米アニメーション組合、大手スタジオと新契約の暫定合意に達するもAI使用条項に不満

今後、組合員は暫定合意を批准するかどうかを決めるために投票を行うことになる。

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Photo by Mario Tama/Getty Images ハリウッドサイン

約5,000人のアニメーターや脚本家らで構成される米アニメーション組合(アニメーション・ギルド)は、8月から3カ月にわたる交渉を経て、11月23日に大手スタジオと新契約の暫定合意に達した

Varietyによると、この暫定合意にはAIに関する一定のガイドラインが含まれているものの、アニメーターが仕事でAIを使用する必要がある場合、その使用を拒否することはできず、自身の作品がAIモデルの訓練に使用されることも防げないという。

アニメ組合の労働契約には、制作側が新しい技術や方法を導入する権利を認める条項が長年含まれている。そのため、制作側はこの条項を変更することに難色を示し、契約にAIの導入規制を新たに加えることが困難だったようだ。代わりに組合は制作側が特定の仕事でAIを使用する場合、スタジオに書面でアニメーターらへ通知する義務を課す条項を獲得した。この条項により、アニメーターはそのプロジェクトに参加するかどうかを事前に判断できる。

アニメ組合の交渉委員会とAIタスクフォースのメンバーであるサム・タン氏は、組合員がAIを使用するプロジェクトへの関与を選択できる点を評価。「自分が持っている強みを活かして、最良と思える条件で交渉する機会が得られます。さらに良い条件を望みたいところですが、現時点ではこれが最善だと考えます」と述べている。また組合は、AIの使用により従業員の賃金やクレジットが損なわれないことを明記した条項も確保した。

その他にも、7%、4%、3.5%の賃金引上げが確保され、この数字は米国テレビおよびラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)と、映画やドラマ、演劇、コンサートなどを支えるスタッフの労働組合(IATSE)が勝ち取ったものと同じだ。

組合はプロジェクトに必要な最低人員の条項を確保できず

一方で、組合にとって重要な課題の一つである、プロジェクトに必要な最低人員の条項については、例外としてアニメ番組の脚本家に最低3名を起用する規定以外は、多くが実現しなかった。この状況により、制作側がAIを多用して人件費を削減する可能性が懸念されており、雇用の安定が損なわれるリスクに対して一部の組合員から不満の声が上がっている。今後、組合員は暫定合意を批准するかどうかを決めるために投票を行うことになる。

交渉委員会のメンバーである脚本家のジュリア・プレスコット氏は、AIがハリウッド全体、特にアニメーションに与える脅威に懸念を示した。一方で今回の合意により、制作側が従業者にAIの使用を通知する義務が課された点には希望を感じているとも述べた。

またAIに関しては、生成された作品の著作権が誰に帰属するのか、あるいはそもそも著作権が認められるのかという、法的な課題が依然として不確定なままだ。今後もクリエイティブ業界では、AIを巡る問題が議論の的となるだろう。

《Hollywood》
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ロサンゼルスに11年在住していた海外エンタメ翻訳家/ライター。海外ドラマと洋画が大好き。趣味は海外旅行と料理、読書とカメラ。

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