総務省の令和6年度事業「放送コンテンツのネット配信促進に向けた仮想プラットフォームの構築に関する調査研究」の事業成果報告書が、2025年7月9日に開催された「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」第34回会合にて三菱総合研究所より報告された。
本調査研究は、インターネット空間でのアテンションエコノミーの形成、フィルターバブル、エコーチェンバー、偽・誤情報といった問題が顕在化する中で、「放送の価値」に対する期待が高まっていることを背景に、コネクテッドテレビ(CTV)上において視聴者が放送コンテンツを容易に視聴できる環境の実現を目的としている。
TVerとNHKプラス連携「仮想プラットフォーム」の利便性を確認
本調査研究の主要な柱の一つである「テレビ受信機等向け仮想プラットフォームの検証」において、TVerを母体とした仮想プラットフォームのコンセプトモデルが構築され、その高い利便性が確認された。この仮想プラットフォームは、民放公式テレビ配信サービスであるTVerと、NHKの総合テレビやEテレの番組を配信するNHKプラスのコンテンツを一元的に一覧できる環境を提供するものだ。これは、利用者の「情報的健康・情報空間の健全性確保」と「放送局の配信サービス全体の維持・発展」を実現する手段の一つと位置付けられている。
具体的には、TVerのテレビアプリ(検証用のコンセプトモデル)にNHKプラスのコンテンツが表示され、TVer経由でNHKプラスの番組を視聴可能にした。また、受信機の設置地域に応じたローカル局番組の表示など、地域性への配慮も踏まえたUI(ユーザーインターフェース)が検討された。
会場調査の結果、被験者のほぼ全員がTVerとNHKプラスが一つで見られることの利便性を高く評価し、約9割が仮想プラットフォームに興味を持ったと回答している。特に、「ニュース」ジャンルの追加に対して約9割のニーズが確認され、知らない番組やニュースを知るきっかけとなる可能性、そして見たい番組が決まっていなくてもTVerの利用機会が増える可能性が示唆された。
放送コンテンツの「プロミネンス」効果を実証
放送コンテンツへのアクセス性を高めるための「プロミネンス手法の検証」も実施された。プロミネンスとは、「表示・操作性等により、放送コンテンツが視聴者に視聴されやすいようにする取組」と定義されており、ネット空間においても信頼できる情報や多様な価値観を国民に広く安定的に供給することを目的としている。
検証では、テレビメーカー(シャープ、ソニーマーケティング、TVS REGZA、パナソニックエンターテイメント&コミュニケーション)の商用環境のポータルサイトやアプリ一覧において、NHKプラスおよびTVerのアプリバナーを視認性の高い位置に掲出し、通常時と比較した起動回数の変化が調査された。その結果、すべての受信機メーカーにおいて、視認性が高い位置にバナーを掲出することで起動回数が増加し、動線強化の効果が確認された。特に、TVerよりもサービス開始が遅く認知度が低いと考えられるNHKプラスでは、起動回数の増加が著しく見られた。
「プロミネンスの在り方に係る実務者協議会」では、プロミネンスを具現化する場・対象として、映像視聴を主目的としたコネクテッドTV、チューナーレスTV、ストリーミングデバイス等の機器における「ホーム画面」や「リモコン」が検討された。協議会では、情報空間の健全性確保、国民の情報的健康の確保、多様性に富む地域情報の維持、自国文化の保護などがプロミネンスの目的として議論されており、その社会的な意義が強調されている。
社会実装への道のりは多難、経営レベルの協議と国の制度整備が課題
今回の調査研究では、仮想プラットフォームやプロミネンス手法の高い利便性や効果が確認された一方で、これらの取り組みを社会実装するためには、多数の課題が残されていることが浮き彫りとなった。
主な課題としては、以下の点が挙げられる。
運営体制: 公共性の高いコンテンツを集約する仮想プラットフォームの運営主体をどうするか、現行サービスと並行して運営する場合の人的・金銭的リソース負担が大きいことなど、関係事業者の経営判断と体制整備が必要である。
ビジネスモデル: 民放の広告収入モデルとNHKの受信料モデルの違い、NHKにおける広告隣接の許容可否、同一サービス上でのプライバシーポリシーの適用差異などを踏まえ、両事業者の事業面におけるバランスの検討が必要となる。
権利処理: 仮想プラットフォームで放送と同等のコンテンツを配信するためには、新たな権利処理や費用が生じることが確認されており、その円滑化や制度整備における国の後押しが求められている。
プラットフォーム事業者の協力: プロミネンスの具現化においては、一定規模以上の利用者数や市場への影響力を持つOS事業者が提供するプラットフォームやホーム画面が対象となる。しかし、これらのプラットフォームは自由競争の場であり、収益性に関わるため、メーカーやOS事業者の理解と協力を得るには経済原理とのバランスや、グローバルパートナーとの調整が必要であるという意見も出ている。
これらの課題解決に向けては、放送事業者のビジネスや運営の根幹に係る「経営レベルの議論」が必要であり、制度面を除いてNHKと民放で議論すべき事項とされている。海外大手プラットフォームの急速な拡大など、放送・配信を取り巻く環境変化を踏まえ、今後、NHK・民放間での検討体制を構築し、具体的な検討を進めていく必要がある。また、国による制度整備も多方面で求められるとしている。