カリフォルニア州ニューサム知事、トランプ大統領の関税措置に対し提訴 苦境のハリウッドにも影響か

カリフォルニア州知事がトランプ元大統領の関税措置の違法性を訴え、州経済やハリウッドへの影響を訴える訴訟を提起。関税による損失は数千億ドルにのぼる。

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California Governor Newsom Announces Lawsuit Challenging Trump Tariff Authority
Photo by Justin Sullivan/Getty Images California Governor Newsom Announces Lawsuit Challenging Trump Tariff Authority
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カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事とロブ・ボンタ州司法長官は2025年4月17日、トランプ大統領が導入した関税措置に対し、同措置の違法性を訴える訴訟を連邦地裁(カリフォルニア州北部地区)に提起した。

本訴訟では、トランプ大統領が議会の承認なしに広範な関税を導入する権限を有しないと主張しており、これらの措置が国家最大の経済・農業・製造業州であるカリフォルニアに「即時かつ回復不能な損害」を与えていると訴えている。


「違法な関税が州経済に混乱と損害をもたらしている」

ニューサム知事は声明で、「トランプ大統領による違法な関税政策は、カリフォルニアの家計、企業、経済に深刻な混乱を引き起こしており、物価の上昇と雇用への脅威を招いている。我々はこの混乱を終わらせるために立ち上がる」と述べた。

ボンタ州司法長官も、「こうした関税の恣意的な導入は極めて問題であり、法的にも不当である」とし、「中部の農業地帯の農家、州都の中小企業、そして不安を抱える家庭に至るまで、カリフォルニア州民全体がこの代償を払っている」と強調した。

大統領の関税導入に法的根拠なしと主張

国際経済緊急権限法(IEEPA)は1977年に制定された法律で、大統領が国家の安全保障や外交政策上の緊急事態に対処するための権限を与えているが、明文上「関税」の導入は認められていないとニューサム知事は主張。今回の訴訟は、この法律を関税措置に適用することは前例がなく、越権行為であると指摘している。

関税による経済損失、数千億ドル規模に、中国は米国映画輸入削減の措置

カリフォルニア州は2023年の国内総生産(GDP)が3.9兆ドルに達し、次点のテキサス州を50%以上上回る規模を誇る。製造業の集積地として36,000以上の企業が存在し、110万人以上が雇用されている。また、同州は米国最大の農業州であり、貿易額も2024年には6,750億ドルに達した。

しかし、こうした経済活動において、同州の輸出入の4割以上がメキシコ、中国、カナダとの取引で占められており、関税の影響は甚大である。特に中小企業輸出業者や、農業従事者への打撃は深刻で、関税政策によりカリフォルニア経済は数千億ドル規模の損失を被っている。

トランプ政権下では、中国への145%の関税をはじめ、グローバルに10%のベースライン関税が導入されたことにより、米中間での貿易戦争が激化。中国側は米国映画の上映枠の削減など報復措置に踏み切っており、カリフォルニアのエンタメ業界も影響を受けている。

これまでニューサム知事は、トランプ氏との対立姿勢を控えめにしていたが、ロサンゼルス大規模山火事の復興支援で連邦政府の協力を得る必要があった事情も影響していた。だが今回は、「連邦政府からの公平な扱いを望む。カリフォルニアは、納税額に見合った支援を十分に受けていない」と主張し、「かつてハリケーン被害で困窮した州を支援したのと同じように、いま我々も正当に扱われるべきだ」と訴えたとdeadlineは報じている。


関税政策によりエンタメ業界全体に不安が蔓延

この関税措置により、影響はエンターテインメント業界にも広がっている。とりわけ独立系映画プロデューサーたちは、カンヌ国際映画祭を目前に控えた現在、状況の先行きが読めず不安を募らせている。Screen Daliyが取材した複数のプロデューサーや製作関係者は、現在の状況がビジネスにどう影響するのか「見当もつかない」と語り、あるベテラン映画制作者は、「私が見た中でも最も破壊的な状況のひとつ」と述べたという。ストリーミングの台頭、パンデミック、ハリウッドでの二度のストライキ、さらにはロサンゼルスの山火事による欧州映画マーケット(EFM)への影響など、近年の打撃に今回の混乱が追い打ちをかけていると警鐘を鳴らした。

米国内における制作コストの上昇や海外の競争的なインセンティブ(優遇税制)制度により、ローカルプロダクションは苦境に立たされている。マーベル・スタジオが伝統的に拠点としてきたジョージア州アトランタから、英国をはじめとする海外への移転が相次いでおり、『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップス』『スパイダーマン(トム・ホランド版)第4作』なども英国での撮影が予定されている。

こうした現状を踏まえ、ニューサム知事は州内制作の支援策として、年間3億3千万ドルである映画・テレビ制作インセンティブを7億5千万ドルへと倍増させる案を提示している。また、税控除率を一部で現行の20~25%から35%に引き上げる案も州議会で議論されている。関係者からは、英国やイタリアのように「上流部門(Above The Line)」の人件費を控除対象とする改革を望む声も聞かれる。


しかし、ロサンゼルス地域における撮影数はすでに減少傾向にあり、非営利団体FilmLAの報告によれば、2025年第一四半期の全体的な撮影数は前年同期比で22.4%減少。劇映画の撮影日数は28.9%減の451日となった。FilmLAは2024年を「パンデミック直撃の2020年に次ぐ低調な年」と総括している。


今後の展望

本訴訟は、連邦地裁での審理を経て、将来的に最高裁へと進む可能性もある。州政府側は、議会承認なき大統領による越権行為に歯止めをかける司法判断を求めており、今後の展開が注目される。

《杉本穂高》

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映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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