人材育成からアーカイブまで、日本映画の課題に向き合う6団体が「官民連携フォーラム」で活動報告を発表【東京国際映画祭レポ】

第38回東京国際映画祭の企画として「シネマ・コネクティング・ジャパン~官民連携フォーラム~」が開催。第二部は映画産業の持続的な成長を目指し、公的機関や国内外の関連団体と連携しながら活動する6つの団体・組織が登壇した。

グローバル マーケット&映画祭
人材育成からアーカイブまで、日本映画の課題に向き合う6団体が「官民連携フォーラム」で活動報告を発表【東京国際映画祭レポ】
人材育成からアーカイブまで、日本映画の課題に向き合う6団体が「官民連携フォーラム」で活動報告を発表【東京国際映画祭レポ】
  • 人材育成からアーカイブまで、日本映画の課題に向き合う6団体が「官民連携フォーラム」で活動報告を発表【東京国際映画祭レポ】
  • 人材育成からアーカイブまで、日本映画の課題に向き合う6団体が「官民連携フォーラム」で活動報告を発表【東京国際映画祭レポ】
  • 人材育成からアーカイブまで、日本映画の課題に向き合う6団体が「官民連携フォーラム」で活動報告を発表【東京国際映画祭レポ】
  • 関根留理子氏
  • 人材育成からアーカイブまで、日本映画の課題に向き合う6団体が「官民連携フォーラム」で活動報告を発表【東京国際映画祭レポ】
  • 人材育成からアーカイブまで、日本映画の課題に向き合う6団体が「官民連携フォーラム」で活動報告を発表【東京国際映画祭レポ】
  • 左から諏訪敦彦氏、布山タルト氏
  • 人材育成からアーカイブまで、日本映画の課題に向き合う6団体が「官民連携フォーラム」で活動報告を発表【東京国際映画祭レポ】

2025年11月2日、第38回東京国際映画祭の企画として「シネマ・コネクティング・ジャパン~官民連携フォーラム~」がBASE Q(ミッドタウン日比谷)にて開催された。本フォーラムは、コロナ禍を経て浮き彫りになった映画業界の諸課題に対し、官民の協議体や民間団体が広く集結し活動や課題意識を共有、「顔の見える議論」を通じて新たな連携を築くことを目的とするものだ。

本フォーラムは三部構成で、第二部のテーマは「映画振興策の現在」。映画産業の持続的な成長を目指し、公的機関や国内外の関連団体と連携しながら活動する6つの団体・組織が登壇し、それぞれの取り組みと課題を共有。制作支援、海外展開、人材育成、アーカイブ、そして労働環境の適正化まで、多岐にわたるプレゼンテーションが行われた。

登壇者:
槙田寿文(特定非営利活動法人 映像産業振興機構)
高津利浩(公益財団法人ユニジャパン)
関根留理子(特定非営利活動法人 ジャパン・フィルムコミッション)
諏訪敦彦&布山タルト(東京藝術大学大学院映像研究科)
岡島尚志(国立映画アーカイブ)
大浦俊将(一般社団法人日本映画制作適正化機構)


第一部:映像産業支援の課題を議論する「官民連携フォーラム」が開催。官民連携はどこまで進んだ?【東京国際映画祭レポ】
第三部:助監督不足、スクリプターの危機、育児との両立…。12団体が日本映画の現場の課題を赤裸々に報告【東京国際映画祭レポ】

映像産業振興機構(VIPO):人材育成と市場開拓の多層的支援

特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)の槙田寿文氏は、同機構が「人材育成」と「市場開拓」を二本柱に、自主事業と省庁(経済産業省・文化庁)の受託事業を連携・補完させながら展開していると説明した。

自主事業として、海外プロフェッショナルを講師に迎える「VIPOフィルムラボ(国際プロデューサーコース)」や、ニューヨークのフィルムスクール教授らによる脚本開発「NYワークショップ」、東京藝術大学とも連携する「ラ・フェミス(フランスの国立映画学校)監督演出コース」、カンヌ監督週間と連携した上映企画などを紹介。

経産省事業では、コンテンツ海外展開促進(LOX+)におけるプリプロダクション支援が100件を超え、その規模と使いやすさで「日本はトップランナーを走っている」と強調。ウディネ、カンヌ、プチョンなど海外映画祭・マーケットへの伴走支援や、編集コンサルティング「First Cut Lab Japan」の成果にも触れた。

文化庁事業では、若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)から2年連続でカンヌ国際映画祭監督週間に選出される快挙や、商業デビュー率約47%という成果を報告。一方、スタッフ育成プロジェクト(インターン事業)では、業界就職率は75%と高いものの、その後の定着率を追いかけることが課題であると指摘した。

ユニジャパン:映画祭、マーケット、国際支援の3本柱

公益財団法人ユニジャパンの高津利浩氏は、同法人の核となる3つの事業を説明した。

第1に、現在開催中の東京国際映画祭に代表される映画祭事業。今年は「国際交流の進化(交流ラウンジの新設)」「ジェンダー問題への取り組み」「人材育成(アジア学生コンファレンス新設)」と3つの目標を新たに掲げたという。

第2は、TIFFCOMなどのマーケット事業だ。映画のみならずテレビ、アニメ、原作IPなど幅広いコンテンツを扱い、完成作品の売買だけでなく、企画開発や資金調達(ギャップファイナンシング)の場としても機能。今年の参加者数は過去最高となる見込みだ。

