【イベントレポート】フィルターバブル時代に問う、放送メディアの存在価値とは? 日テレ・テレ東トップが明かした「ファクトを届ける責任」とグローバル戦略

VR FORUMのプログラム「放送メディアの変化と不変的な価値とは?」にて日本テレビ社長・福田博之氏とテレビ東京社長・吉次弘志氏が登壇。放送の経営戦略からコンテンツ戦略、そしてメディアの社会的役割に至るまで語り合った。

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VR FORUM 2025「放送メディアの変化と不変的な価値とは?」
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2025年10月8日、東京ミッドタウン・ホールで開幕した「VR FORUM 2025 Next STANDARDをともに。」。そのオープニングを飾るセッションとして、「放送メディアの変化と不変的な価値とは?」が開催された。

視聴行動や広告市場が構造的な変化を遂げる中、放送メディアが向かうべき未来とは何か。株式会社ビデオリサーチの奥律哉氏がモデレーターを務め、日本テレビ放送網株式会社の福田博之社長と株式会社テレビ東京の吉次弘志社長が登壇。経営戦略からコンテンツ戦略、そしてメディアの社会的役割に至るまで、テレビ局のトップがそれぞれのビジョンを語り合った。


激変するメディア環境と各社の経営戦略

セッションは、現代のメディア環境をデータで概観することから始まった。インターネット広告費が全体の約半数を占めるまでに成長し、テレビの視聴形態もリアルタイム視聴に加え、タイムシフト視聴やコネクテッドTV経由の視聴が若年層を中心に拡大している。この現状認識を共有した上で、両社長が自社の経営戦略を語った。

日本テレビ:普遍的な「日常」と、熱狂を生む「祝祭」

日本テレビの福田社長は、戦略の核となるキーワードとして「日常と祝祭」というキーワードを提示した。

「日常」とは、決まった時間に放送されるレギュラー番組であり、視聴者の生活に寄り添う存在。一方の「祝祭」は、「24時間テレビ」や「箱根駅伝」に代表される大型スポーツイベントなど、多くの人々と感動を共有し、社会的なムーブメントを巻き起こすコンテンツを指す。福田社長は「みんなと一緒に体験するコンテンツ、祝祭にこだわっていきたい」と述べ、テレビならではのリーチ力を活かし、国民的な熱狂を生み出すことの重要性を訴えた。

日本テレビ・福田博之社長

テレビ東京:独自のポジションを貫く「一本裏道の名店」

対するテレビ東京の吉次社長は、自社を「一本裏道にそれたところにある、行ってみると意外と良い店」と表現。巨大な資本力で勝負するのではなく、独自の視点と熱量でコアなファンを掴む戦略を明らかにした。

経済に特化した報道番組、『孤独のグルメ』に代表される尖ったドラマやバラエティ、そして強力なアニメコンテンツがその柱となる。ユニークな事例として、若手女性社員の熱意から生まれた乳幼児向け番組『シナぷしゅ』が、番組の枠を超えて多角的な展開に成功した例を挙げ、「こういうものをコアに展開していかなければならない」と語った。物量で劣る分、ニッチな領域での独自性と企画力で勝負するテレビ東京のアイデンティティが示された。

テレビ東京・吉次弘志社長

IPを核としたコンテンツ戦略とグローバルへの挑戦

セッションのテーマは、放送収入だけに依存しない新たなビジネスモデルへと移った。いまやコンテンツは日本の成長産業の一つであり、IP(知的財産)を核とした多角展開が不可欠である。

テレビ東京:「CaaS」構想とアニメビジネスの躍進

吉次社長は、2035年を見据えた長期ビジョンとして「まだ見ぬ面白いを、世界に。」を掲げ、「CaaS(Content as a Service)」という独自のコンセプトを披露した。これは、一つのコンテンツを放送だけでなく、配信、イベント、マーチャンダイジングなど様々なサービスとして展開し、独自の経済圏を構築する構想だ。

その成功例がアニメ事業だ。制作委員会への参画で権利を確保し、多角展開するノウハウを蓄積した結果、2023年度には放送以外の事業から得られる営業利益が放送事業を上回った。アニメの売上はグローバルに拡大して成功を収めている。さらに、フィクションの展覧会『恐怖心展』といった新たなイベント展開にも挑戦しており、放送ファーストの意識から脱却し、社員自らがビジネスを展開する組織文化が醸成されつつあることを明かした。

日本テレビ:「日テレ開国」を掲げ、世界市場へ

福田社長は、中期経営計画で打ち出した「日テレ開国」というスローガンに込めた強い決意を語った。日本の地上波という枠に留まらず、グローバル市場を本格的に目指すという意思表示だ。

四半世紀前に放送された『¥マネーの虎』のフォーマットが今なお世界54の国と地域で展開されている例や、『ブラッシュアップライフ』、『はじめてのおつかい』が海外のプラットフォームで全世界に配信された実績を紹介。一方で、海外プラットフォームへの展開には、広告の質や視聴データのフィードバックなど、解決すべき課題も残されているとの認識を示した。

放送の不変的な価値 ― 信頼性の追求と社会的役割

セッションの最後は、テレビのメディアとしての根源的な価値が問われた。SNSの普及によりフェイクニュースやフィルターバブルが社会問題化する中、放送メディアが果たすべき役割とは何か。

信頼性への取り組みと専門性

福田社長は、テレビへの信頼性が依然として高い一方で、その数値が徐々に低下していることに強い危機感を示した。これに対する具体的なアクションとして、選挙報道の際に実施した「それって、本当?」キャンペーンを紹介。SNSで拡散される不確かな情報を丁寧にファクトチェックし、事実を伝えるこの取り組みは、災害時などにも応用できるテレビの重要な責務であると強調した。

吉次社長は、経済報道における専門性と信頼性の高さをテレビ東京の不変的な価値として挙げた。『Newsモーニングサテライト』のように視聴率は高くなくとも、マーケット関係者から絶大な信頼を得ている番組の存在意義を語り、特定の分野で深く、正確な情報を提供し続けることの重要性を説いた。

スポーツ文化を育むリーチ力

WBCの放送権を巡る動きにも触れつつ、福田社長は、箱根駅伝が6140万人、世界陸上が8000万人近くに視聴されたデータを提示し、「テレビは圧倒的なリーチメディアであり、大きなムーブメントを起こす力を持っている」と断言。サッカー日本代表協会が「テレビを通じて夢を育てる」環境の重要性を訴えていることを紹介し、スポーツ文化の裾野を広げ、次世代を育むという社会的役割を担っていく責任を改めて表明した。

ネクストスタンダードへ向けて

最後に両社長は、自社の目指す「ネクストスタンダード」を語った。

吉次社長は「まだ見ぬ面白いを、共に創る」をキーワードに、後発局の強みを活かし「物量勝負ではない、違うスタンダードでやっていきたい」と宣言。

福田社長は、草創期のテレビに人々が熱狂する写真を示しながら「コンテンツの力で世界を変える」というビジョンを掲げた。そして「コンテンツの力を信じ、皆さんと一緒に熱狂を生み出していきたい」と会場に呼びかけた。また、TBSと共同で開始した広告商品「Ad Reach MAX」に触れ、局の垣根を越えた業界全体の取り組みへと発展させたいとの展望を語り、セッションを締めくくった。


《杉本穂高》

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杉本穂高

Branc編集長 杉本穂高

Branc編集長(二代目)。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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