世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート

世界各国の女性映画ジャーナリストが、各国の映画ジャーナリズムの現状や、女性として映画(メディア)業界でキャリアを積むこと、若手へのアドバイスなど多岐に渡って意見を交換した。

グローバル マーケット&映画祭
世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート
©2023 TIFF 世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート
  • 世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート
  • 世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート
  • 世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート
  • 世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート
  • 世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート
  • 世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート
  • 世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート
  • 世界各国から女性映画ジャーナリストが集い、意見を交換「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」レポート

第36回東京国際映画祭で、10月26日(木)に行われたトークショー「映画ジャーナリズムにおける女性のまなざし」。世界各国から女性ジャーナリストを迎え、映画メディアにおけるジェンダーパリティ(ジェンダー公正)や今後の展望などが語られた。

出席者は5名。アラブ世界やフランス、アジア映画を中心に活躍する映画評論家/ライターのナダ・アズハリ・ギロン氏、 映画業界誌SCREEN DAILYなどに寄稿するイギリスの映画評論家ウェンディ・アイド氏、読売新聞記者の恩田泰子氏、香港映画批評家協会副会長で映画評論家/キュレーターのセシリア・ウォン氏のほか、モデレーターとして今年度東京国際映画祭のフェスティバル・ナビゲーターである安藤桃子氏が登壇した。

各国で女性映画ジャーナリストが置かれている状況

最初に、安藤氏が「(映画業界内で)近年女性ジャーナリストを取り巻く環境は変わってきているか」と問いかけた。恩田氏は「日本の新聞社の中の女性記者の割合は少しずつ増えていると思います。それに伴い、働く環境は少しづつ良くなっているとは思いますが、まだまだだと感じる部分もあります。新聞社に限らず、日本全体の映画ジャーナリストで言うと、2000年代初めはフリーのジャーナリストはほとんど女性で、彼女たちに色々教えてもらった記憶があります。女性映画ジャーナリストが多いという状況は変わらないけれど、昔は雑誌だったものが、今はインターネットが出てきて、プロとそうでない人の意見が飛び交っています。どこで誰が書いているかが明確ではないところがあるのできちんとした流れが出てきたらいいなと思います」と今までの経歴とともに日本の映画ジャーナリズムの現状を話した。

恩田泰子氏。

そこで安藤氏から追加の質問として、各国のジャーナリズムの現状や人数についても教えてほしいと尋ね、アイド氏は「映画について書いている人々は多いけれど、イギリスでは“プロ”として活動している人は少ないと思います。つまり、プロとして収入を得ている人が少なく、この仕事でキャリアを築いていくのは難しいのです。その中でまずは自分の声を多くのプラットフォームで上げていくことが大切です」と答えた。

ギロン氏は「映画ジャーナリストと映画批評家の2つの存在があります。プロになった2000年頃はアラビア語で書いていたので22ヵ国の人々に読んでもらうことができました。当時、批評家と言われる人は2、3人しかいませんでしたが、ジャーナリストは女性でも多かったです。その時から比べると現在はプロの女性映画批評家として活動している人は増えている印象です。また、フランスでは映画批評家の37%は女性です」と2つの地域における詳しい現状を明かす。

ナダ・アズハリ・ギロン氏。

加えて、アイド氏は「批評家という立場から見るとイギリスは良い方向に変化しています。25年前にキャリアをスタートしたときはロールモデルになる人は存在しませんでした。編集部には女性はたくさんいたので、その方と繋がりながら仕事をしていました。今は当時に比べ女性批評家はかなり増えていますが、多くがフリーランスで、編集者のトップの立場にいる方は少ないです。イギリスの中で確立されたメディアでチーフエディターという立場についているのは私だけです」と答え、香港と台湾の現状を知るウォン氏は「香港ではジャーナリストと批評家の境界線は無くなってきている気がします。オンラインのプラットフォームなど、意見を述べる手段が増えたことが起因していると思います」と答えた。

各国の意見を受け、恩田氏が「誰もが映画についてコメントできるようになった環境によって、映画を楽しむ人たちの裾野は広がっているのでしょうか?」と問いかけると、ウォン氏は「興味を持つ人・意見を書く人は増えていると思います。オンライン上で声の大きいKOL(専門性の高いインフルエンサー)たちに香港の映画関係の会社がコンタクトをとるということもあります」と話し、それはメディアなどで記事を書く機会に繋がるとのことだった。

