作品を売るだけでなく“作る”ことを促すマーケットへ。4年振りのリアル開催「TIFFCOM 2023」代表の椎名保氏が展望を語る

4年振りのリアル開催となる、コンテンツマーケット「TIFFCOM 2023」(開催期間10月25~27日)。CEOの椎名保氏に展望を伺った。

グローバル マーケット&映画祭
作品を売るだけでなく“作る”ことを促すマーケットへ。4年振りのリアル開催「TIFFCOM 2023」代表の椎名保氏が展望を語る
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東京国際映画祭と併催されるコンテンツマーケット「TIFFCOM 2023」(開催期間10月25~27日)。コロナ禍はオンラインでの開催を余儀なくされたが、今年は4年振りのリアル会場での開催となる。

国内・海外合わせて多数の企業と団体が出展し、活発な作品の売買が行われる同マーケットだが、今年は新たに大手出版社4社(集英社・講談社・小学館・KADOKAWA)が参加してマンガや小説などの原作の映像化権売買に特化した「Tokyo Story Market」が新設される。

さらに、これまでオンラインで行われてきた「Tokyo Gap-Financing Market」が初のリアル開催となる。これは、資金を60%まで調達できている企画を対象に不足予算を投資するインベスターを募る企画マーケットだ。これまで、ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映されたイザベル・ユペール&伊原剛志共演の『Sidonie in Japan』や、今年の東京国際映画祭のコンペティション部門に選出されている富名哲也監督の『わたくしどもは。』などの企画が成立しており、今回は日本から4本の企画(監督は堤幸彦、白石和彌、松居大悟、岡部淳也)が参加している。

その他、充実したセミナーも開催されるTIFFCOM。そんなTIFFCOMを統括する、TIFFCOM事業代表CEOの椎名保氏に今年のTIFFCOMについての展望を伺った。

TIFFCOM CEO 椎名 保(しいな やすし)氏。

「ホーム」の東京でマーケットを開催する意義とは

――基本的な質問になりますが、TIFFCOMのようなコンテンツマーケットを自国で開催する意義とは何でしょうか。

マーケットにもホームとアウェイがあると思うんです。海外のマーケットでは、日本の作品は様々な国の中のone of themとなりますから、まず興味がある人を探すところから苦労する必要があります。ホームの東京には日本のコンテンツに興味のある人が集まりますから、日本のコンテンツを求めている人や企業を効率よく探せるわけです。

――同時に、海外からTIFFCOMに参加する企業や団体にとっては日本市場への入口としても機能するということですね。コロナ禍でオンライン開催だったTIFFCOMは、今回4年ぶりのリアル開催となります。マーケットのリアル開催となるとオンラインとはやはり違うものでしょうか。

違うはずです。リモート開催の場合、予定していた人と会うだけになりがちですが、リアルな開催では予期せぬ話や情報に出会うことがあり、そこから商談が生まれたりもします。立ち話からでも貴重な情報が入手できることもあるんです。

――この4年間、コロナによって世界の映画産業は大きな変化を迫られたと思います。世界のマーケットで求められるコンテンツの方向性に変化はあるでしょうか。

コロナによる最も大きな変化は配信市場が劇的に伸びたということです。したがって、配信としてリリースする作品がより多く求められるようになってきています。シリーズものにせよ長編にせよ、配信向けの作品を作る必要が出てきていますから、そこに新たなプレイヤーが関わるようになっていると思います。

マンガなどの原作を扱う「Tokyo Story Market」新設の狙い

――日本のアニメやマンガもコロナ禍の配信の伸長によってグローバル市場を拡大しています。今年のTIFFCOMでは、大手出版社4社が参加する「Tokyo Story Market」が新設されましたが、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

これは出版社からの働きかけがきっかけです。原作の映像化権を売れるマーケットは海外にも何ヵ所かあると思いますが、それが東京にあると便利だということですね。先ほどのホームとアウェイの話に繋がりますが、東京でやるなら、出版社のライツ事業部や国際営業担当の部署以外の人、例えば編集部の方や作家自身も参加しやすいかもしれないし、日本のマンガに興味を持っている人も効率よく集められます。

――今年は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』やNetflixの実写ドラマ「ONE PIECE」が世界的ヒットとなりました。このマーケット新設は、日本のIPの映像化権の需要が世界で高まっていることの反映と言えるでしょうか。

私の立場では断言できませんが、少なくとも日本のマンガやアニメは海外に広く輸出されているのは事実で、今度はそれを海外のプロダクションが映像化したいという動きが水面下では色々と出ているのではないかと思います。

――日本のストロングポイントを活かしたコンテンツマーケットのあり方だと感じます。

そうですね。世界中にたくさんマーケットがありますから、やはり差別化して注目を獲得していかないといけません。その中で日本から何を打ち出すべきかとなると、やはり日本のキラーコンテンツであるマンガとアニメは重要です。

