『キンプリ』最新作のヒットを支えた地方映画館。ファン主体の応援上映を支えるローカル施策

昨年8月に公開されたアニメ映画『キンプリ』の最新作、劇場版『KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-』は異例のロングランヒットとなった。本作のヒットに寄与したのは「応援上映」に様々な工夫を凝らすローカル映画館だ。『キンプリ』のこれまでの歩みと地方施策の可能性を紐解いていく。

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『キンプリ』最新作のヒットを支えた地方映画館。ファン主体の応援上映を支えるローカル施策
筆者撮影 『キンプリ』最新作のヒットを支えた地方映画館。ファン主体の応援上映を支えるローカル施策
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アニメ映画『キンプリ』こと『KING OF PRISM』シリーズの最新作、劇場版『KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-』(通称『キンドラ』)が、映画館に興味深いムーブメントを生み出している。

2024年8月16日に公開された最新作『キンドラ』は、過去作映像に新作パートを加えた「再編集版」にあたる。上映館数は初動で30~50館。スタートとしては小規模ながら、約3ヶ月で興行収入4億円を突破した。公開規模に対する興行収入の大きさには目を引くものがあるが、最大のインパクトは、その興収4億円を支えたのが「全国のローカル映画館」という点にある。

独自の応援上映スタイルを作る『キンプリ』

『キンプリ』は2016年『KING OF PRISM by PrettyRhythm』でスタートし、スクリーンの登場人物に声をかけたりペンライトを振る「応援上映」で人気に火が付いた。映画館に応援上映を定着させた作品としても知られている。

作品は「プリズムショー」を行なう主人公・一条シンら男子スタァたちの物語。ショーはフィギュアスケートに近いが、観客に素敵なイリュージョンを見せる。一方で、物語は現実世界と近く、スタァの家族なども登場するホームドラマである。

菱田正和監督による現実世界にイリュージョンが染み出すような演出により、「キンプリの応援上映」は独自に進化した。観客が、舞台を演出する“大道具係(黒子)”になるのが特徴だ。

花火のシーンでは、ペンライトの色を切り替え続けて「色とりどりの花火」を表わす。蛍が夜空を舞うシーンでは、ペンライトを白色にして空中でくるくると動かす。後方座席から見ると、光がまるで舞台装置のように見える。自分たちが舞台装置となることで、スタァがいる現実世界=「映画館の空間」を輝かせるという発想だ。

キンプリの「応援上映」は、リピーターが非常に多い。それはファンの「舞台装置になる」発想が、常に新たな“応援芸”を作っているためだ。面白い応援芸があれば、見た人が取り込み、別の映画館で披露する。客から客へと芸が伝わり、全国に伝播する。同じ劇場でも毎回異なるパフォーマンスが見られるため、繰り返し通ったり、全国の劇場に「遠征」するファンも多い。上映前に流れる「ご当地CMの応援芸」も楽しみのひとつだ。

観客による応援芸は、映画の「もうひとつのコンテンツ」として機能し、熱心なリピーターによって「のべ観客動員数」を増やしてきたとも言える。

「人を見る」応援上映の特性が集客に差を生む

『キンプリ』を企画した初代プロデューサー、エイベックス・ピクチャーズの西浩子氏によると、「同じ客が10回通ってくれることを想定して作品映像を作った」という。

好調に見える『キンプリ』だが、コロナ禍以前より、シリーズの興行収入は下降傾向にあった。第1作『KING OF PRISM by PrettyRhythm』は応援上映が注目され8億円を突破。第2作『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』は6億円、TVシリーズと連動した第3作目『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars』は全4章で構成されており、映画4本分で4億円という結果に終わっている。

実は「応援上映」には大きなウィークポイントがあった。集客できる映画館と、そうでない映画館の差が大きくなるという点だ。

応援上映は「観客のパフォーマンス」を見るため、ファンは観客が多く集まる映画館を選ぶ。「人が人を呼ぶ」特性が、賑わっている東京・新宿や、大阪・梅田など大都市部の映画館に観客を集中させた。一方で、全国各地域の映画館に人が入らず、終映を向かえることも多くあった。

