縦割り行政を打破できるか。映画に特化した支援機関の設立に向け一歩前進

「第28回新しい資本主義実現会議」で、コンテンツ産業の支援一元化のために「コンテンツ産業官民協議会」と「映画戦略企画委員会」の設置が発表された。これにより、映画業界の支援体制が改善され、縦割り行政を克服する期待が高まっている。

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縦割り行政を打破できるか。映画に特化した支援機関の設立に向け一歩前進
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6月7日に開催された「第28回新しい資本主義実現会議」は、今後のコンテンツ産業にとって極めて大きな意味を持つものだった。本会議において、日本のコンテンツ産業活性化とクリエイターの労働環境改善のために「コンテンツ産業官民協議会」を設置する方針が固められたからだ。さらに、映画産業にとって重要なのは、政府の映画支援を一元化するための「映画戦略企画委員会」もその下に置かれる方針が確認されたことだ。

この委員会の設置は、長年映画製作者たちが求めてきた、省庁の垣根を超えた一元的な支援体制がようやく実現する可能性が大きく広がったことを意味する。

縦割り行政を乗り越えるため、司令塔機能を強化

「新しい資本主義会議」は、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現するため内閣官房が設置したものだ。4月に開催された第26回の会議では、映画監督の是枝裕和氏や山崎貴氏が招かれ、現場の意見を首相らに直接伝えたことで話題となった。


この時は、第一にクリエイターの支援をすることの重要性が議論されたが、それを受けて第28回会議ではクリエイター支援のために、政府の司令塔機能を一元化するための組織を設置する方向が確認された。

この日の会議資料によると、「コンテンツ産業官民協議会」は、内閣府・文部科学省(文化庁)・経済産業省・総務省・外務省・公正取引委員会などの関係省庁とコンテンツ関係者(クリエイター・関係業界など)から構成されるという。主な任務として、クリエイターが安心して持続的に働ける環境整備と海外展開や情報発信、産業全体の支援制度のあり方を議論するものになる。

これまでコンテンツ産業の支援は、縦割り行政の中で分断されてきたために、上手く機能してこなかった歴史がある。この会議資料にはそのことに対する反省が盛り込まれており、以下に引用するように、経産省と文化庁の施策を統合する体制への変革を目指すとある。

「具体的には、これまで両省庁で要求してきたクリエイター支援・事業者支援双方を束ね、「クリエイター支援基金」に統合する。クリエイター支援の強化を念頭に、教育、人材育成、労働環境整備、製作支援、国際展開支援、国内流通機能強化、国際プレゼンス向上等のカテゴリ毎に実行するよう、体制を刷新する。」

新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版案(P.24)

映画に特化した支援機関の実現に向けて一歩前進

そして、コンテンツ産業官民協議会の下に、映画支援に特化した「映画戦略企画委員会」を設置する方針も発表された。こちらも構成メンバーは関係省庁と映画関係者のクリエイターからなるとしている。この専門協議会の任務は、「映画関連のクリエイターが安心して持続的に働ける環境の整備、映画に関する支援制度の在り方、映画の海外展開・発信・映画のロケ地誘致等について具体的な方策の企画立案を行う」としている。

この映画専門協議会設置の実現には、第26回会議で是枝監督や山崎監督が招かれたことも大きく関係しているだろう。特に是枝監督も参加している「action4cinema」が、映画業界全体の適正化と国際競争力向上のための活動等を支援する、専門組織の実現を求めて活動し続けてきたことが影響していると思われる。

これまでの映画支援は、経産省と文化庁に管轄が分かれていることの弊害をよく指摘されてきた。製作費の助成などは文化庁が行い、海外展開の後押しは経産省が行うといった状態で、それぞれの省庁の権限や利害を超えることがなかなかできなかった。例えば、クールジャパンは経産省の事業だが、海外映画祭出品のための英語字幕制作の支援などは文化庁が行っていた。どちらも海外展開の支援なのに、分かれていてわかりにくいのだ。

フランスや韓国、台湾など各国にはそれぞれ映画専門の振興組織が存在しており、各国の情報交換が密になされているが、日本はその輪に加われていない現状があった。昨年、韓国の映画支援組織「KOFIC」の委員長がそうした組織の不在により、日本がアジア映画の連帯から外れてしまっている現状を指摘していた。


KOFIC委員長の指摘は、昨年5月、カンヌ国際映画祭でアジア7つの国と地域の映画機関が中心となって「アジア映画アライアンスネットワーク(AFAN)」が発足したことを受けてのものだ。実は、このネットワークに日本も参加してほしいと打診はあったのだが、カウンターパートとなれる組織が日本にはなかったために、話が上手く通らなかったのだ。

映画戦略企画委員会には、この課題の解決が期待される。action4cinemaも今回の決定を受けて声明を発表。提言してきた包括的な映画支援を実現することに一歩近づいたと評価している。

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《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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