米国脚本家組合(WGA)は2025年4月11日、2023~2024年のテレビシーズンにおいて脚本家の雇用が前年同期比で42%減少したと発表した。2022~2023年の1,819人で、1,319人となった昨年は大幅な落ち込みと言え、業界全体に深刻な影響を及ぼしている。
この発表は、2023年にWGAが実施した148日間に及ぶストライキを受けてまとめられた最新レポートに基づくものだ。2023年のWGAストライキは、歴代で2番目に長いものであり、全米映画俳優組合・テレビラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)も同年7月14日から11月9日までストライキを実施するなど、同年は業界全体に大きな混乱をもたらした。
WGAは、ストライキ中に停滞したスタジオとの契約交渉が雇用減少の一因であると説明しているが、それにとどまらず、ケーブル局でのオリジナル番組の縮小や、ストリーミングプラットフォームによる番組本数の削減も影響しているという。
ショーランナーの雇用が大幅に減少
職種別に見ると、ショーランナーや共同エグゼクティブプロデューサーといった上級職で642件の雇用が減少。さらに、スタッフライターやストーリーエディターなどの初級職では378件、中堅層であるコンサルティングプロデューサーやスーパーバイジングプロデューサーも299件の職を失った。
特に上級職の減少は長期的な傾向として顕在化しており、2018~2019年シーズンには1,508件あったショーランナー関連の職が、2023~2024年にはわずか952件にまで減っている。
映画脚本分野でも同様の傾向が見られ、2024年第3四半期までの脚本家の収入は前年比で6%減少、稼働している脚本家の人数も15%減となった。
ウォール街がコンテンツへの投資を削減している?
背景には「ウォール街からの圧力による収益性の迅速な達成」があり、コンテンツ制作への投資が抑制されている現状があるとWGAは指摘する。これにより、放送されたエピソード形式のテレビシリーズ本数も、前年から37%減少した。
WGA西部支部理事会と東部支部評議会は会員宛てのメッセージで、「脚本家としてのキャリアは元々持続が困難だが、現在の業界の縮小によってさらに困難を極めている」と警鐘を鳴らした。加えて、「ウォール街の要求に従う企業の経営方針が、コンテンツへの投資を削減し、創造性と雇用の両面に悪影響を及ぼしている」と批判した。また、現政権の姿勢についても「経済混乱と民主主義の弱体化を意図しているかのよう」と厳しく非難している。
カリフォルニア州は税制改革で挽回をはかる構え
こうした中、映画・テレビ製作の中心地であるカリフォルニア州では、他州や海外への製作流出が深刻な問題となっている。世界各国で映画撮影に対するタックスインセンティブを用いた誘致競争は激しさを増しており、カリフォルニア州内でのプロダクションが減少傾向にある。また、NetflixやAmazon Prime Videoなどのストリーミング・プラットフォームは、米国外でのプロダクションを増加させ、世界各国でローカルコンテンツを増やしている。例えば、フランスでは2024年の映画製作本数は過去2番目に多く、これを牽引したのは米国のストリーミングプラットフォームからの出資の増加だった。

これに対し、ギャビン・ニューサム州知事は昨年秋、州の年間補助額を従来の3億3,000万ドルから7億5,000万ドルに倍増する方針を表明。現在、「SB 630」と呼ばれる法案が州議会に提出されており、その実施が検討されている。
この法案は、制作拠点の維持と他州との競争力強化を目的としており、ロサンゼルス圏内での人件費や制作費に対する補助率を最大35%まで引き上げる内容が含まれる。「ロサンゼルスゾーン」とされるエリアには、モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)本部を中心に、カスタイク、ポモナ、オンタリオ空港周辺などが含まれている。
最大の競合州であるジョージア州やニューヨーク州では、すでに30%の補助制度が整っており、俳優や監督、脚本家など主要スタッフの報酬も対象とされている。MPAも「補助金制度の拡充こそが、カリフォルニア州の映画産業の活性化には不可欠である」と訴えている。
脚本家の雇用減は、クリエイティブ産業全体の持続性に関わる重大な問題であり、収益重視の合理化路線とどのようにバランスを取るかが、今後の大きな課題となりそうだ。