“放送から輸出産業へ” 日本の放送コンテンツ戦略、求められる構造改革と国際競争力の再設計

総務省は、日本の放送コンテンツの国際競争力向上に向けた課題と対策を議論。権利処理、資金調達、人材育成の改革が求められている。日本発のIPの潜在力を引き出すため、構造的な改革が不可欠という意見が相次いだ。

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放送・配信コンテンツ産業戦略検討チームの概要令和7年3月6日(配布)
総務省HPり引用 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu04_04000267.html 放送・配信コンテンツ産業戦略検討チームの概要令和7年3月6日(配布)

総務省は2025年4月9日、「放送・配信コンテンツ産業戦略検討チーム」の第3回会合をWEB形式で開催した。本検討会は、激変するメディア環境の中、放送コンテンツ産業の持続的な発展に向けて、官民連会で課題と対応策を検討するものだ。3月夏頃にかけて毎月1~2回開催し取りまとめを行うとしている。


今回の会合では、国内の関係事業者や有識者による報告を通じ、日本の放送コンテンツが世界市場で競争力を持続的に高めていくための課題と方策が議論された。Netflix、K2 Pictures、Brighten Consultingの各社が提出した資料では、グローバル展開に向けた権利処理や資金調達、人材育成の必要性が示され、業界構造の抜本的見直しを求める提言がなされた。


日本発コンテンツのグローバル展開を阻む課題と突破口

① グローバル展開を阻む日本の構造的課題

日本の放送コンテンツは、アニメを中心に世界的な人気を博している一方で、実写やバラエティ番組などの分野においては、国際展開が限定的にとどまっている。その主な要因として、以下のような構造的な課題だあると指摘がなされた。

■ 権利処理の未整備と複雑さ

またNetflixは、日本の放送コンテンツの多くは、制作段階で配信や二次展開を想定した権利処理がなされておらず、とくにテレビドラマのような実写では、演者の肖像権、楽曲使用権、ロケ地の権利など多岐にわたる権利処理が事後対応となっており、グローバル配信に大きな障壁となっているという。

■ 価格戦略の未成熟

さらにNetflixは、日本のコンテンツ関係者の多くは、世界市場での「適正価格」や需要に基づいたダイナミックな価格戦略に精通しておらず、IPの価値を最大限活用できていないと指摘。特に楽曲使用料などで過剰な要求があると、全体の商談が頓挫するケースもある。

■ 制作体制の脆弱性

多重下請け構造が常態化しており、資金が末端のクリエイターに届きづらいことをK2 Pictuiresが指摘。結果として人材流出が相次ぎ、クオリティの高い映像制作が持続できない状況に陥っているという​。

■ 金融支援の不在と資金調達手法が限定的であること

日本では映画・放送の制作資金が主に広告収入や製作委員会から賄われており、自己資金・融資・助成金を組み合わせる海外型のファイナンスモデルが浸透していない。これにより、高品質な作品の開発や長期的な収益設計が困難になっており、多様性ある企画も成立しにくい状況になっているという。K2 Picturesは現在、新たなファイナンスモデルの構築に取り組んでいる。


② 解決の鍵:権利整備・資金構造改革・人材育成の三位一体

グローバル展開を可能にするためには、コンテンツ制作の各フェーズにおいて以下の取り組みを各資料は提案している。

■ 権利処理の早期化と透明化

配信や翻訳を想定したスケジューリングと権利処理を、企画段階から計画する必要がある。Netflixの資料でも、放送から配信までのタイムラグが海賊版拡散を助長し、正規流通の価値を損なっていることが指摘されている​。

■ 映像コンテンツの「金融商品化」

K2 Picturesは、映画・ドラマのIPを軸としたファンド構築、完成保証制度、プリセールス型投資など、グローバルで主流の資金調達モデルを導入すべきと提唱している。これにより、制作リスクを抑えつつ、多様な投資家の参入が可能になる​​。

■ 「食べていける」産業への再設計

クリエイターへの成功報酬やアップサイド分配、標準報酬のガイドライン化を進め、安心して創作に挑める環境を整備する。併せて、OJTに依存しない人材育成機関の設立やDX・VFX支援も不可欠と指摘している​。

■ ビジネスモデルの刷新と専門人材の登用

世界市場に通用する作品を生むには、脚本・演出・マーケティングなど各工程においてグローバル視点を持った人材が必要。K2は特に、「ショーランナー」のようなクリエイティブとビジネスを統括する専門職の育成が急務であるとしている。

③ 未来への展望:日本発IPの潜在力を世界へ

日本のアニメや特撮作品は、既に多くの国で文化的シンパシーを生んでおり、Netflixの視聴数からもそのポテンシャルは明らかだ。今後は実写やバラエティ分野でも、以下のような展開が期待されている。

  • コンテンツの再構築と再活用:過去の名作を現代の技術と視点でリブート(例:Netlifx『シティーハンター』実写版の世界的成功)

  • 国際共同制作の加速:Netflixやディズニーなどとの早期連携によるグローバル配信前提の企画立案

  • 地域からの才能発掘:Brighten Consultingの澤田氏は「日本版サンダンス映画祭」のような場を設けることを提唱。​才能を発掘し、投資家や配信事業者とも接点が持てる場となれる映画祭の創設、または既存映画祭をアップデートすべきだとした。

各資料をまとめると、放送が「日本市場だけで完結するビジネス」から脱却し、輸出型産業へと飛躍することを求めていると言える。そのためには、コンテンツそのもののクオリティ向上と同時に、資金・権利・人材を巡るエコシステム全体の再設計が不可欠ということなるだろう。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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