2020年には、新型コロナウイルス感染拡大防止のため映画館への自粛要請があり、発声を伴う応援上映は終映を向かえた。応援上映を集客の柱としていた『キンプリ』は大きな打撃を受けた。

立ち上がるローカル映画館

以前から観客動員に弱点も見えていた『キンプリ』が24年に再始動できたのは、コロナ禍の最中に映画館が動いた点も大きい。立役者となったのは「ローカル映画館」だ。

ディノスシネマズ札幌(現サツゲキ)、池袋HUMAXシネマズ、神奈川県のイオンシネマ海老名、あつぎのえいがかんkiki、兵庫県の塚口サンサン劇場、福岡県福岡市のkino cinéma天神などが過去作の再上映を始めた。

多くが独立系シネコンチェーンやミニシアター。これらは新作上映が大手よりも遅い二番館であったり、郊外に位置するなど集客面でハンデがうかがえる映画館も多い。これらの映画館では、スタッフがお手製の飾り付けをして撮影スポットを作ったり、感想が書けるメッセージボードなどを置くなどして『キンプリ』を盛り上げた。

ローカル映画館のアドバンテージは独自裁量が大きい点にある。コロナ禍における大きな発明が「無発声応援上映」だ。幾つかの劇場では太鼓やタンバリンなどの貸し出しが行なわれ、クラッカーや紙吹雪を許可する応援上映が開催された。発声がダメなら鳴り物の音で応援を表現してもらう。そこには「届いたものを流す」だけではない新しい映画館の存在価値が生まれていた。

コロナ禍でリアルの娯楽が制限され閉塞感を抱えるファンにとって、応援上映を続けてくれる映画館が地元の仲間が集うコミュニティの場になっていった。

ファンは次第に映画館自体のファンになっていき、スタァの誕生日上映を行なったキノシネア天神のロビーには、有志からのフラワースタンドが飾られた。

ローカル映画館は地元密着型で小さなコミュニティづくりに長けている。様々な企画でファンの情熱に応え、国内移動の制限が解除された後には、遠征客も相次いだ。こうした動きにより、『キンプリ』ファンは「地方の映画館がファン活動の拠点になる」ことを認知したのだ。

最新作『キンドラ』で公式が地方施策を強化

作品公式は、かねてより地域の映画館への施策を積極的に行なっていた。『キンプリ』2作目では、西浩子プロデューサーが、スタァの出身地を全国各地に設定し、映画に週替わり映像もつけた。舞台挨拶では監督とともに全国の劇場を回った。

《私は地方出身なんですけど、何でも東京にばかり集中していると(略)各ユニットをご当地担当みたいに配置すれば、自分が住んでいるところに好きなキャラが来たとき、めちゃめちゃ嬉しいですよね》

(2017年 一迅社「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-公式設定資料集」プロデューサー対談より)

「聖地」も生まれている。スタァ・鷹梁ミナトの出身地、静岡にあるシネシティザートもそのひとつだ。ミナトにちなんだ応援用アイテムの貸し出しを行い、同県出身のミナト役声優、五十嵐雅氏も舞台挨拶に訪れる。

最新作『KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-』(『キンドラ』)では、これまでの公式施策が下地となり、「点と点」から「面」へと進化が感じられた。最も大きいのは、東京・新宿バルト9で開催される舞台挨拶を、ライブビューイングで全国各地域の劇場に毎週末、連続で中継したことだろう。過去作でも各地舞台挨拶は行なわれていたが、単発だったために「一日だけの盛り上がり」になる映画館も多かった。

今回は、全国中継と現地訪問の舞台挨拶を組み合わせたことで、ファンにとって「毎週末、地元の映画館で舞台挨拶がある」状態を作り出した。


《渡辺由美子》

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渡辺由美子

アニメ文化ジャーナリスト 渡辺由美子

90年代よりアニメ業界、クリエイターに取材を続ける。近年は「産業としてのアニメ」と「ファン文化」との関連性について執筆。主な連載・執筆媒体に『朝日新聞』『ASCII.jp』『週刊東洋経済』等。女性アニメライターの先駆けとして、「女性アニメファンの流行と歴史」についての発表も多い。

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