第3は、国際支援事業だ。海外映画祭への出品支援、ジャパンブース出展による情報発信、国際共同制作支援、そして文化庁基金によるクリエイター育成事業「Film Frontier」を担う。特にFilm Frontierでは、選抜したクリエイターに対し、アドバイザーが18カ月間伴走し、最大410万円の企画開発費を支援するなど、手厚いプログラムを提供しているという。

ジャパン・フィルムコミッション(JFC):"撮影の窓口"から地域活性化と国際連携へ

特定非営利活動法人 ジャパン・フィルムコミッション(JFC)の関根留理子氏は、JFCが全国135のフィルムコミッション(FC)等が加盟するネットワーク組織であり、加盟組織の9割以上が自治体またはその外郭団体(特に観光部署)によって運営されている実態を説明した。

ミッションは、撮影環境整備、ネットワーク構築、そして地域活性化である。活動は多岐にわたり、年2回の「ロケ地フェア」開催による制作者とのマッチング、FC担当者向けの各種研修による人材育成、VIPOと共同運営する「ジャパン・ロケーション・データベース(JL-DB)」の利用促進などを行っている。

また、インセンティブ(助成金)のプロモーションなど国際展開にも注力。アジア最大の観光イベント「ツーリズムEXPOジャパン」でのプロモーションや、文化庁事業としてアジア地域での共同制作・上映・ネットワーキング事業も実施しているという。

近年は、FCの活動の認知と理解を深める啓蒙活動にも力を入れ、JFCアウォードに経済産業大臣賞が新設されるなど、活動の社会的評価が高まっていることを報告した。

東京藝術大学:「教育者を育てる」新センター構想

東京藝術大学大学院映像研究科の諏訪敦彦氏と布山タルト氏は、文化庁のクリエイター基金助成を受け、2027年までの3カ年計画で構想中の「アニメ・映画 産官学 <協創>リサーチセンター(仮称)」について発表した。

同センターは、アニメーション分野、映画分野、そして分野横断の3つの柱で10のプロジェクトを進める。アニメ分野では共同制作や企画開発ワークショップ、映画分野では演出・脚本・ポスト・プロダクションの各ワークショップなどを実施する。

諏訪氏が特に強調したのは、分野横断プロジェクトとして計画されている「エデュケーター(教育者)育成講座」である。「学生を海外に送るだけでは国際的人材は育たない」とし、映画やアニメーションを教える人材を育てる「土壌作り」の必要性を訴えた。

布山氏は、センターの機能として、開かれた議論の場である「フォーラム」と、実践・研究・理論化・教材開発を行う「ラボ」が循環するモデルを提示。業界団体、スタジオ、他大学、映画祭、美術館など外部との積極的な連携を通じて、知見を広く社会に還元していくとした。

国立映画アーカイブ:「映画の保存」という下支え事業

国立映画アーカイブの岡島尚志氏は、同館が日本唯一の国立映画機関であり、その最も重要かつ地味な仕事が「映画の保存」であると語った。

世界最先端レベルの保存施設(相模原分館)を有し、所蔵フィルムは2000年の約2.5万本から、現在は9万本超へと急増している。上映活動(長瀬記念ホール OZU)や資料展示も行う。

また、コレクションの6割を占める記録・文化映画や、日本のアニメの基礎となった「古アニメ」などをデジタル化し、ポータルサイトで無料配信していることも紹介した。

映適:制作現場の「適正化」進捗と課題

一般社団法人日本映画制作適正化機構(映適)の大浦俊将氏は、映画振興策とは異なる「映画制作現場の適正化」という観点から、2023年4月にスタートした同機構の取り組みを報告した。

映適は、映画制作者(映連)、制作プロダクション(日映協)、スタッフ(映職連)の3団体合意により設立された第三者機関だ。目的は「適正取引ガイドライン」の遵守を「作品認定制度」によって審査すること。ガイドラインには、適正な契約書の交付、撮影時間(最大11時間)、休日(週1日+2週に1日の完全休養日)、安全管理、ハラスメント対策などの9項目が定められている。

制度開始から約2年半(10月末時点)で申請192本、認定108本に達し、3年目は年間100本に迫る勢いである。日本アカデミー賞対象となる実写映画の8割以上をカバーする計算になる。

成果として、申請作品の平均撮影時間は8時間49分(上限11時間)、平均休日は週2.04日となり、制作現場の強い意志と努力によってルールが守られている実態が数字で示された。

一方、課題として、適正化に伴う制作費の上昇(110%~150%増のケースも)と、スタッフ増員に対応できない深刻な人材不足を挙げた。前者については文化庁の補助金増額などに期待を寄せつつ、後者については映適スタッフセンターへの登録促進を促し、ネットワークが拡充することでマッチング機能を充実させることでの対応が期待されるが、登録数が順調に増えていないと現状を明らかにした。


第二部では、6つの団体・組織が、それぞれの立場で多角的に日本映画の課題にアプローチしている現状が示された。人材の育成と海外展開、撮影環境の整備、文化としての保存、そして持続可能な労働環境の構築。課題は多岐にわたるが、各々が具体的な成果と新たな課題を同時に提示した。

各団体の活動が個々に留まらず、この場で共有された知見と課題を基に、今後どのような「新たな連携」が生まれていくのか、注目される。

《杉本穂高》

関連タグ

杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

編集部おすすめの記事