業界最前線のプロデューサーらが 「アニメプロデューサーは育成可能か」を議論【IMART2023】

アニメプロデューサーは育成できるのか?それぞれ立場の異なるベテランプロデューサーが「IMART2023」で議論した。

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業界最前線のプロデューサーらが 「アニメプロデューサーは育成可能か」を議論【IMART2023】
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マンガ・アニメーションのボーダーレス・カンファレンス「IMART2023」が、11月24日から26日の日程で開催された。

IMARTは、「マンガとアニメーションの未来を作る」ことを目標に、両業界の実務家や先進的な取り組みをしている方をスピーカーとして招くトークセッションを中心に構成される。マンガとアニメの業界交流と知見の共有をはかり、急速に変化していく業界を多角的に議論する場だ。

本稿では、25日10時30分から行われた「アニメプロデューサーは育成可能か」のレポートをお届けする。

企画の総責任者となるプロデューサーは、プロジェクト成否のカギを握る重要な存在。そのプロデューサーはいかにして育成可能か、そもそも育成できるものなのかを、それぞれ立場の異なるプロデューサー経験者が議論した。

登壇者は以下の通り。

植田益朗(株式会社スカイフォール 代表取締役/一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)代表理事)
川口典孝(株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム 代表取締役)
大澤信博(株式会社EGG FIRM 代表取締役)
いしじまえいわ(ライター/構成作家)※モデレーター

アニメプロデューサーの仕事とは

トークセッションは、まず3名のプロデューサーに率直に「プロデューサーの育成は可能か、可能なら右手を、不可能なら左手を挙げてください」という問いから始まった。その問いに、大澤氏は右手、川口氏は左手、植田氏は両手を挙げるという形で三者三様の回答となった。

左から植田氏、川口氏、大澤氏。

大澤氏が育成可能と答えた理由は、「育成できないと(自分が業界に)いる意味がない。育成不可能と言うのは業界的にまずい」からだという。左手を挙げ育成不可能だと答えた川口氏は、「プロデューサーはセンス」だといい、「(活躍の)場を用意するべきだが、そこから育つかどうかはその人次第」という考えだそうだ。

そして、両手を挙げた植田氏は、「育成という言葉が微妙だが、新しいプロデューサーが業界で生まれないとアニメ業界がダメになってしまうので、育成できないと言っている場合ではない」というのが理由。

そもそもプロデューサーの仕事とは何かというところから話は始まった。プロデューサーとは、企画を立て、お金を集めて制作し、マネタイズして回収する、その全てをやる人物のことであるという。川口氏は、新海誠監督の作品をプロデュースしてきた人物だ。資金調達から劇場公開、DVD制作など全て自社で行っていたインディーズの頃から、 大ヒットメーカーとなった現在まで監督を常にそばで支えてきた。まさに企画からマネタイズまで全てをこなしてきたと言える。

川口氏は、プロデューサーはお金のことだけでなく「脚本やプロット作りなどで作家の壁打ちの相手になる、マンガ編集者のような役割も重要」と語る。監督の頭にあるものを外に引っ張り出し、今作る意義があるかを考え、相談役になる能力が求められるという。しかし、近年のアニメ業界は原作つきの企画が多いため、それを経験する機会が限られる。プロデューサーには物語を文字や言葉で表現できる「文学脳」が必要だと考えているとのこと。

コミックス・ウェーブ・フィルム川口氏。

川口氏は業界外の出身で誰かに育成してもらったわけではなく、新海監督との出会いも偶然であるため、自分の例は再現性がないだろうという。プロデューサーのあり方も様々で大澤氏は、一人の作家と並走する川口氏と異なり、色々なクリエイターと仕事したいタイプだと語る。

