DLEはなぜ今、AIスタジオを立ち上げたのか。新代表FROGMANに聞く映像産業の次の競争軸

『秘密結社 鷹の爪』などで知られるクリエイターのFROGMAN(小野亮)氏が昨年代表取締役社長に就任し、新たな変革期を迎えた株式会社ディー・エル・イー。経営とクリエイティブの双方の視点を持つ同氏に、現在の映像ビジネスにおける勝算とテクノロジーとの向き合い方、そしてAI時代にこそ求められる「ディレクション能力」について聞いた。

テクノロジー AI
DLEはなぜ今、AIスタジオを立ち上げたのか。新代表FROGMANに聞く映像産業の次の競争軸
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『秘密結社 鷹の爪』などで知られるクリエイターのFROGMAN(小野亮)氏が昨年代表取締役社長に就任し、新たな変革期を迎えた株式会社DLE。アニメーション業界が制作コストの二極化や人手不足といった課題を抱える中、同社はミドルコスト・短納期を実現する「オルタナティブ・アニメ」の展開や、「OBETA AI STUDIO」を通じた実践的なAI活用など、独自のアプローチを打ち出している。

経営とクリエイティブの双方の視点を持つ同氏に、現在の映像ビジネスにおける勝算とテクノロジーとの向き合い方、そしてAI時代にこそ求められる「ディレクション能力」について聞いた。


クリエイターが社長になるということ

――DLEの代表に就任されて、クリエイター時代と視点や仕事のやり方は変わりましたか。

FROGMAN:自分では変わらないつもりだったんですが、やはり立場が変わると周囲はそうさせてくれませんね。取締役会の議長も務めますし、発言も会社の代表としてしなければならない。株主や投資家への説明責任もあります。

ただ、それを負担やジレンマとして捉えているわけではないんです。むしろ、FROGMANというクリエイターが代表になったことで、DLEがどんな方向を目指す会社なのかを、社内外により明確に発信できるようになったと思っています。自分が以前からやりたいと考えていたことも、経営の立場になったことで実行しやすくなりました。「OBETA AI STUDIO」も、そのひとつです。クリエイターだった頃は、経営方針そのものに深く関わることはありませんでしたから。

――クリエイターであるご自身が代表になったことで、周囲からの見方にも変化があったわけですね。

FROGMAN:そうですね。先日、朝日放送グループのグループ集会で、グループ企業やテレビ局の社長・会長が集まる場でDLEの現状をお話ししたのですが、私が社長になったことでDLEが何か変わりそうだ、という期待を強く感じました。『野原ひろし 昼メシの流儀』のヒットもあって、DLEのプレゼンスは業界内で高まっていると感じています。投資家や事業会社の方々も、自然と集まってきていますね。

オルタナティブ・アニメの可能性

――御社がアニメーション制作を担当し、2025年10月から12月にかけて放送された『野原ひろし 昼メシの流儀』は「オルタナティブ・アニメ」第一弾と打ち出されています。立ち上げの経緯を教えてください。

FROGMAN:もともとの発想は、DLE創業者の椎木隆太によるものです。DLEは『秘密結社 鷹の爪』や『パンパカパンツ』のように、動きを絞り込みながら、シナリオや会話劇で見せるショートアニメを得意としてきました。

今のアニメ業界は、少人数・低コストで作る作品と、『鬼滅の刃』のようなハイクオリティー作品に二極化していて、その中間が抜け落ちています。一方で、業界の人手不足は深刻で、スタジオによっては数年先まで予定が埋まっている。来年、再来年には放送したいというニーズがあっても、受け皿がない状態です。

そこで制作コストはミドル、しかも短納期で作る「オルタナティブ・アニメ」を立ち上げました。最初は正直、私は懐疑的でしたが、『野原ひろし 昼メシの流儀』が大きな反響をいただきました。フラッシュアニメーションを使った30分番組がここまで話題になるのは、DLEにとっても初めての体験で、現在も多くの問い合わせをいただいています。

――アニメ化したいのに、スタジオが見つからない案件の受け皿になるわけですね。オルタナティブ・アニメに向く企画は、どんなタイプだとお考えですか。

FROGMAN:アクション大作よりも、日常系やコメディに向いていると思います。『野原ひろし 昼メシの流儀』の西山司監督もそうですが、DLEの演出陣は『秘密結社 鷹の爪』などで、限られたリソースの中でテンポや間を大事にする作品を作ることを長く作ってきました。そうした蓄積が活きるジャンルです。

――コストは一般的な30分アニメより抑えられるのでしょうか。

FROGMAN:具体的な金額は言えませんが、一般的な30分アニメより大幅にコストは下がります。納期も短く、企画から放送まで1年半以内で持っていける。IPビジネスはタイミングが重要なので、このスピード感は大きな武器になります。

――一方で、クオリティとのバランスを気にする声もあると思います。

FROGMAN:我々は、クオリティを単純に作画の工数だけで測るべきではないと考えています。作画が豪華でも、シナリオや演出、芝居が弱ければ魅力的な作品になりません。DLEは、作画の工数こそ抑えていても、企画・脚本・演出には自信があります。

重要なのは、キャラクターが魅力的に見えるか、世界観が伝わるかだと思うんです。DLEには、キャラクターを魅力的に見せるノウハウがあります。

『野原ひろし 昼メシの流儀』でも、コメディのテンポや場面のつなぎ方には、『秘密結社 鷹の爪』で培ってきた技術が生きています。限られた要素でどこまで豊かに伝えられるか。これは俳句に近いですよね。要素を足して豪華に見せるより、省略の中で成立させる方が、むしろセンスの高さも技量も問われるんです。

