カンヌ国際映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭に出品され、デビュー作ながら国内外で注目を集める門脇康平監督の長編アニメーション映画『我々は宇宙人』。
平成の田舎町を舞台に、“普通”であることに悩む少年・翼と、“特別”な存在として輝く暁太郎の30年にわたる友情を描く本作。門脇康平監督、林健太郎プロデューサーともに長編アニメーション初挑戦ながら、驚くような独自の制作体制で完成にこぎつけた一作だ。
カンヌの地で、2人にその舞台裏を聞いた。
ワールドプレミアの感動

――カンヌの雰囲気はいかがですか。
門脇:最高ですね。街中に映画のポスターが貼ってあって、どこに行っても映画の絵とかが描いてあったりして、街全体が映画好きでできているんだなと実感します。そういう街が年に一度、世界中から映画が好きな人が集まって盛り上がる、この活気は日本では味わったことがないです。
――ワールドプレミア上映を終えて、感触はいかがですか。
門脇:幸せな気持ちになりました。自分の作品を見るためにチケットを買ってくれた方々の顔を直接見られて感動しました。「一緒に写真をお願いします」とか「サインください」とたくさん声をかけてもらいましたし、涙を流して感動してくださった方を見て、自分も感動しました。
――門脇監督は、映画祭に参加されたことはあるのですか。
門脇:国内のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)に1回行っただけです。
――林さんはカンヌに来たことがありますよね。
林:そうですね。2年前に来ました。
――今回は作品が出品されての参加となりましたが、いかがですか。
林:プレミア上映はワクワク半分、ドキドキ半分でした。初めて一般の方に見ていただく機会なのですごく緊張していましたが現地の方々が前のめりに鑑賞していただけたのが、すごく嬉しかったです。
原画メンバーは商業アニメ経験ゼロだった

――お2人はどのように出会い、どう企画が始まったのですか。
門脇:大学の同級生に映画好きの友達がいて、彼女が林さんの以前の会社の後輩になったんです。映画を作りたくて映画監督を探している林さんと、映画を作りたくてプロデューサーを探している自分がいて、彼女に間に入ってもらって、会わせてもらったのが出会いです。
林:4年前、NOTHING NEWを創業する前に3人で居酒屋に行ったのが最初の出会いです。
門脇:初めて会った時は、NOTHING NEWという会社はまだなかったですよね。
――その出会いから企画が始まったわけですね。
林:門脇が「生涯で一作しか作れないとしたらこれ」という企画があると言うので、それを基にディスカッションしながら企画開発していったのが今回の作品です。
――林さんと出会う前から門脇監督が温めていた企画なのですか。
門脇:そうですね。実は林さんに出会う前に、一度長編アニメを作ろうと相談していた会社があったんですが、頓挫してしまったんです。
林:頓挫した後に、これから会社を作ろうとしている自分と会ったから、はじめ門脇はだいぶ懐疑的だったと思います。
門脇:めっちゃ怪しんでました。林さんって普通に20歳くらいに見えるし、それで「会社を作る」とか言ってて「いやいやいや」と思ってましたね(笑)。
こうしてワールドプレミアを無事終えて、結果的には怪しい人ではなかったと4年越しに確認できました(笑)。
――林さんはNOTHING NEWで、実写作品は作ってこられたと思うんですけど、アニメーションはこれが初めてですよね。
林:初めての作品です。どんな苦労があるのかも分からない状態で始めました。最初は自分と門脇しかいなかった上に、門脇も商業映画は初めて、当時の自分は実写映画もプロデュースしたことがないという状況でした。
なので、まずは企画の核を固めようと、自分たちができる範囲のところから進めていきました。
――スタッフはどうやって集めたのですか。
門脇:自分たちにできることは限られているので、Xなどで良いイラストを描いている人を見かけたら声をかけてみるとかですね。
林:今は制作プロデューサーが入っていますが、初期段階では本当に自分と門脇だけでひたすらXを見て、門脇が良いと思った人にDMしたり、Zoomで会話したり、直接会ったり、地道に声かけを行いつつ、同時進行で絵コンテを描いていたという感じです。
門脇:原画メンバーに商業アニメの経験者は結局一人もいませんでした。
――それは衝撃ですね。イラストレーターが多いのですか。
林:最初に入ってくれた方は、ベンチャー企業の広報担当で、趣味でイラストを描いている人です。
門脇:ハイテクな猫のトイレを発明した会社の広報ですよね。
林:そう。広報が本業で、趣味のイラストをSNSに上げていたんです。
門脇:2人目は、スーパーのチラシのデザインをしていた大学の後輩です。3人目は、アニメ会社のCG部署にいた、絵描きではない方。保育園の園長をやりながら趣味で絵を描いている方も参加してくれました。
――その体制であの完成度によく持っていけましたね。全体が非常に統一感ある作りになっていますけど。
門脇:美術監督も作画監督も自分がやり、レイアウトもすべて自分で作りました。背景の発注も、原画の発注も自分でやれば齟齬は起きないんです。各スタッフの特徴も考慮して、「あの人はこういう手癖の人だから、“もうちょっと細めに”とか指示すると、こういう上がりになるだろう」と計算して発注しています。イメージを持っている自分が発注して、後の工程の編集やグレーディングも自分がやることで、イメージ通りの絵にすることができました。
――それは相当の作業量ですよね。
門脇:原画100カット発注記念とか、1000カット超えたら焼肉とか、いろいろなご褒美を設定してもらって頑張りました。
実際、発注だけでもかなり大変でした。描き終わるかどうかではなく、発注が間に合っているかどうかを、林さんたちがスケジュール管理していて。
――発注って普通は制作進行の仕事ですよね。まさか監督が自ら発注もしていたとは。
門脇:一応、制作プロデューサーはいるんですけど、発注のペース感はすべて自分が握っていました。自分が描けなければレイアウトを出せないし、いくら頑張れと言われても物理的な限界はあるので、ペースを維持するために自分で発注を仕切りました。
完成から逆算して発注も考えるんですけど、さすがに大きな山場もあったりして結構あせる時期もありました。制作の進行として一番まずいのは、作業者に空いた時間を作ってしまうことなので、LINEで「手が空いたので新規発注ください」とスタッフからメッセージをもらうようにしていたんですが、その管理は本当に大変でしたね。そうして上がってきた原画や背景を自分でリテイク作業しながらの制作でした。
“純度の高い”作品づくりのために一社単独出資を決断

