進化を続ける台湾映像業界。その挑戦を支えるTAICCAの取り組みとは?蔡董事長に聞いた

「2023 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ」の幕開けに、「台湾に投資するなら今」と熱い思いを語った、TAICCAの蔡(ツァイ)董事長。Branc(ブラン)では独占インタビューを実施!台湾映像業界の進化の裏側、そして日本の映像業界が台湾とより良い協力関係を結ぶために必要なことを詳しく聞いた。

グローバル アジア
進化を続ける台湾映像業界。その挑戦を支えるTAICCAの取り組みとは?蔡董事長に聞いた
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日本のコミック「花より男子」を実写化したドラマ「流星花園」(2001年)や「イタズラなKiss~惡作劇之吻~」(2005年)が大ヒットし、「台湾のドラマといえばアイドルドラマ」という時期がしばらく続いた台湾。

ところが、2019年に放送された「悪との距離」を見て、台湾ドラマのクオリティの著しい向上に目を見張った。同作以降も良作を生み出し続けている台湾の映像業界。この進化の裏側を「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー 」(以下、TAICCA 読み:タイカ)の蔡嘉駿(ツァイ・ジアジュン)董事長に聞いた。

蔡嘉駿(ツァイ・ジアジュン)董事長。

※TAICCA は台湾文化部(文科省に相当)のもと、2019年に設立された台湾文化コンテンツ産業のサポートと国際化の促進を使命とする機関。


台湾コンテンツの強み・面白さ

ーー2019年のドラマ「悪との距離」は、無差別殺人事件の加害者と被害者、それぞれの家族の苦悩、メディアの報じ方といった難しいテーマを扱いながらも妥協のない考え抜かれた脚本や俳優陣の演技が素晴らしいと思いました。本作の前後から、つまりここ5年ほどの間にドラマや映画のクオリティが飛躍的に上がったと感じるのですが、その背景に何があるのでしょうか?

クオリティの向上の理由には、まず1つ目に政府によるサポートと、2つ目にNetflixなどグローバルなストリーミングプラットフォームの存在があります。台湾はここ数年、映像業界に対して手厚いサポートを行っています。TAICCAが設立されてから約5年になるのですが、まさにさっきおっしゃった「ここ5年」というのと関係がありますね。

文化部が行っている補助や撮影への協力といった内容が、より多くの作品を撮ってもらうことを目的としているなら、TAICCAが行う投資の目的は、お金を稼げるようにすることです。TAICCAにとって稼げる作品を生むことは非常に重要。稼げる作品というのは、オーディエンスが見たいと思える作品。そういう作品を作ってこそ、台湾が伝えたいことーー台湾の映像産業の価値や国際社会における存在感ーーを示すことができます。

また、ストリーミングプラットフォームの参入以降、ドラマの予算が増え、それに伴いクオリティも上がりました。そうしたプラットフォームには様々な国のオーディエンスがいるため、得られる支持や撮るテーマも広がります。

――台湾の映像コンテンツの中でも、特に映画とドラマについて、強みや面白さはどこだとお考えですか?

台湾の映像作品で一番人気のジャンルといえば、映画ならホラーだと思います。『呪詛』(2022年)は、その年の台湾の興行収入ランキングで上位に入りました。そのあとNetflixで配信され、日本でも数か月にわたり上位にランクインしていました。

あとは、たとえば『あの頃、君を追いかけた』(2011年)などのような学園青春ラブストーリーですね。純愛映画もずっと強いジャンルです。

ドラマについては、Netflixの影響を大きく受けており、現在の台湾の作り手たちは皆、作品をNetflixに売りたいと思っているんです。Netflixには推理もの、サスペンスなどダークなテイストの作品が好まれる傾向があるので、こうしたジャンルの作品も制作されるようになりました。もちろんサスペンスだけではありません。制作会社にTAICCAも投資している「WAVE MAKERS~選挙の人々~」は台湾の総統選挙に関わる人々の喜怒哀楽、愛と憎しみを描いた今年話題の社会派ドラマ。台湾はLGBTQ+についても法律的に支持していますが、本作にはこうしたテーマも盛り込んでいました。

コンテンツに関する最大のマッチングプラットフォームを目指す「TCCF」

――TAICCAが主催する「2023 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest )」の概要を拝見すると、グローバル化と台湾オリジナルのコンテンツの開発、この2点に力を入れてらっしゃると感じました。


ご存じのとおり、台湾は世界的に見ても政治的に特殊な国家です。国際社会に台湾という存在を見てもらい、世界の皆さんと交流していく必要があります。

台湾政府としても、世界中の皆さんに台湾を知ってもらいたいと考えている。そのためには台湾の文化やコンテンツを見ていただくことが一番有効的な方法ですし、TCCFについても非常に重視しています。TCCFを通して、台湾が華語(いわゆる中国語)を使ったクリエイションが最も自由にできる場所であることを強みに、アジアのコンテンツ産業において、台湾を資金や人材など、コンテンツに関する最大のマッチングプラットフォームにしたいと考えています。

2023 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタの様子。

――蔡董事長には出版社やゲーム会社で務められたご経歴があります。それがTCCFの方向性に何か影響していますか?