アニメプロデュース会社EGG FIRM代表の大澤氏はTVアニメ「無職転生 ~異世界行ったら本気だす」を作ることをきっかけに新たにスタジオバインドというアニメスタジオを設立した。近年、アニメスタジオの数が増えているが、制作作品数が多すぎて作り手のキャパシティを超えている状況にあるという。旺盛な需要があることがその要因だが、(キャパシティ以上に)制作案件を受けるプロデューサーがいるのがいけないのではとの川口氏の問いかけに対し、大澤氏は、現場に色々なものが足りないことは認めつつ、需要側から見ると、「まだ棚が埋まっていない。日本のアニメをもっと観たいという要求が世界的にまだ満たされていない。需要と供給力の不整合が起きている」と語る。

植田氏は、本来はスタッフを育てながら運営せねばならないが、育てる時間がない現実があるという。ある程度の予算以下なら仕事を受けないと決めるのも大事なことだが、そうすると抜け駆けして受けてしまうプロデューサーが現れるのだという。

今注目のアニメプロデューサーは?

続いて、大澤氏がアニメプロデューサーの仕事メニューを見せてくれた。自身の日々の業務内容を書き出してみたら100項目以上になったとのこと。

大澤氏は「育成可能か」という観点でこのリストを作成したそうで、これを一定レベルでクリアすれば基礎的にプロデューサーと呼べるような存在になれるのではという。

しかし、大澤氏も川口氏が育成不可能だと言う気持ちはわかるようで、あくまで基礎的な部分を経験させることができても、天才やヒットメーカーを狙って育成することは難しいだろうと語る。

EGG FIRM大澤氏。

次に、モデレーターのいしじま氏から「注目しているスタジオやプロデューサーはいるか」との質問に、川口氏はFLAT STUDIOの石井龍氏を挙げた。FLAT STUDIOは loundraw監督の『サマーゴースト』を制作した新進気鋭のスタジオで、石井氏は異業種での経験を経てアニメ業界に参入した。川口氏は「発想が斬新」で期待しているという。

大澤氏は、『映画大好きポンポさん』をプロデュースしたCLAPの松尾亮一郎氏を挙げた。「クリエイターと向き合って作ろう」という姿勢のスタジオであると評価した。

3人の中で一番長いキャリアを持つ植田氏は、サンライズ時代の神田豊さんと会わなかったら、今ここにはいないだろうという。神田さんはスタジオのムードを上手く作る能力があったのだそうだ。『ガンダム』で富野由悠季監督と安彦良和氏が並んだ机の雰囲気はすごかったが、そういう現場を神田さんはニコニコしながら良い雰囲気を作っていたという。

スカイフォール植田氏。

また、植田氏はプロデューサーの重要な要素として、作り終えるまで結果はわからないが「最後まで信じ続けること」が大事だと述べた。プロデューサーは最高責任者なので失敗は被り、成功したら監督のおかげという仕事なのだと語る。また、植田氏はプロデューサーを目指すなら一般職を経験してから業界に来るのも一つの手だと話した。川口氏も、プロデューサーには社会性が必要となるため、監督の才能を対外的に社会と結びつける人間力が求められるという。

大澤氏は元々東北新社で実写の企画をやっていたが『機動警察パトレイバー』のOVAに携わることでアニメ業界へと入ったそうだ。実写と違い、アニメは表現の幅が広いことに魅力を感じたという。

いしじま氏は、3名にアニメのプロデュースに興味ある若い人に向けての提言を聞いた。

大澤氏は、アニメのプロデューサーに基礎的に大切なのは4つの要素、スキル、経験、センス、人脈だが、結局最後に重要なのは「欲望」だという。「このクリエイターと一緒に作品を作りたい、売れたい、といった欲望を持たなければどうにもならない。欲望は育成することができないので、プロデューサーを目指す人には欲望を燃やしてほしい」と語った。

川口氏は、特に“文学脳”を持った人材が足りないと感じており、なるべく小説や文学を嗜んでおくと役に立つはずだと付け加えた。アニメは絵で描かれるが、伝えるのは物語なので、アニメづくりは文字から始まるといい、改めて文学脳の重要性を強調した。

植田氏は、枠にとらわれないでほしいと語る。業界を変えてやるくらいのつもりで飛び込んでほしい、とエールを送りセッションは幕を閉じた。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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