映画の資金調達方法も提供

――好調なマンガやアニメの一方、映画の海外展開を支援する試みの一つが「Tokyo Gap-Financing Market」ということになるでしょうか。

そうですね。我々はマーケットに新しく挑むプレイヤーを増やしたいんです。今までマーケットに来る人は主にバイヤーとセラーですでに完成した作品の売買が中心でしたが、今度はプロデューサーやファイナンスする人材など、製作サイドの方にも参加してもらい「作る」ためのマーケットを充実させたいと思っています。

今回のGap-Financing Marketには、日本映画の企画が4つ参加しています。今回エントリーしてくれた方たちは、国内市場だけではなく、海外市場に挑みたいという意欲を持っています。他国のファイナンスを活用して共同製作していくのは日本以外の国、特にヨーロッパでは当たり前に行われていることで、そのやり方がまだ日本に浸透していません。これに参加することでそのやり方を学んでくれると良いなと思いますし、こうした動きが活発になっていくことで日本映画に興味を持ってくれる人が増えていけばいいなと思っています。

――確かに、ヨーロッパの映画で一国だけでファイナンスしている作品はほぼないですね。

一国だけで資金を調達しているのは日本以外では、中国と米国の二大国ぐらいです。日本では長年製作委員会のシステムでリスクマネジメントしていくやり方が定着していますが、このやり方を始めた頃は少し違ったんです。当初は映画会社とテレビ局とビデオ会社の3社くらいのパートナーシップで、それぞれの会社が映画をヒットさせるために力を合わせるというものでしたが、今は10社近くが入ってリスクを分散することが主な目的になっている面もあります。しかし、10社が参加したら権利も10社に分散する上に、しばらく経つと担当者がいなくなっているなど、リメイクしたくても成立しないことがあるんです。本来は投資した会社ではなく権利はプロデューサーに戻すべきなんです。

――この企画マーケットはそうした製作委員会とは異なる資金調達方法を提供できるわけですね。さらに、縮小する国内市場だけでなく、海外市場を切り開くきっかけにもできると。

“Gap Finance(ギャップ・ファイナンス)”というのは、製作する目処はたっているけれど、資金が足りない企画をサポートするもので、すでに脚本もあるわけですが海外の会社に企画を見てもらう機会になりますから、その中で改善点が出てくることもあるでしょう。

――日本国内でも国際共同製作の意識が高まっている中、この企画はそれを後押しするものということですね。

そうですね。これはあくまできっかけ作りだと思っています。国際共同製作が当たり前になってくれば我々の役目はある意味終わるので、皆さん自由にどんどん外に出て作っていけばいいと思います。

海外展開に関するセミナーが充実


――今年のTIFFCOMのセミナーでは、東映アニメーションと『すずめの戸締まり』の海外戦略に関するものがあります。

今回は東映アニメーションさんにぜひ海外展開についての話をしてもらいたいと思っていました。『THE FIRST SLAM DUNK』が海外で大ヒットを記録していますし、東映アニメーションさんの海外戦略は、私自身も非常に興味があります。『すずめの戸締まり』も同様で、どういう風に海外市場を切り開いたのか、貴重な話を聞ける機会になるのではと思います。東映アニメーションさんからは、世界のエリア担当者の方たちが登壇すると聞いていますから楽しみにしています。

――その他、タイのBLコンテンツに関するセミナーもユニークな企画ですね。

これはタイ側から是非TIFFCOMでセミナーをやらせてほしいと持ちかけられて実現しました。タイは今、映像産業に力を入れていて、BLものの人気が国外でも高まっています。

――その他、「中国・日本映像産業における協力に関するフォーラム」というものがあります。これはどういった内容になるのでしょうか。

中国のラテ総局(中国ラジオ・映画・テレビ社会組織連合会)のテレビプロデューサー委員会副会長の方が来て、日中合作についてのお話をしていただく予定です。中国のテレビでは、海外の番組は規制対象となり放送のハードルが非常に高いですが、合作であれば中国の作品として扱われるようになるんです。中国側も、自国の作品を海外に展開していくにあたって共同製作を有効な方法だと考え、それを模索しているということだと思います。

――イタリアのセミナー「Spotlight on Italy」も自国の映画資金調達ファンドの紹介で、どの国も共同製作を促進してコンテンツの海外展開を加速させようという意欲が見えるセミナーのラインナップです。

その通りです。配信の伸長によってコンテンツの国境がなくなりつつあり、世界中の人が様々な国の作品に接するようになっています。各国がロケ誘致も含めて助成金を設け、製作を強化するために動いています。日本も今年、最大10億円のロケ支援を開始しましたが、これは世界各国ですでに行われていることですし、まだまだ多くの点で出遅れています。配信によって世界の映画産業が大きく変化している今こそ、日本のクリエイターと作品の海外展開を支援していかないといけないんです。


TIFFCOMは10月25日(水)から10月27日(金)の3日間、東京都立産業貿易センター浜松町館で開催。
《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。