日本のマンガ、アニメ、特撮、ゲームは、国内にとどまらず世界中で高く評価されている。文化庁は現在、こうした作品の制作過程で生まれる原画やセル画などの「中間生成物」を散逸や劣化から守り、後世に伝えるため、「メディア芸術ナショナルセンター(仮称)」の設立に向けて国内外の機関と連携を進めているところだ。
2月15日に開催された同センターへの期待をテーマとする国際シンポジウム「メディア芸術ナショナルセンター(仮称)への期待~アニメーションのアーカイブにおける意義と役割」では、海外の先進的なアーカイブ機関の取り組みが紹介された。そこから見えてきたのは、映像産業におけるアーカイブが単なる「過去の保存」ではなく、次世代のクリエイター育成や新たなビジネス価値を生む「生きた資産」として機能している実態だ。本稿ではそのシンポジウムの模様をレポートする。
庵野秀明氏が語るアーカイブの切実な意義
シンポジウムの冒頭では、認定NPO法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)の理事長を務める庵野秀明氏が、自身の原体験を交えながらアーカイブの意義を語った。日本の映像制作現場では長らく、絵コンテや原画、セル画、背景画といった中間生成物の大半が、作品完成後に廃棄されるか散逸する道を辿ってきた。

庵野氏は、かつて『機動戦士ガンダム』や宮崎駿監督作品の生資料に触れて深く感動し、アニメーターや監督を志したという。生きた資料には、若い世代がクリエイターを目指す大きなきっかけになる力があるとの考えから、ATACでは現在、版権元や関係者、ファンらの協力を得て物理的資料の保存と継承に努めているが、その活動は地味で、手間もお金も時間もかかり、決して楽な道ではないそうだ。だからこそ、国が主導するメディア芸術ナショナルセンターが確かな方向性を示し、より良い形での実現につなげてほしいと強い期待を寄せた。
ディズニーが実践する「生きたアーカイブ」
アーカイブを自社のクリエイティビティやビジネスの資産として徹底活用しているのが、ウォルト・ディズニー・カンパニーだ。同社のアーカイブ事業を担うウォルト・ディズニー・アニメーション・リサーチ・ライブラリー(ARL)のメアリー・ウォルシュ氏が登壇し、施設には過去100年にわたる短編・長編アニメーションのアートワークが約6500万点収蔵されている実態とその活用方法について紹介した。

かつてウォルト・ディズニーは、使用済みの資料部屋を新聞業界の隠語にならって「モルグ(死体安置所)」と呼んでいた。しかしウォルシュ氏は、そこは芸術が死ぬ場所ではなく、新たな命を待つ場所だという。アーカイブがアーティストの育成やインスピレーションの源泉になるだけでなく、キャラクターの歩きやダンスの動きなどを再利用して、時間やコストの削減にもつなげていたのだ。
現代のARLは、この精神をデジタル技術でさらに押し広げている。約180万点のアートワークをデジタル化し、社内の画像ブラウザから世界中のディズニー社員が資料にアクセスできる環境を整えた。出版物やクルーズ客船の空間デザイン、TikTokなどのSNS展開まで、あらゆる部門が過去のアーカイブを活用しているという。
過去10年間には、2つの大規模なオリジナルアート展を世界で巡回させ、累計260万人以上を動員した。日本でも2017年の『ディズニー・アート展 いのちを吹き込む魔法』などで約77万人を集めており、アーカイブの魅力を直接一般層へ届けることにも積極的だ。









