過程」、「価値づけにおけるメディアの役割」の3点が聞かれた。
レイナ・デニソン氏には、「日本アニメの認知を築いたアーリーアダプターの役割」、「ファンコミュニティと価値づけの関係」、「アニメの認知と作品の流通・マーケティング」、「アカデミズムと価値づけの関係」の4点。
ヨハン・コント氏には「映画祭においてどう評価が築かれていくか(細田守)」、「海外で価値づけが生まれていくなかでの日本側のアクションとは?」、「評価されるアニメーション作品・監督とオリジナリティ」、「批評家とメディアの役割」の4点が聞かれた。
三者にインタビューした結果、得られた結論が、大きく2つあった。1つは、商業的な成功と価値ある映画というのはイコールではないということ。商業的に成功してももちろん価値のあるものはあるが、価値のあるものが必ずしもヒットしているものではなく、ヒットしないものが価値がないものではないという点。この点を全員が共通認識として持っていたという。
そのため、商業的に成功している作品を野放しに評価するということはなく、その作品の商業的評価に対し、識者が何かしらの評価を下すべきという点も問題意識として持っていたという。
2つめは、価値づけを生み出す装置に人が欠かせないという点。