2026年7月7日から9日にかけて、韓国・文化体育観光部主催、韓国コンテンツ振興院主管のサミット「U-KNOCK 2026 in Japan Summit」が開かれた。韓国のコンテンツ企業が日本のパートナーを求めて集まり、日韓コンテンツ産業の協業による発展を目指すべく開催された。

初日の口火を切った基調講演のテーマは「K-コンテンツは今、『輸出』から『共同IP開発』へ」。登壇したRocketstaff Inc. CEOの高榮郁氏は、韓国と日本のコンテンツ産業の違いを「フードトラック」と「老舗の寿司屋」に例えて、共同でIPを作っていく可能性を語った。
続く基調対談には、Netflix『イカゲーム』のハン・ミニョ役で世界的に知られる俳優キム・ジュリョン氏が登壇し、日韓協業の可能性について語った。
韓国は「フードトラック」、日本は「老舗寿司屋」
高氏が講演で繰り返し強調したのは、韓国と日本ではコンテンツの作り方も、育て方も、稼ぎ方の考え方も大きく違うという点だった。
韓国型の制作は「フードトラック」に近い。目の前に客がいれば、すぐに出す。反応を見て味付けや盛り付けを変える。ショート動画もSNS施策もバナー広告も積極的に試して、ダメならすぐ次の手を打つ。

このスピード感が韓国コンテンツの強みだ。トレンドの変化にすばやく反応し、視聴者の関心を取りにいく。日本だと「ショート動画を無料で流したら、それで満足して本編を見てもらえないのでは」と議論になりがちな施策も、韓国では「とりあえずやってみよう」と踏み切る傾向があるという。
対する日本の制作は「老舗の寿司屋」だ。職人技があり、細部にこだわる。韓国側から見れば「そこまでやるのか」と思う部分もあるが、そのこだわりが強いファンダムを生み、ひとつのIPを長く愛される存在に育てていく。
高氏は、この違いを優劣ではなく補完関係として見るべきだと言う。韓国のスピードと、日本の長期育成力。この二つを掛け合わせれば新しいIPモデルが作れるのではないか——講演を貫いていたのは、そんな問題意識だった。
韓国コンテンツの弱点は、ヒット後の長期資産化
韓国コンテンツは、いまや世界的ヒットを生み出す力を持つ。ただ、そこには構造的な課題もあると高氏は指摘する。
最大の問題は、グローバル配信プラットフォームへの依存度の高さだ。韓国ドラマはNetflixなどで世界中に見られ、ランキング上位に入ることも多い。ところがビジネスモデルとしては、制作費を受け取って納品する買い切り型になりやすい。

「ランキングで世界何位、という成果は出ます。ボーナスが入ることもある。ただ、それは制作費の10%程度で、基本は権利の買い切りです。その後の広がりがないんです」
つまり、世界的にヒットしても、そのIPが制作側の長期資産として残りにくい。グッズ、出版、アニメ、イベント、ゲームへと多面的に展開して何年も収益を生む仕組みは、まだ日本ほど成熟していない。
高氏は問いかける。Netflixで話題になった韓国ドラマを多くの人が見ていても、関連グッズを買った経験のある人は少ないのではないか、と。作品は見られている。でも、ファンが長く関わり続けるIPビジネスにはなりきっていない。ここが今のK-コンテンツ産業の課題だという。
日本の強みは、IPを長く育てる仕組み
対照的に、日本のアニメ・マンガ産業には、ヒットしたIPを長く育てる仕組みがある。
マンガ連載から単行本へ。そこからアニメ化、パッケージ販売、劇場版、グッズ、イベントへと広げていく。複数の企業が製作委員会を組み、リスクを分担しながら数年がかりで作品を育てる。高氏はこれを非常に良くできたシステムと評した。

高氏自身、かつて自分の会社をアニメイトに譲渡し、同グループで役員を務めた経験がある。その中で、日本のアニメ産業がもつ長期回収モデルの強さを肌で感じたという。『新世紀エヴァンゲリオン』のように、初期の投資が長期にわたって収益を生み続けるIPもある。
ただ、このモデルには遅さという弱点もある。製作委員会が月に一度の会議で意思決定を重ねながら進むことも多い。国内市場が前提ならそれでも機能するが、グローバルのトレンドが高速で変わるなかでは、韓国型の即応力に比べて不利になる場面も出てくる。
日本は長く育てるのは得意だが、世界に向けてすばやく仕掛けるのは苦手。韓国は世界にすばやく仕掛けるのは得意だが、ヒット後に長く回収するのが苦手。だからこそ両国が組む意味がある、というのが高氏の主張だ。
ウェブトゥーンを起点にした共同IP開発の可能性
その接点として高氏が挙げたのがウェブトゥーンだ。
ウェブトゥーンは最初からデジタルで読まれるコンテンツで、読者の反応をデータで把握できる。どこで離脱したか、何話まで読まれたか、どの国で反応がいいか。それを見ながら段階的に作品を育てられる。

