仏アニメーション業界のカーボン計算ツール「Carbulator」、アイルランドと提携し欧州展開へ。2027年の国際標準化目指す

映像産業における環境負荷低減が世界的な課題となる中、フランスアニメーション業界のカーボン計算ツール「Carbulator」がアイルランドと提携。英語版を開発し、2027年に国際標準化を目指す動きが進行中。

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出典:https://carbulator.org/
出典:https://carbulator.org/

フランスのアニメーション業界団体AnimFranceは2025年10月15日、アイルランドのAnimation Irelandとの提携を発表した。この提携は、フランスで開発されたアニメーション制作用カーボン計算ツール「Carbulator」をヨーロッパ全域に展開するもので、Animation in Europeの後援を受けている。映像産業における環境負荷低減が世界的な課題となる中、2027年までにヨーロッパ共通の測定基準を確立し、将来の国際標準化を目指す。


アニメーション制作特化の「Carbulator」、仏CNC唯一の認定ツール

「Carbulator」は、アニメーション制作者の特定のニーズに合わせて設計された、業界初のカーボン計算ツールである。2025年3月にフランスでローンチされ、短期間でフランス国立映画センター(CNC)が認定する唯一のカーボン計算ツールとなった。

その最大の特徴は、独自の計算方法論にある。スタジオという恒久的なインフラとしてのカーボンフットプリントと、プロダクション(作品)のフットプリントという2つのレベルを組み合わせて測定する。アニメーション制作がしばしば複数年にわたり、複数の拠点をまたいで行われるという特性を考慮した設計だ。

フランス国内では既に100件以上のカーボンアセスメントを提供し、400を超えるアクティブユーザーを抱えている。AnimFranceは「Carbulatorは、スタジオの競争力と責任の両方を強化する実用的なツールだ」と述べている。

Screen Ireland支援で英語版開発、アイルランドが欧州展開の足掛かりに

ヨーロッパ展開の第一歩として、Animation IrelandがScreen Irelandからの財政的支援を受け、Carbulatorの英語への翻訳およびローカライズに着手した。

アイルランド・キルケニーに拠点を置く著名なスタジオ「カートゥーン・サルーン」とのパイロットプロジェクトも既に実施され、同ツールがアイルランドのスタジオのニーズにも適合することが確認されている。

この動きは、ヨーロッパ全体での機運の高まりを受けたものだ。EU27カ国のプロデューサー協会連盟であるAnimation in Europeは、2024年から生態系移行に関するワーキンググループを運営。その「グリーン・アニメーション」タスクフォースは、Carbulatorをヨーロッパ共通の参照ツールとして採用するよう推奨していた 。

Animation IrelandのMoe Honan氏は「ヨーロッパ全体での協調的なアプローチだけが、業界全体に利益をもたらす、信頼でき認識された測定基準を確立できると確信している」とコメントした。

2027年に共通バージョン確立へ、国際標準化見据えMIPCOMでも議論

今回の提携における明確な目標は、2027年までにCarbulatorの共通バージョンを確立することである。これにより、ヨーロッパのスタジオに統一され、広く認識されたフレームワークを提供し、将来的な国際標準の基盤を築くことを目指す。

Animation in EuropeのPhilippe Alessandri会長は「ヨーロッパのアニメーションは常に革新の実験室であった。Carbulatorによって、環境課題に取り組み、国際舞台で模範を示すための具体的なツールを手にした」と期待を寄せた。

この構想は、2025年10月14日にMIPCOMカンヌで開催された欧州委員会主催のワークショップでも主要議題として取り上げられた。スタジオ、行政機関、パートナー企業が一堂に会し、アニメーション業界のグリーン移行を推進し、将来の国際的な規制に対応するための共通ツールについて議論が行われたという。

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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