ディズニープラスはパートナーシップとコンテンツなど4つの柱で成長する。ゼネラルマネージャーが語る成長戦略

日本の動画配信市場が成長を続けている。動画配信市場の主要プレイヤーである「ディズニープラス」は、どのような戦略を立てているのか。ウォルト・ディズニー・ジャパンでディズニープラスの国内展開を統括するデイヴ・パウエル氏に話を聞いた。

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ディズニープラスはパートナーシップとコンテンツなど4つの柱で成長する。ゼネラルマネージャーが語る成長戦略
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  • デイヴ・パウエル氏
  • 『SHOGUN 将軍』
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日本の動画配信市場が成長を続けている。

コロナ禍で大きく伸長した同市場は、2023年には5,250億円で前年比108%の規模となった(一般財団法人デジタルコンテンツ協会調べ)。2028年には6,330億円まで成長すると予測されている。

動画配信市場の主要プレイヤーであるディズニープラスは、日本でサービスを開始してから今年で5年目となる。2024年は、エミー賞最多25部門ノミネートの快挙となった『SHOGUN 将軍』、そして岩明均のマンガを実写ドラマ化した『七夕の国』が好調で、日本国内でも定着してきている同サービスは、今後どのような成長戦略を描いているのだろうか。ウォルト・ディズニー・ジャパンでディズニープラスの国内展開を統括するバイスプレジデント&ゼネラルマネージャーであるデイヴ・パウエル氏に同サービスの施策について話を聞いた。

デイヴ・パウエル氏。

日本の動画配信市場は大きな成長性を秘めている

――デイヴさんは2022年にディズニーに入社されたそうですが、それ以前はどんなお仕事をされていたのですか。

私は2001年から日本で仕事をしています。キャリアの多くは、エンタープライズ・テクノロジー関連の仕事で、例えば、セールスフォースやサービスナウ、それからGoogleにも4年在籍し、YouTube関連の仕事をしていたこともあります。

――テック系のキャリアからエンタメ産業の中心であるディズニーに移ろうと思ったのはなぜなのですか。

私は小さい頃からディズニーのファンでした。5歳くらいの時にはディズニーのキャラクターがテーマの誕生会に行ったことをよく覚えています。やはり、ディズニーというワクワクするものを生み出す会社に属することができるのは、とても光栄なことです。

それに、分野が異なっていても、仕事に必要なスキルには共通するものが多いですし、今市場としても非常に興味深い市場だと思います。

――日本国内の配信市場の成長性について、どのようにお考えですか。

ディズニーは、日本を含めたAPAC(アジア太平洋地域)を戦略的に重視してきました。日本はアジアの中でも大きな市場を持っていますし、ディズニーのファンも昔からたくさんいる地域です。その上、日本における配信市場はまだまだ上昇できる余地がたくさんあると考えています。2019年と2024年を比較すると、日本の配信市場は5年間で倍の規模に成長しています。今年の第1四半期には、日本全体で配信サービスの新規加入者は65万人だったんです。

米国では80%の世帯が何らかの配信サービスに加入している状態ですが、それに対して日本ではまだ約30%の世帯しか契約していないという調査もあります。ですから、まだまだ大きな成長可能性を秘めた市場と言えます。だからこそ、ディズニー以外のグローバル企業も国内の企業も配信にどんどん日本に投資している状況なのでしょう。

ディズニープラスはパートナーシップを重視

――そんな成長市場の日本で、ディズニープラスはどうユーザーを獲得してきたのでしょうか。これまでにどんな施策が効果的でしたか。

まず、我々は特別かつユニークなコンテンツを提供できると自負しています。質の高いストーリーテリングを持った作品を数多く抱えています。その上で4つの柱があります。マーケティング、パートナーシップ、コンテンツ、そしてプラットフォームそのものです。

まずパートナーシップについてですが、協力企業とともに常に様々な施策を試行錯誤しながら提供してきました。例えばNTTドコモやJ:COM、Huluなどとは長期的に良い関係を築いています。最近では、旅行会社のJTBとも新たな取り組みを発表しました。東京ディズニーリゾートのツアーには30日間のディズニープラスの無料トライアルがついてきます。ディズニーリゾートに行く前から作品の世界を深く知って、そこから現地に行くとその世界観にどっぷりと浸れる体験になるでしょう。

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また、109シネマズの公式ホームページから入会すると、ディズニープラススタンダードプランを2ヶ月間 50%OFFでお楽しみいただけるキャンペーンを期間限定で実施しています。