私の仕事や趣味は日本の文化から大きな影響を受けています。子どもの頃、日本のマンガが好きで、日本に留学しました。帰国後の最初の仕事もマンガの編集で、当時勤めていた会社から日本の講談社に派遣され、「週刊少年マガジン」の「将太の寿司」の編集に関わったこともあります。そのため、日本のマンガ業界のことはよく知っているのです。その後、若者の消費がマンガからオンラインゲームに移るかもしれないと考え、ゲーム業界へ転職しました。

TCCFの話に戻しますと、確かに私自身、過去にACG(アニメ、コミック、ゲーム)関連の仕事の経験がありますが、それとは関係なく、今の時代、ACGと映画やドラマや音楽は、切ってもきれない関係にあると考えています。TCCFは4年目を迎えますが、映画とドラマに限らず、音楽やACGの分野までカバーして行うべきイベントだと考えています。

たとえば、今年はKADOKAWAの夏野剛社長をお招きし、講演していただきました。KADOKAWAはもちろん出版社から始まった企業ですが、音楽もゲームも映画も扱っていますよね。ほかにも「ファイナルファンタジーXV」のディレクターとして有名な田畑端さんをお招きし、ゲーム開発のご経験をシェアしていただきました。田畑さんとは今後、TAICCAとゲームを共同開発する計画もあります。

TCCFが目指すのは、映像クリエイティブ業界のマッチングのためだけの展示会ではなく、ゲームや出版関係など他の業界も引き込んだ大規模なコンテンツのマッチングプラットフォームにすることなのです。

――お話を伺っていると、文化産業を強力にサポートしている台湾に比べ、日本は映画産業を含む文化に対する支援が十分ではないように感じます。改めて、台湾は文化産業を政策的にどのように位置づけているのでしょう?

私の理解はあなたと少し違っています。日本がコンテンツを作っていけるのは、自力でグローバル展開ができる成熟した大企業だからではないでしょうか。政府のサポートを必要としていない。台湾には半導体や電子分野にいくつか大きな企業があるだけで、映画会社の中に東宝のような大企業はありません。コンテンツ産業全体がそうで、政府が支援しなければ成り立たないというのが実情でしょう。

文化産業の位置づけというご質問については、先ほどもお話したように、台湾は世界にその存在を認められ、交流していく必要がある。少なくとも「台湾」と「タイランド」を一緒にされる状況に甘んじていてはいけない(※同じ「タイ」という響きで間違えられることがあったという)。規模の小さいコンテンツ企業を支援し、文化産業を重視しなければいけない背景には、こうした台湾の外交的な事情もあります。華語を使う世界の中で、台湾は一番自由に思想やクリエイティブを発表できる場所だと私は思っています。

日本の成功も伝統にあり、敗因もまた伝統にある

――日本と台湾合作の映画やドラマが増えています。その背景や現状について教えてください。

実は最近、台湾角川と共同で、今後3年間に10本の映像作品を台湾で制作するとリリースしたばかりです。KADOKAWAは1999年に連結子会社・台湾角川を設立し、この20年あまりの間に数多くの台湾オリジナルのマンガやライトノベルを開発してきました。こうしたKADOKAWAのIPを使って、台湾の制作チームと芸能人を起用した台湾オリジナルの映像作品を作る予定です。

台湾にとって、このような共同製作を行う意義は、台湾以外の市場に進出できる点にあります。では、KADOKAWAがなぜ台湾オリジナルのコンテンツの開発に注力するのかというと、KADOKAWAも日本以外の市場を探っているからだと思います。台湾は人口2,300万人程度の市場にすぎませんが、世界的に見ると華語を話す市場は大きい。特に東南アジアですね。検閲や言論の自由が制限される中国市場を含めなくても、台湾、東南アジア、北米の華僑のマーケットが見込めるのです。

――日本と台湾の合作を進めていくうえで、よりよい協力関係を結ぶために、日本側に足りないところがあるとすれば、どういう部分だと思いますか?

