日本が舞台のフランス・アニメーション映画『アメリと雨の物語』両監督が語る、子どもの視点で描く世界と異文化への愛

アカデミー賞ノミネートで話題の長編アニメーション映画『アメリと雨の物語』が3月20日に公開。60年代の日本を舞台に、ベルギー人少女の成長を瑞々しく描く本作。幼児の視点や緻密な日本の描写、作品に込めた普遍的な想いを、共同監督の2人に聞いた。

映像コンテンツ 劇場
©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
  • ©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
  • ©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
  • ©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
  • ©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
  • ©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
  • ©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
  • ©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music

『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』や『カラミティ』などに参加したマイリス・ヴァラードとリアン=チョー・ハンが共同監督を務める長編アニメーション映画『アメリと雨の物語』が、2026年3月20日に公開される。

原作は、作家アメリー・ノートンによるベストセラー自伝的小説『チューブな形而上学』。舞台は1960年代の日本。そこで生まれたベルギー人の女の子・アメリの目覚めと成長を、豊かな色彩や独創的な視点とともに描いた物語だ。幼少期の記憶を呼び起こすようなイマジネーションあふれる世界観と、誰もが経験する新たな出会いや喪失についての胸を打つ普遍的なストーリーが展開する。

第98回アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされるなど、世界中から熱い視線が注がれる本作。マイリス・ヴァラード監督とリアン=チョー・ハン監督に作品に込めた想いを聞いた。


©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music

子どもの目線をアニメーションで表現

――本作の原作とは、いつ、どんなきっかけで出会ったのでしょうか?

マイリス・ヴァラード:リアン=チョーがこの本を教えてくれたんです。 初めて読んだ時、「ぜひ映画にしたい!」と思いました。というのも、0歳から3歳という年齢の子供をテーマにしたアニメーション作品を、ずっとやりたいと思っていたからです。原作には哲学的な問いかけや象徴的なモチーフがたくさん散りばめられていて、「人のアイデンティティはどう形成されていくにか」というテーマも描かれています。さらに、死やそれに伴う悲しみ、第二次世界大戦後の状況といったすごく難しい題材が、子供の目線から語られています。特に、ニシオさんがアメリに戦争の体験を話すシーンは、内容はとても重いんですが語り口が本当に素晴らしくて、深く感銘を受けました。

リアン=チョー・ハン:僕の場合は20年以上前、まだ19歳の時に原作を読みました。当時は文学にはそんなに興味がなくて、どちらかというと日本のアニメやゲームのようなポップカルチャーが大好きだったんです。そんな僕でも、小さな子供の目線で語られている点や、ベルギー人なのに日本で生まれて、しかも「自分のことを神様だと思っている2歳半の女の子」という設定がすごく面白いなと惹きつけられました。当時から日本が大好きだったので、日本が舞台であることも大きな魅力でしたね。

戦後の日本の状況が描かれているのも、僕にとって興味深かったです。原作を読む少し前に『火垂るの墓』を見ていたこともあって、深く心に刺さりました。

ニシオさんとアメリの関係性もすごく感動的です。特に、終盤でアメリが「自分は日本人じゃないんだ」と気づく場面はすごく印象に残っていますし、アメリがビーチで水の上を歩くシーンを読んだ時は、「アニメーションにするなら、海を割るような表現にしたいな」なんて想像しながら読んでいました。

©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music

――本作は0歳から3歳の子供の目線で世界を見る物語ですが、そうしたすごく幼い子供の視点を脚本に落とし込むのって、大人にはなかなか難しい作業だったのではないかと思います。子供の感性を、どのように物語へと組み立てていったのでしょうか?

マイリス・ヴァラード:子供がどんな風に世界を見ているかというのは、原作からしっかり読み取ることができるんです。アメリは自分のことを神様だと思い込んでいるんですが、それってどこか不条理でクスッと笑える。そうしたユーモラスな感覚は、きっと子供にも大人にも伝わるはずだと思っていました。

それから、ビジュアルやグラフィックのクリエイターたちと一緒に映画全体のタイムラインを作って、要所要所にファンタジーの要素を入れることに決めました。チームのみんなに自分たちの子供時代の思い出をシェアしてもらって、観る人が自分の子供時代にふっと戻れるようなエピソードをたくさん取り入れていったんです。

リアン=チョー・ハン:みんなで記憶を持ち寄るような作業でしたね。とはいえ、具体的な出来事というよりは、「感覚」として残っているものを拾い集めるような感じでした。その抽象的な感覚を、映画のビジュアルを通して伝えたかったんです。

マイリスも僕も自分の子供がいるんですが、子育てをしていると、アメリのように「自分を神様だと思っている」時期って、どんな子供にも多少なりともあるものだなと実感するんです。もちろんアメリはその中でもかなり変わった子ですけどね(笑)。自分が世界の中心だと思い込んでいる小さな存在が、少しずつ成長して変化していき、「あ、自分は世界の中心じゃなくて、この世界の一部なんだ」と気づいていく。そんな過程をしっかり伝えたいと思いました。

60年代の日本をどう再現したのか

©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music

――本作のビジュアル表現についてもお聞きしたいです。当時の日本の風景が本当に美しく、しかもすごく正確に再現されていますよね。リサーチも相当大変だったんじゃないですか?