セシリア・ウォン氏。

今回のテーマは「ジャーナリスト」だが「批評家」という言葉も飛び交う。その違いを問われると、アイド氏は「批評家は映画のレビューを書く人ですよね。ジャーナリストはそれに加えてインタビューをしたり、特集記事を書いたりします。批評家になると映画制作者に関わることが難しくなるかと思います。対象者と一定の距離を取る必要があるからです」と説明。さらに「アラブの世界でもそうですが、ジャーナリストというと簡単にインタビューできてしまいますが、批評家というと規律が厳しく、映画に対する知識が重要視されます」とギロン氏が付け加えた。

恩田氏は「日本は批評家だけという人もいますが、ジャーナリストとして映画批評をやっている人も多いです」と答える。また、アイド氏が答えたように「批評を書くときには、インタビューで聞いた余談が入らないようにする線引きが難しいなと思うこともあります」という自身の経験も明かした。

“女性”だからこその視点、直面した困難

続いて、安藤氏は「女性ジャーナリストは女性主人公の視点を理解しやすく、高評価に繋がりやすい」ということや日本で女性監督が少ない現状を挙げ、「今までのジャーナリスト経験の中で、女性としての目線が役に立ったエピソードはあるか」と質問した。アイド氏は「前提としてどんな視点もそれぞれの主観であり、『正しい』や『間違っている』はないです。その上で、女性として男性監督が描く女性の表象を観ると幻想的で違和感を感じることが多いです。例えば、ウディ・アレンの映画など」と例を挙げて話した。

ウェンディ・アイド氏。

ギロン氏は「若い頃からアラビア映画を観てきましたが、その中で女性は被害者として描かれていることが非常に多いです。それを変えなければと思い、フェミニストになりました」と答え、ウォン氏は「香港でリンゴ・ラム監督のあるギャング映画に対して10人の批評家が記事を書くことがありました。その中で女性は私1人だったので、作品の中でも女性のキャラクターがどう重要になっているかに注目して書きました」と女性としての視点を活かした経験を挙げた。

最後の質問として安藤氏が「性別が原因で困難だったこと」「今後、女性でジャーナリストの世界に入っていきたいという人に伝えたいこと」を尋ねると、ギロン氏は「私が一緒に働いていた男性編集長は、女性たちが真剣に仕事に取り組んでいるということを認めてくれていました。一方で、同僚の多くから聞くのは、女性は仕事ができるということを証明するのにまだ時間を要するということです。また、当初は女性批評家に対する偏見があり『時間が余っているからこの仕事をやっているんだろう』という見方が強かったです。それも近年は少し変わってきました」と変化も感じているとのことだ。

アイド氏は「あからさまにキャリアの邪魔をされたことはなかったけれど、潜在的なジェンダーバイアスはありました。例えば男性であれば大作映画の記事を任される一方で、女性は『子猫や靴について書け』と言われることもありました。それでも同僚のサポートは手厚く、着実に書いていく中で自分自身の技量を証明してきました」「もう一つ、給与が違います。実際に男性の方が多く支払われていた現状もあり、言いにくいとは思いますが声を上げることが大切です。そしてこれから批評家を目指す人には、とにかく色々な人と話して繋がっていくことをアドバイスしたいです。この職業に関する期待値はどこにあるのかを精査して、自分のためのサポートシステムを見つけてください。コミュニティの皆さんがサポートしてくださいます」とコメント。

ウォンは「駆け出しの頃、2人の男性スター監督にインタビューをした時『君のような若い女には僕らがやっていることは分からないだろう』と言われ、立ち去られたことがあります。そんな状況の中でキャリアを積み上げていくことに不安と疑問を感じたのですが、何年か後には状況が変わっていて再びその監督と議論を交わすことができました。ただ、男性監督の中には女性に対してそういったバイアスがある人が多いのではないかと感じます。常に真剣に真面目な態度で取り組むことが大切だと思います」と答えた。

最後に、恩田氏は「私は仕事で証明するしかないと思うと同時に、悪く思われないよう和やかにする努力をしてきたんですけど、無駄だったかなと思うこともあって……(笑)若い方たちには、そのようなことに時間を割くのではなくて、とにかく一生懸命やっていって欲しいです」と話した。

そして安藤氏は「様々な状況をお伺いしましたが、時代の違いの中に男性社会と女性社会の違いはあると思うので、どちらが良い悪いということではないのだと思います。時代が変化している真っただ中で、この荒波を人類皆が一体感を持って、優しい心で未来に進んでいきたいなと改めて思いました」とまとめた。

安藤桃子氏。

様々な視点の話が飛び交った本イベント。多様な国や地域から、女性映画ジャーナリストとして長年キャリアを積んできた経験やそれを通した意見を聞ける貴重な場となった。

《伊藤万弥乃》

関連タグ

伊藤万弥乃

伊藤万弥乃

海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。