――他の日本のアニメスタジオと組むことは検討されなかったのですか。
門脇:考えなかったです。自分はアニメ制作会社に一回入ったんですけど、もし自分が長編映画を作るなら、自分の作風は大手のスタジオなどで受けていただくことは難しいだろうなと思っていました。
だからこそ、完成させるためには生産ラインを作るところから取り組まないと今回の作品は作れないなと。
――本作にはフランスの制作会社で、『化け猫あんずちゃん』などを共同制作した実績のあるMIYU PRODUCTIONSも名を連ねていますが、どこで出会ったんですか。
林:2年前のカンヌのマーケットです。ただ、今回は結果的に全ての制作を日本で行っています。MIYUさんには国際展開でご協力いただいたという感じです。
――MIYU PRODUCTIONSから、実制作にも協力したいというお話はなかったのですか。
林:そういうご提案もいただきましたが、小規模チームで門脇の目の届く範囲でやる方が純度の高い作品として完成させられると判断して、全て日本で制作することにしました。
門脇:自分は日本語しか喋れないので、多分このやり方じゃないと今回は無理だったと思います。
――MIYU PRODUCTIONSから、資金面での協力はあったのでしょうか。
林:国内における制作資金は、NOTHING NEW一社で全額出資し、国際展開部分の資金として一部彼らに出資してもらいました。
――製作委員会でもなく、全額自社出資ですか。
林:そうですね。国内の資金に関しては製作委員会も選択肢として検討したことはありましたが、今回の作り方は特殊だし、門脇も自分も長編アニメ未経験ですから、乗っかってくれる人が仮にいても、どこかで折り合いがつかなくなるかもしれない。そう考えて、一番純度の高い体制でやるために自社単独でやることにしました。
――それも驚きですね。しかし、これが成功すれば会社にとっても大きな看板になりますね。
林:そうですね。次回以降どういう体制で作るのかは、内容にもよりますけど、また新しい挑戦と発明が必要だと考えています。
『我々は宇宙人』
2026年9月25日(金)全国劇場公開
企画・監督・脚本: 門脇康平

出演:坂東龍汰 岡山天音
山﨑天(櫻坂46) 松井ケムリ
槙木悠人 中込佑玖 鈴木咲 末永陽
音楽:Yaffle
主題歌:adieu 「ささくれ」 作詞・作曲:Yaffle ( Sony Music Labels )
絵コンテ・キャラクターデザイン・作画監督・美術監督:門脇康平
撮影監督:立川憲一朗
編集:門脇康平 立川憲一朗
プロデューサー:林健太郎 下條友里
制作プロデューサー:小松梨紗子
音楽プロデューサー:北原京子
サウンドFxスーパーバイザー:石坂紘行
宣伝プロデューサー:川野悌
アートディレクター:山田清勢 山田和毅
ポストプロダクション協力:TOHO STUDIOS
企画・製作・制作:NOTHING NEW
協力:MIYU PRODUCTIONS
配給:TOHO NEXT・NOTHING NEW
©NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
公式サイト:https://nothingnew.film/wearealiens/