私は日本と関わりが深く、日本に暮らしていたこともあります。本来であれば、今年の1月に日本に引っ越すつもりで、家まで探して購入しようとしていました。そんな時、文化部部長からTAICCAの仕事の話が来たというわけです。そのぐらい日本が大好きで、よく理解しています。そのうえで率直な意見を述べると、日本のこれまでの成功は、日本が伝統を守ってきたおかげだと思います。創業100年以上の企業や名店がたくさんありますよね。しかし現在の日本の失われた数十年というのもまた、伝統を重んじすぎたゆえだと考えています。イノベーションが起こらず、物事の進め方が保守的です。これは文化産業に限らず、日本全体の特徴だと感じます。日本の成功も伝統にあり、敗因もまた伝統にあると思うのです

かつて日本の後塵を拝していた韓国は、30年前から文化産業のグローバル戦略に乗り出しました。その一歩が、まずグローバルな会社に学ぶということ。一方、日本はあくまで自分のフィールドだけで模索してきた。

ひとつ例を挙げると、YouTubeが普及したのもここ10年ぐらいの話ですが、10年前は日本のミュージックビデオなど1本も上がっていませんでした。なぜなら、そこではお金が稼げないからです。でも韓国は、江南スタイルや少女時代、BIGBANGやBTSなど、YouTubeにMVをどんどん上げることでグローバル展開を図った。YouTube自体で稼ぐことができなくても構わないのです。また、韓国のアイドルは英語をよく学び、スタイリングやヘアメイクなども欧米の審美眼の基準に寄せていますよね。

それに対して、日本はやはり閉鎖的です。もちろん、台湾も日本がダメだなんて言う資格はありません。いくら閉鎖的とはいっても日本には1億3,000万人の市場がありますが、台湾は2,300万人あまりの人口で自らの文化産業を養えない。閉鎖的でいるわけにはいかないのです。

台湾の産業をサポートするために共同製作やジョイントベンチャーに意欲

――今年のTCCFでは、韓国のCJ ENMやフランスのCNCとバートナーシップを締結されましたね。また、東南アジアとの合作も進めていかれるとのことですが、台湾にとってグローバルなパートナーから学ぶメリットを改めて教えてください。


たくさんのパートナーから学ぶことが大事だと考えて、パートナーシップの締結を数多く進めています。たとえば、今年12月から台湾で2か月間、ハリウッドの脚本家を招いて脚本家養成のプログラムを行います。来年も引き続き韓国から脚本家を招く予定です。日本からはアニメのプロデューサーに長期間にわたるアニメーターの育成をお願いする計画もあります。それから、台湾の人材をフランスや韓国、日本に常駐させ、1年以上にわたり育成することも考えています。

また、TAICCAとしては、ビジネス的な視点を持ってしっかり台湾の産業をサポートしていきたいと考えています。そのためには、共同製作やジョイントベンチャーがとても大事。資金によるつながりが一番密接な関係性を築けると思うからです。共同で出資すれば、運命共同体になる。たとえばKADOKAWAにしても、台湾側が作った作品を「お願いします」とだけ言われても、日本の市場で売れるかどうかわかりませんよね。でも共同で出資した作品なら、自社の利益を上げるために売り込みに尽力してくれるでしょう。

今後、CJやフランスとも合作の予定がありますし、予算の大きな韓国のドラマにも投資しようと考えています。たとえば、私達が資金を提供すれば、台湾の俳優を韓国で起用してもらえますよね。TAICCAはこのように、資金提供という形で台湾の芸能人やIPをどんどん海外に送り出していきたい。また、海外からの撮影を招致できれば、台湾の風景をより多くの方々に見ていただけるので、TAICCAとしては対外的な投資にも力を入れていきたいと考えています。

――最後に、改めて日本の読者にメッセージをお願いいたします。

日本は台湾と世界でも一番関係が良好な国です。そしてどちらも今、コンテンツのグローバル化や世界的なストリーミングプラットフォームの圧力に直面しています。有力なストリーミングプラットフォームに作品をのせたくても、すべてが買われるわけではない。そこで、双方の優秀な監督や俳優を起用して共同製作を行うことで、資金や製作規模の大きな、世界に通用するクオリティの作品が生み出せる。両国間の合作を、もっと盛んにしていきたいですね。


PROFILE:TAICCA 蔡嘉駿(ツァイ・ジアジュン)董事長

マンガ、ゲーム、映像業界などを経て、2023年3月から現職。台湾で高視聴率をマークした「星光大道」「天團星計画PLAN-S」などのオーディション番組でプロデューサーを務め、ネット動画プラットフォームサイト「酷瞧網路影音平台(Coture New Media)」を設立。「台湾ニューメディア・エンターテインメント・アソシエーション(NMEA)」の理事長在任中には映像産業のコンテンツ開発、製作・販売、資金問題などに取り組み、NetflixやDisney+などのグローバルストリーミングプラットフォームや韓国の映像業界と良好なパートナーシップ構築に尽力。台北流行音楽センター董事。

<取材協力:TAICCA>

《新田理恵》

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新田理恵

趣味と仕事が完全一致 新田理恵

大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、日中友好関係の団体職員などを経てフリーのライターに。映画、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆するほか、中国ドラマ本等への寄稿、字幕翻訳(中国語→日本語)のお仕事も。映画、ドラマは古今東西どんな作品でも見ます。

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