日本のマンガがIPの供給源として大きな役割を果たしてきたように、ウェブトゥーンもドラマ、アニメ、ショートドラマ、ショートアニメ、グッズへと展開する原作インフラになり得る。
高氏は自身の実感として「韓国で流行ったものは、1年半後に日本に来る」とも語った。ウェブトゥーンも当初、日本で受け入れられるかは未知数だった。出版マンガの強い国で、縦スクロール型が読まれるのか、と。それが時間差を経て市場は一気に広がった。
肝心なのは、完成したヒット作を後から買うのではなく、どの段階で一緒に組むかだ。企画の初期から日本側が関わり、韓国のスピードと日本の長期育成力をつなげられれば、「輸出」ではない共同IP開発のモデルが見えてくる——高氏はそう力を込めた。

韓国ドラマの成功を支える「共感」とスピード
続く基調対談「韓国コンテンツ、成功の方程式」には、『イカゲーム』で参加者212番ハン・ミニョを演じたキム・ジュリョン氏が登壇した。
『イカゲーム』の世界的な成功について、キム氏は「ここまで世界中の視聴者に愛されるとは想像していませんでした」と振り返る。その広がりを支えたのは派手なマーケティングではなく、ストーリーの力とキャラクターへの共感だったという。
「韓国コンテンツの成功の方程式は、結局のところ共感というキーワードにつながると思います」

キム氏によれば、韓国作品ではキャラクターのレイヤーが重視される。人物の複雑な感情を何層にも積み重ね、視聴者が最後までその人を理解しようとする構造を作る。そこにテンポの速さ、展開の速さ、そして最後まで完成度を高めようとする作り手の執念が加わる。
これは高氏の言う「フードトラック」的な強さとも重なる。観客の感情をすばやくつかんで離さない。物語の普遍性と展開のスピード。その組み合わせが、韓国ドラマを世界に届くコンテンツへと押し上げている。
日本の緻密な設計、韓国の柔軟な即興性
対談は、日韓の撮影現場の違いにも及んだ。
キム氏が日本の現場で印象的だったのは、リハーサルへの向き合い方だという。日本では一つのシーンに対して緻密で正確な設計図を作り、それを細かく分解して撮影していく。その精密さが新鮮だったそうだ。
韓国の現場では、リハーサルでセリフや動線、シーン全体の流れを確認したあと、撮影中に監督と俳優がその瞬間ごとの感情やエネルギーを作っていくことが多い。
「日本の緻密な設計と、韓国の柔軟な即興性が出会えば、本当に大きなシナジーが生まれると思いました」とキム氏。
感情表現についても違いを挙げた。日本には、言葉にしない沈黙や、ぐっと飲み込む瞬間に積み上がる感情がある。韓国には感情の波や爆発力がある。この二つが混ざり、ぶつかることで、視聴者にとってより豊かな体験が生まれるのではないか、と語った。

共同制作に必要なのは、最後は「人」への信頼
対談の後半でキム氏が強調したのは、いい作品作りで最も大事なのは「結局は人」だということだった。
映画もドラマも一人では作れない。多くの人が関わる協業である以上、それぞれが自分の役割を果たし、意見を率直に出し合い、互いにそれを聞いて尊重できる現場であることが大切になる。
日本の投資家や制作会社が韓国のクリエイターと組むことについて、キム氏は「信じて進んでいただいて大丈夫だと伝えたい」と語った。韓国の制作現場には、共に働く人への礼儀と尊重がある。そこを信頼してほしい、というメッセージだ。
韓国のスピードと感情を動かす力、日本の設計力とIPを長く育てる力。この二つは、ただ足し算されるものではない。互いの弱点を補い合い、企画の初期から一緒にIPを育てて初めて、新しいモデルになり得る。
K-コンテンツは今、「輸出」から「共同IP開発」へ。U-KNOCK 2026 in Japan Summitのキーノートは、その転換点を映し出す場となった。









