【Inter BEEレポ】ドルビー大沢社長が語る、世界標準技術がもたらす輸出戦略と“使い得”な制作環境

映画・ドラマに加えスポーツ中継まで手掛けるようになった配信サービス。 今や放送以上に臨場感溢れる体験を提供する映像・音響技術とは? 日本のドラマやスポーツライブを海外へ届けるための「世界標準」の重要性が語られた。

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【Inter BEEレポ】ドルビー大沢社長が語る、世界標準技術がもたらす輸出戦略と“使い得”な制作環境
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  • 大沢幸弘氏
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国内最大級のメディア総合イベント「Inter BEE 2025」にて、INTER BEE CREATIVE企画セッション「世界の配信・放送技術の動向」が開催された。

登壇したのは、ドルビーラボラトリーズの日本法人社長兼東南アジア・大洋州統轄を務める大沢幸弘氏。「ドルビーの宣伝ではなく、一人の日本人、消費者としての視点」と前置きし、日本のコンテンツ産業が世界で勝ち抜くための技術戦略について、熱のこもった提言を行った。


古いフォーマットでは日本コンテンツの本当の力を発揮できない

セッションの冒頭、大沢氏は日本のコンテンツが世界で十分に実力を発揮できていない現状について、「竹馬に乗っている海外の人たちと、我々日本人が素足で背比べをしているような損な印象を受ける」と独特の比喩で表現した。

同氏は、東映アニメーションの『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』の劇場版がドルビーシネマ形式で世界展開され、圧倒的な反響を得ている事例を紹介。日本のコンテンツ自体には競争力があるものの、古い技術フォーマットのまま送り出していることで、本来のポテンシャルを発揮できていない可能性に言及。

アカデミー賞やエミー賞を受賞する世界的作品の多くが、今やドルビービジョン(映像)やドルビーアトモス(音響)といった最新技術で制作されている現状に触れ、日本のクリエイターも同じ土俵に立つべきだと訴えた。

制作コストの誤解と「使い得」な環境

「ドルビーで作品を作ると費用がかかるのではないか」という制作現場の懸念に対し、大沢氏は明確に否定した。「製作者の皆様から我々がお金をいただくことはない。契約も不要。言ってみれば『使い得』だ」と明言する。

設備が世界的に標準的なものであれば、すでに最新技術に対応しているケースが多く、追加コストなしでドルビーフォーマットでの制作が可能だという。

「1回古い技術で作ってから変換しようとすればコストはかかるが、最初からドルビーで作れば費用も時間も変わらない」と大沢氏は語る。

スポーツ中継に見る「体験」の格差

大沢氏は、特にスポーツ中継における技術格差に危機感を示した。

従来の放送技術では、スタジアムの屋根が作る影と日向の輝度差により、選手やボールが見えにくくなる課題があった。しかし、ドルビービジョンによるHDR映像では、暗部も明部も人間の見た目に近い状態で視認できる。

FIFAワールドカップやオリンピックなど、世界のメジャースポーツの国際フィードは、すでにドルビービジョンとアトモスで制作されている。しかし、日本はそのフィードを受け取らず、古い技術で提供しているケースがほとんどだという。

一方で東南アジアでは、すでに7つ以上のスポーツ専門チャンネルが24時間体制でドルビーアトモス・ビジョンによる放送を行っている。大沢氏は「消費者として、30年前と変わらない体験で満足していいのか」と会場に問いかけた。

ハードウェアは普及、ボトルネックは「ソフト」

iPhoneをはじめとするスマートフォンの多くがドルビー規格に対応済みであり、テレビも各メーカーの4Kモデルはほぼ標準対応している。さらに自動車業界でも、メルセデス・ベンツやソニー・ホンダモビリティなどが車内でのドルビーアトモス体験を実装し始めている。

それに伴い、海外の配信プラットフォームも対応を進めているが、日本の放送・制作側だけが独自の古いフォーマットに固執してしまっていると大沢氏は述べる。

コンテンツを「次の自動車産業」へ

講演の最後、大沢氏は日本の次世代放送標準の議論にも触れつつ、「どの技術を採用するかは国の自由だが、コンテンツ輸出を考えるなら『世界の公用語』を使うべきだ」と提言。

Google検索やMicrosoft Wordでの文書作成が事実上の世界標準であるように、映像コンテンツも世界中で再生互換性の高いフォーマットで作ることが、流通の最大化(輸出拡大)につながるという論理だ。

「放送用の作品も、最初から世界配信を見据えて最高のグレード(ドルビー形式)で作れば、放送、配信、ブルーレイ、海外輸出、すべてにそのマスターが使える。日本のコンテンツ産業が自動車産業に次ぐ輸出規模に育ち、孫の世代まで豊かな仕事を残せる国になってほしい」と語り、セッションを終えた。

《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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