第37回東京国際映画祭の一環として、第14回MPAセミナーが行われ、VFXスーパーアドバイザーのジョージ・マーフィー氏による「映画制作2.0:リアルタイムVFXの進化、従来の映画制作者に向けて」と題した講演が開催。その後のパネルディスカッションでは実際にロケ地へ行くべきか、バーチャルで解決するべきかなど議論が行われた。
本講演ではマーフィー氏によって、リアルタイムVFX(バーチャルプロダクション)を使用したワークフローと従来のワークフローの違いや、リアルタイムVFXが映画制作にもたらす変化が語られた。リアルタイムVFXのワークフローには可視性があり、プリプロダクションの段階でも先を見据えて計画したり、関係者にも事前に全体像を明示したりできるとのことだ。

後に行われたパネルディスカッションや質疑応答で特に話題となったのは、デジタルで多くの部分をカバーできる今、ロケ地で撮影をしたり、現物を使用したりすることに価値があるのかということだ。リアルタイムVFXを使用したデジタルプロダクションでは、LEDボリューム(LEDのディスプレイ)を背景にし、リアルなライティングで撮影することもできるため、天候の変化や移動の手間を気にすることなく、ストーリーに適したシーンを作り出し、俳優の自然な演技を引き出すことができる。

しかし、いくら最新技術でより手軽になるとはいえ実際にロケ地に行く醍醐味はあるだろう。「TOKYO VICE」のプロデューサーであるアレックス・ボーデン氏は、本作の撮影当初はVRボリュームを使用する予定はなかったが、長野の雪山を舞台とする撮影で、雪や氷の反射やデコボコした道での撮影に課題があり、LEDボリュームのステージを設置することになった。その撮影を通常のスタジオでの撮影と組み合わせることでパフォーマンスが向上し、キーツールになったと実体験を話した。
一方で、上記の例のように撮影が困難あるいは予算的な問題がある時以外は、可能な限りロケ地で撮影することを優先したいそうで、「実際にキャストやクルーを連れて現場で撮影した時に得られるものは、はるかに没入感があり、説得力がある強力な物になるんです」と語った。エキストラを探したり、ロケ地の交渉をしたり、準備過程で相応の苦労があるが、現地の人々や文化、創造性に実際に触れることによって“魔法のような力”を得ることができ、よりリアリティのある作品を作ることができるとその魅力を力説した。
マーフィー氏は、実際にLEDボリュームがどれだけ稼働しているのかを問われると、イタリア・チネチッタなどには常設されている場所がいくつかあり、ロンドンのステージを新しい場所へ移す予定だと話した。チネチッタのステージは今後2年間は予約で埋まっている状態で、新しいステージを作ることにも意欲的だそう。マーフィー氏は、プロダクション側がこれらのステージの使用にゴーサインを出すのに時間がかかっていることを課題にあげ、業界全体の進展が遅いと感じているという。また、現状ではCM撮影のような小規模な撮影での利用に向いていると捉えている。
そのようなニーズが増えてきている中で課題となっているのは人材育成だ。マーフィー氏は「これらのテクノロジーはゲーム業界のツールに大きく基づいているので、映画業界ではそれらのツールの使用方法に関するスキルが豊富ではない状況です」と話す。映画やテレビ制作でツールを使いこなすにはクリエイティブスキルだけでなく専門的な技術も必要になるが、それらをこなせる人材がまだ不足していると説明した。また、それらの課題を解決するためにワークショップなどを行いアーティストが最新のツールに対応できるよう努めているという。
これらの最新技術にはプロダクション側だけでなく、フィルムコミッションなどの関係各所も対応していく必要がある。会場では実際にフィルムコミッションの職員からそれらの技術の進化にどのように対応すべきか、という質問があがった。ボーデン氏は「先週スペインで何人かの映画監督と会って、実際に同じような会話をしました。なぜなら、映画監督がそれぞれの作品に何が必要で、それが常に変化していることを本当に認識していることがとても重要だと思うからです。ですから、最新の情報を把握しておくことはとても重要です。そうすれば、これから制作される作品のニーズをよりよく理解できます。そして、テクノロジーはそれに大きな役割を果たします。これらのオプションがあることで、間違いなくその国に作品を持ち込むチャンスが高まります」と、各所が日々情報をアップデートしていくことの重要性を強調した。