マイリス・ヴァラード:アーティスティックディレクターのエディン・ノエルが、本当に日本文化に詳しいんですよ。パートナーが日本人ということもあって、彼自身何度も日本を訪れているんです。

映画の中で1960年代末の日本を再現するにあたって、例えば家具一つをとっても、ただ「日本の家具」を置くのではなくて、「当時のベルギー人の駐在員家庭なら、どんなものを使っていたのか」ということまで考えました。植物や動物についても、その時代、その地域に本当に生息していたか、またビーチの様子や調度品なども徹底的にリサーチしました。

特にこだわったのは、室内に差し込む「光」ですね。障子や縁側、ガラス戸、そしてそこに差し込む光で、家の中の親密さや柔らかな雰囲気を表現しました。家という閉じた空間の中で物語が進んでいくので、アメリにとってその空間がいかに大切かということを念頭に置きつつ、光がどんな風に入ってくるかを正確に計算しました。

エディン・ノエルが家の3Dモデルを作ってくれて、それをベースに絵コンテを描いていったんです。子供の目線の高さから世界がどう見えるかとか、家と人間のスケール感のバランスもしっかり考えました。西洋人からすると日本の家の天井は少し低く感じるので、お父さんが梁に頭をぶつけそうになるような描写もあえて入れています。

一方で家の外の空間は、植物や木々、太陽の光などをできるだけ正確に再現して、小さなアメリが少しずつ触れていく外の世界として丁寧に描いています。多少のミスは残ってしまったかもしれませんが、できる限り正確にリサーチして作り上げました。

リアン=チョー・ハン:ええ、彼が当時のアイテムや動植物の時代考証までとことんやってくれたんです。私たちは日本人ではないからこそ、日本の文化を心からリスペクトしたいという思いがありました。

ただ、この映画に登場する日本には、ある種「理想化」されている部分もあります。というのも、これはあくまでアメリの目線を通した世界であり、アメリ自身がその美しさを発見していく物語なので、どうしても理想化された側面が出てくるのは確かなんですよね。

©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music

異国を描くということ

――本作は日本が舞台ですが、お二人が以前関わられた『カラミティ』はアメリカ、『ロング・ウェイ・ノース 』はロシアが舞台でしたよね。こうして異国を舞台にした物語を作ることには、何か特別な意味やこだわりがあるのでしょうか?

マイリス・ヴァラード:確かに外国を舞台にした作品には多く関わってきました。私自身、自分の知らない場所をテーマにしたプロジェクトがすごく好きなんです。その土地特有の光の質だったり、物の質感だったり、リサーチを通して本当に多くのことを学べるのが楽しくて。残念ながら予算の都合で実際にその国へロケに行くことはできないんですが(笑)、それでもこういう仕事のスタイルは気に入っています。

私たちのチームはみんな、日本への愛情や親近感がすごく強いんですよ。これはフランス全体にも言えることなんですが、ジャポニスムや印象派の時代からずっと続いている、日仏間の文化的な交流やリスペクトの歴史があります。

宮崎駿監督や高畑勲監督の作品からも、ヨーロッパへの愛情を感じ取ることができるのと同じように。私たちも日本への愛を持っていますし、こうした繋がりは長く続いてきたものだと感じています。

今回の原作について言えば、たしかに舞台は日本ですが、実は他の国でも十分に成立する普遍的な物語だと思っています。ただ、日本ならではの素晴らしい点として、自然の表現に他国にはない独自の魅力があるんですよね。そしてそれは、フランスの、特に印象派の絵画とも深く共鳴する部分があると感じています。

©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music

リアン=チョー・ハン:マイリスが言うように、この映画は他の国が舞台だったとしても成立したと思います。幻滅や死など、あらゆるものには終わりがあるということ。でも「それでも人生は生きる価値があるんだ」ということ。そして、自分の殻に閉じこもらずに他者への共感を持つことで、自分自身も成長していけるんだということ。そういった根源的な問いを描いています。ただ、戦後間もない日本の状況というのは、まだ戦争の傷跡が癒えきっていない部分もあって、その独特な背景の中でこの物語を描くことにはすごく面白さがありました。

マイリスの話に少し付け加えるなら、「異文化間の関係性」というのもこの作品の大切なテーマだと思っています。子供って、国境なんて関係なく異文化をすんなり受け入れることができるんです。そして私は、そうした「共感する力」こそが、この世界をより良い場所にしていけるものだと強く信じているんです。

©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music

『アメリと雨の物語』3月20日(金・祝)横浜ブルク13他全国公開

監督:マイリス・ヴァラード、リアン=チョー・ハン

原作:「チューブな形而上学」(アメリー・ノートン著)

音楽:福原まり

声の出演(日本語吹替版):永尾柚乃、花澤香菜、早見沙織、森川智之

2025年/フランス/フランス語・日本語/77分/カラー 配給:ファインフィルムズ 映倫:G 文部科学省特別選定(中学校生徒、高等学校生徒、青年、成人、家庭向き)、文部科学省選定(小学校児童向き)東京都推奨映画

後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、駐日ベルギー大使館

英題:Little Amélie or the Character of Rain

HP:littleamelie-movie.com

©2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music

《杉本穂高》

関連タグ

杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

編集部おすすめの記事