DLEのテクノロジーとの向き合い方

――冒頭にも名前が出た「OBETA AI STUDIO」は、どういう経緯で立ち上げたのでしょうか。

FROGMAN:2017年にTBSラジオでAIに関する番組のメインパーソナリティーを務め、さまざまな識者の話を聞く中で、エンターテインメントにAIが不可欠になると強く感じました。その後、ChatGPTの登場や画像生成の進化で、映像産業にAIが入ってくるのは避けられないと確信したんです。

だからこそ、早く着手した者が優位に立つと思い、昨年の春から構想し始め、8月にスタジオを立ち上げました。目的は、AIで映像制作をすると何が起きるのか、どこに課題があり、どうすればポテンシャルを引き出せるのかを実践的に検証することです。決して「AI万歳」ではなく、現実的な活用法を探るための取り組みです。

――AI時代の到来が避けられない以上、良い面も課題も含めて向き合う必要があると。

FROGMAN:その通りです。中国では大規模なAIスタジオが動き始め、ハリウッドも積極的に取り組んでいます。日本のアニメ業界は、限られた人数で4兆円規模の巨大な市場を支えている、かなりいびつな構造です。少子高齢化も進む中、将来的に人手不足を補う選択肢としてAIは避けて通れないでしょう。

ただ、手描きアニメがなくなるとは思っていません。共存の可能性は十分にあると思っています。AIでアニメはもっと民主化するでしょう。しかし手描きのスタジオは、いわば高級ブランドのようになっていくのではないでしょうか。

AIは人工知能であって、人工感情ではない。エンターテインメントは感情を表現し、届ける仕事です。死や空腹の恐怖、人生の痛みや喜びといった実感から生まれる企画や演出には、まだ人間にしかできない部分がある。そこを持つ人間がAIを使いこなした時、業界の構造は大きく変わるはずです。

――DLEでは、AIを映像制作以外の分野にも活かす試みをされていると聞きました。

FROGMAN:はい。DLEは、「HAIRICOM(ハイリコム)」というサービスを展開しています。映画の登場人物として自分が作品の中に入る体験ができるものです。AIは既存の仕事を代替するだけでなく、これまでになかった新しいエンターテインメントを生み出すと思っています。もともとは『秘密結社 鷹の爪』20周年記念映画で、AIを使って何か面白いことができないかと考えたのが出発点でしたが、予想以上に反響がありました。

もうひとつ、「しゃべくりAI」という取り組みもあります。たとえば行政のSNS運用では、広報担当者に負荷が集中しやすく、担当が替わると、ゆるキャラのアカウントでも文体や言葉遣いが変わって、キャラクター性がぶれてしまうことがあります。このサービスは、誰が入力しても特定のキャラクターらしい言葉に変換してくれ、そのままアニメーション動画まで生成できるようにするものです。従来ならSNS向け動画の制作に1カ月以上かかることもありましたが、それを数分に縮められる。AI時代の新しいIP活用の形になると思っています。

将来は、IPがバーチャル空間の人工人格のような存在になっていくんじゃないかと考えているんです。たとえば、『秘密結社 鷹の爪』の吉田くんの人格がバーチャル上に存在して、自動でSNSに投稿したり、こちらがシナリオを与えれば自律的に動いたりする。そうなれば、キャラクターは24時間、それぞれのファンと向き合えるようになるはずです。「しゃべくりAI」は、その入口となる取り組みでもあります。

――Adobe Animateを用いたフラッシュアニメの伝統もある一方で、自社ツール開発も発表されました。

FROGMAN:以前から考えていたことです。外部ツールは突然仕様が変わったり、過去データが扱えなくなったりすることがある。ひとつの企業に生殺与奪の権を握られるのは、持続可能性の面でも健全ではありません。だから、自分たちで作る必要があると考えています。

AI時代に必要なのは、ディレクション能力

――AI時代の映像作りでは、何がいちばん重要になるとお考えですか。

FROGMAN:ディレクション能力です。今のAIは、きれいな絵やそれらしい映像は作れても、意味不明なものを面白さに変える感覚や、ショットをどうつないでドラマにするかという判断はまだ弱い。たとえば『秘密結社 鷹の爪』で、吉田くんが突然「バルセロナ!」と叫ぶような、意味はないけれどタイミングとテンポで笑わせる発想は、なかなかAIには出しにくいですよね。

最近は副業でAI動画を作る人も増えていますが、演出経験がないと、映像の作法が抜け落ちた作品になってしまう。なぜここはワイドショットなのか、なぜここはクローズアップなのか、そうした積み重ねがドラマを作ります。DLEはそこを理解している演出家を抱えています。AI時代は、映像演出のノウハウを持つ人に大きなアドバンテージがあると思います。

――テクノロジーとエンターテインメントの関係は、今後どう変わっていくでしょうか。

FROGMAN:私は業界に入って36年になります。報道系のカメラマンから始まり、実写の現場も見てきました。その間、フィルムからデジタルへ、テレビからYouTubeへと、技術が変わるたびに業界は最初は拒否反応を示してきました。フラッシュアニメも、最初は「こんなのはアニメじゃない」と言われましたが、実際には多くの可能性を切り開いてきたと思います。

私は、特定の技術で作品を作りたいわけではなく、物語を作りたい人間なんです。ツールは変わっても、自分が作りたい物語を作る。その姿勢こそが、これからますます重要になると思っています。

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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