また、最近になってJALとも新たな取り組みを発表いたしました。JALの機内でディズニープラスの厳選されたオリジナル作品を視聴できるようになったのです。

さらに、Apple Vision Proでディズニープラスを楽しんでいただけるようになりました。360度の背景を『モンスターズ・インク』の工場やアベンジャーズ・タワーの一室、『スター・ウォーズ』のタトゥイーンやディズニーのエル・キャピタン劇場にできる上に、眼前に大画面のスクリーンを展開できて、これまで以上に没入感ある視聴体験を提供できるようになりました。

Apple Vision Proでディズニープラスを楽しむことができるように。

――Huluとのセットプランの提供を開始して、効果はどれほどありましたか。

まず、国内でHuluの事業を展開する日本テレビとは、我々は長い間友好的な関係にありました。結果にはとても満足しています。2つの配信会社が手を組むのは、日本においては初めてのことです。ディズニープラスは世界のコンテンツを、Huluは国内の幅広いコンテンツを提供できるという点で、とても魅力的なものであると思っています。

その他、日本社会において特有なのは、多くの人が通勤と通学に時間を費やすことですね。ですので、日本では屋外広告にも力を入れています。屋外広告については地域性も考慮して、例えば、新大久保には韓国ドラマの広告を展開し、原宿などでは若者向けの作品をマーケティングチームがプッシュしています。屋外広告だからこそできることもあります。最近で私個人のお気に入りだったのは、銀座と新宿で展開した、スター・ウォーズドラマ『オビ=ワン・ケノービ』の長さおよそ50メートルのライトセーバーです。駅構内の巨大サイネージにライトセイバーが現れたのは圧巻でした。

『SHOGUN 将軍』はディズニープラスで最も成功した作品のひとつに

『SHOGUN 将軍』ディズニープラスで独占配信中 Courtesy of FX Networks

――パートナーシップやプロモーションという観点の他、コンテンツについてはいかがでしょうか。

最近『ピーターパン』に『塔の上のラプンツェル』『アナと雪の女王』の視聴が急に伸びました。これは東京ディズニーシーのファンタジースプリングスがオープンしたことがきっかけで、ディズニープラスとテーマパークには相乗効果が期待できるということです。それから、最近では『スター・ウォーズ』シリーズ最新作の『スター・ウォーズ:アコライト』が、配信開始から5日間で1,100万回以上の視聴を記録しています。日本発のオリジナル作品『七夕の国』も非常に好調です。

――『七夕の国』はとても面白く出来ていましたが、日本以外の国でもたくさん観られているのですか

やはり最初は日本国内での視聴数が多かったのですが、そこから海外にも広がっています。あと国内作品では『ガンニバル』が大変好評でして、シーズン2も今後お届けできることを楽しみにしています。

――『ガンニバル』のようなタイプの作品をディズニーが手掛けることに驚きもありました。

我々の「スター」というブランドのもとでリリースしていますが、スターでは様々なジャンルの作品を提供していきたいと思っています。例えば、最近リリースした『SHOGUN 将軍』も、ディズニーのイメージとはすぐに結びつかない作品ではないかと思います。しかし、以前から米国内では、たくさんのタイプの作品をジェネラル・コンテンツとして制作し、スター作品としてディズニープラスで配信してきました。

『SHOGUN 将軍』の原作は私も子どもの頃に読んでいたのですが、私を含めて初めて日本に触れるきっかけとなっていると思います。だからこそ、本作の成功は嬉しかったですね。ご存じの通り、エミー賞で最多25部門のノミネートを果たしました。本作は主要言語が日本語ですから、これは前代未聞のことです。

――『SHOGUN 将軍』の配信は、日本国内のディズニープラス加入者の増加に貢献しましたか。

『SHOGUN 将軍』はディズニープラスの中でもトップクラスの一本で、我々の期待をはるかに超える成功となりました。これは、日本の描かれ方がすごく良かったのだと思います。時代考証がしっかりしていて、日本人スタッフが数多く参加されていますし、何より真田広之さんがプロデューサーとしてクリエイティブの中心を果たしてくれたからこその結果でしょう。

――今後、日本市場でどのようにディズニープラスを広めていくのか、ビジョンがあれば最後にお聞かせください。

とにかく、なるべく多くの方に、ディズニープラスにアクセスしてもらえるように展開していきたいです。例えば、コンビニでプリペイドカードを販売するなど日本ならではの導線がありますから、そういうものも大事にしていきたい。

それから、日本では地上波テレビの力が非常に強いので、例えば日本テレビの『金曜ロードショー』と組んで、ディズニープラスのコンテンツをアピールするなど、色々な方法を試していきたいと思っています。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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