ディズニープラスのエグゼクティブ2人が語るアジア太平洋地域における戦略「オーセンティックなローカル作品が結果としてグローバルに届く」

ディズニープラスのエグゼクティブ2人がAPAC地域におけるオリジナルコンテンツの重要性について語る登壇が実現。日本の実写作品への期待も語られた。

グローバル アジア
左:キャロル・チョイ氏、中央:エリック・シュライヤー氏
左:キャロル・チョイ氏、中央:エリック・シュライヤー氏
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  • エリック・シュライヤー氏
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2025年11月13日、ウォルト・ディズニー・カンパニー・アジア・パシフィック(ディズニーAPAC)は、アジア太平洋地域(APAC)のオリジナルコンテンツを発表する「ディズニープラス・オリジナル・プレビュー 2025」にて、同地域におけるオリジナルコンテンツ戦略に関する、重役の対談を開催した。

登壇したのは、ディズニー・テレビジョン・スタジオ&グローバル・オリジナル・テレビ・ストラテジーのプレジデントであるエリック・シュライヤー氏と、ディズニーAPACエグゼクティブ・バイスプレジデントのキャロル・チョイ氏。グローバル戦略におけるローカルコンテンツの重要性、クリエイティブに対する哲学、そしてアジア市場の今後の展望について語った。


グローバル戦略に不可欠なローカルコンテンツ

対談の冒頭、シュライヤー氏は、ディズニープラスの成長戦略において「我々にとってローカルのオリジナルコンテンツは不可欠なものだ」と強調した。

同氏は、ディズニー、マーベル、スター・ウォーズ、ピクサーといった世界的なブランドを「グローバルスレート(世界共通の番組編成)」と位置づける一方で、「それだけでは、各地域に特化したコンテンツは提供できない」と指摘。

「我々がやろうとしているのは、そのグローバルな番組編成を、地域に根差した物語で補完することだ」と述べ、世界中のクリエイティブにおおいに刺激を受けているという。

エリック・シュライヤー氏

チョイ氏もまた、この日発表されたオリジナル作品群に触れ、「本日の発表は、APACにおけるローカルコンテンツへの我々のコミットメントを再確認するものだ。アジアのクリエイターに継続的に投資していくことは私たちの戦略にとって重要」と応じた。

「コーチ」としてクリエイターの夢を実現する

『SHOGUN 将軍』などを生み出したFXエンターテインメントの元プレジデントとして20年以上のキャリアを持つシュライヤー氏に対し、司会から「ディズニーのエコシステムの中で、どのように大胆で独特な物語を作り続けることができているのか」という質問が投げかけられた。

シュライヤー氏は、自身の役割を「クリエイターが最高の仕事ができる環境を整え、彼らの夢の実現を助けるコーチ」と表現する。また、「自分が日本や韓国、あるいはオーストラリアの視聴者が何を求めているかを知っているふりはしない」ことが大切だと強調。「私はアメリカ人が好むものは知っている。そして、物語が何か、ビジュアル・ストーリーテリングがどう機能するものかも理解している。私の仕事は、キャロル(・チョイ氏)のような各地域のリーダーやクリエイターが最高の仕事をし、彼らをサポートすることだ」と続けて語る。

シュライヤー氏は「映像作品作りは、製造業とは違う」とし、決まったプロセスは存在しないという。「脚本を開発し、パイロット版を撮影し、本編の撮影をする」という伝統的な流れもあれば、パイロット版をスキップすることもある。「最終的には、クリエイティブな人々の声に耳を傾け、彼らを導くことだ」と述べた。

local for local」戦略とグローバルな共感

APACでのコンテンツ制作において、グローバルとローカルなニーズをどう両立させているかという質問について、チョイ氏は「基本的には素晴らしい物語、高い製作価値、そして強力なキャラクター造形が肝心」と答える。その上で、「我々の『local for local』戦略は、そうした普遍的な要素に、地域に根差したニュアンスや要素を融合させることだ」と説明。この戦略が、『ムービング』や『カジノ』といった韓国ドラマの成功につながっていると分析した。

キャロル・チョイ氏

また、オーストラリアのジャーナリストから「ローカルの制作者はグローバルな視聴者のために物語を調整する必要があるか」という質問に対し、チョイ氏は「最も重要なのは、オーセンティック(本物)であること」と回答。ローカルでかつ本物の物語であることが、結果としてグローバルな共感を呼ぶ作品になると回答した。

シュライヤー氏も、コンテンツの選定は「データサイエンス」と「アート」のバランスが重要と語る。「我々は視聴データを分析するが、最終的には、各地域の幹部やクリエイティブ・パートナーが考える『視聴者が何を求めているか』という本能や直観と、彼らのアートに対する夢に賭ける」と述べ、データだけでなく、リスクをとってクリエイティブを追及する姿勢の重要性を説いた。

実際にローカル作品が国境を越えている事例として、シュライヤー氏は「韓国ドラマはラテンアメリカやヨーロッパでとても高い人気を誇っている。日本アニメは視聴者の65%が日本国外」と明かした。

APACのトレンドと日本市場への期待

世界のトレンドについて、シュライヤー氏は、人々の可処分時間の減少に伴い、「より短い尺の番組(例:30分ドラマ)」や、「よりタイトなエピソード」が好まれる傾向にあると指摘。また、ディズニーが重視するものとしてファンダムを挙げ、いかにして熱狂的なファンを生み出せるかが鍵であるとした。

チョイ氏はAPACのトレンドとして、2分程度の「超短尺の縦型ドラマ」の台頭に言及。また、音楽やライフスタイルを扱った「アンスクリプテッド(台本なし)」の番組フォーマットを積極的に模索していると述べた。

シュライヤー氏は、APAC地域の中でも特に日本について強い期待を寄せていることを明らかにした。「韓国ドラマや香港映画、日本アニメに比べ、日本の実写作品は、まだ世界で大きな成功を収めていないが、我々は真剣に期待している」と語り、今年6月に東京でクリエイターたちと会談したことに触れ、日本のドラマの世界展開に強い意欲を示した。

コラボレーションの鍵は「信頼」

最後に、クリエイティブなコラボレーションについて、シュライヤー氏は「すべては信頼から始まる」と即答した。「なぜなら、最終的にはリスクを取らなければならないからだ」と述べ、対等なパートナーシップが不可欠だと語る。

チョイ氏も、講談社のような出版社、HYBEのようなタレントエージェンシー、そしてゲーム会社など、多様なパートナーシップがIPの発掘源となっていると説明。こうしたパートナーが「アジアから、より大きく、より良いプロジェクトを生み出し続ける機会を与えてくれている」と述べ、今後の更なる展開に自信を見せ、対談を終えた。

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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