コロナ禍以降、アニメーション作品やマーベル作品の低調な成績が尾を引き、厳しい状況が続いていたディズニー。
特にアニメーション作品は『マイ・エレメント』を除いてほとんどの作品が赤字としてメディアにも大きく取り上げられる機会も多く、昨年2023年はついに8年間守り続けていたスタジオ別興行収入No.1の座すらもユニバーサルに明け渡してしまう結果となった。
それに追い討ちをかけたのがハリウッドのダブルストライキだ。多くのコンテンツ制作や宣伝がストップし、1月~3月期の決算発表では映画配給を中心とするコンテンツ販売・ライセンス部門の売上高は40%減に。まさに“絶体絶命”の危機に瀕してしまったのだ。
しかし、その逆境からディズニーを救った作品が6月に海外で公開がスタートした『インサイド・ヘッド2』である。観客と批評家ともに大絶賛で迎えられている本作は、歴史的に見てもアニメーション映画として規格外の売上を記録しており、先週末時点での累計興収は約1,150億円(6月28日時点のレート)を記録する大ヒットに。わずか10日間で『デューン 砂の惑星 PART2』を上回る、2024年最高の数字(暫定)をマークしている。
多くの専門家の予測を良い意味で裏切る結果となったが、まさにこの作品のヒットは映画業界にとって2つの大変革を示すものになると私は考えている。日本ではまだあまり報じられていない歴史の転換点となるヒットについて、この記事で解説したい。
「インサイド・ヘッド」がもたらす2つの大変革
まず、1つ目は冒頭でも触れたディズニーの形勢を一転させる大変革だ。やはり、近年のディズニー劇場アニメーション作品の不調の原因として言われてきたのが、2020年から続く「オリジナル路線」。当時ピクサーの社長だったジム・モリス氏は「『インクレディブル・ファミリー』以降、オリジナル作品の制作に注力する」とインタビューで語り、コロナ禍に入って以降、劇場アニメーションの続編作品は制作されてこなかった。
確かに続編ばかりだとクリエイティブ性が失われるという意見にはおおむね同意できるが、いかんせんその「オリジナル路線」とコロナ禍におけるストリーミングサービスの台頭の相性が非常に悪かった。まず、ストリーミングサービス界への参入に向けたDisney+の劇場側の利益を顧みないやや強引な集客スタイルはファンから反感を買う動きも見られ、その発端となったのが『ムーラン(実写版)』のDisney+のプレミアムアクセスによる公開である。
突然の劇場上映キャンセルに、ただでさえ困窮状態だった映画館からは次々と怒りの声が寄せられ、ディズニーはその後だんだんと従来の劇場優先公開にシフトするも時すでに遅しという状態に。ファミリー層はディズニーアニメを家で観る文化が定着してしまい、映画館に向かうディズニーファンの客足がどんどん遠のいてしまったのだ。
さらに、オリジナル作品となると続編作品に比べていち早く劇場に足を運ぶ動機にはなりづらく、そう言った意味でオリジナル路線とストリーミングサービスの台頭は、当時のディズニーアニメにとって厳しい状況だったと言える。
加えて、その肝心となるDisney+を始めとした配信事業は業績赤字が続いており、業績悪化の一因となる厳しい事業に。加入者数の増加率が伸び悩んでおり、当時のCEOボブ・チャペック氏の判断は間違いだったと指摘する声も少なくない。そして、再びCEOに復帰したのがコロナ禍前のディズニー黄金期の立役者ボブ・アイガー氏である。
ビジネス畑出身の彼が取ったのは「オリジナル路線」とは対極の「続編路線」。CEO復帰後、人員削減などのコスト削減を行い、立て続けに『ズートピア2』『トイ・ストーリー5』『アナと雪の女王3』などの続編作品の制作を発表した。
そして、期せずしてその「続編路線」の切り込み隊長的なポジションとなったのが先日公開された『インサイド・ヘッド2』だったというわけだ。
製作総指揮のピート・ドクター氏は本作が興行的に失敗した場合、ピクサーは根本から作品制作について考え直す必要があると発言するほど、ディズニーにとっては大事な転換点となる作品で、業界人からも大きく注目が集まっていた。
その結果、北米では批評家の予測を遥かに上回り、全アニメーション作品の中で歴代2位となる記録的ヒットを達成。公開10日時点では、さらに数字を伸ばし歴代1位になるとの予想もされている。まさに、下火続きだったディズニーアニメの空気を一変させるヒットとなったと言えるだろう。そして、この「続編路線」の成功に『モアナと伝説の海2』が続けば、映画業界に新たな一時代が築かれる可能性も十分にあり得る。
2つ目は、不況だった北米の夏休み興行の流れを一変させる大変革だ。