台湾に続き韓国にも進出。新興アニメスタジオ「100studio」の人材獲得戦略

台北に続き、韓国・ソウルにスタジオを構えることが発表された「100studio(ワンダブルオースタジオ)」。日本のアニメ制作スタジオが、海外にスタジオを構える意図は何か?同スタジオの代表・堀口広太郎氏に話を聞いた。

映像コンテンツ 制作
堀口広太郎氏
堀口広太郎氏
  • 堀口広太郎氏
  • 『数分間のエールを』
  • 『この世界は不完全すぎる』
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今夏公開された劇場アニメ『数分間のエールを』とテレビアニメ『この世界は不完全すぎる』を送り出した新興のアニメスタジオ「100studio(ワンダブルオースタジオ)」(運営:株式会社HIKE)。

設立が2021年とまだ3年目になるが、すでに100名近くのスタッフを抱え、台北にもスタジオを構えている。さらに10月から韓国・ソウルにもスタジオを構えることが先日発表された。


日本のアニメ制作スタジオが、海外にスタジオを構える意図は何か?同スタジオの代表・堀口広太郎氏に話を聞いた。

堀口広太郎氏。

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韓国の教育機関と提携、ソウルスタジオは卒業生の受け皿に

――韓国にスタジオを設立する理由はなんでしょうか。

HIKEがゲームのパブリッシングなどの事業を行っており、韓国に支社を持っていて向こうのゲーム会社との取引が多くある中、100studioもゲームの仕事が増えているというのがまず1つ。

もう1つはソウルの清江文化産業大学校と産学連携協定の了解覚書を結ぶことになったからです。同校の学生の作品は映画祭に選ばれるなど、質が高いことは知っていました。清江文化産業大学校はアニメの他、ゲームやWebtoonのクリエイターも輩出していて、提携することで新しい人材の採用面でも有利になれるし、日本に来てもらうよりも韓国内にスタジオがあった方が受け皿になりやすいということで100studio Seoulを作ることにしました。

――HIKEのグローバル事業があって、その関係から始まっているわけですね。

そうですね。韓国のゲームは産業としても大きいですし、グローバル展開する時に協業できるパートナーとして思ってもらいやすいです。私が清江文化産業大学校で講演した時にも、日本のアニメの仕事がしたい学生が多いと感じましたし、実際にフリーランスとして学生時代からXなどを通じて日本のアニメの仕事を請け負っている人もいます。そういう若い人たちの受け皿になれる環境を整備したかったんです。それで、知り合いの韓国出身のアニメーターにスタジオを作る話をしたら参加してくれることになって、色々なタイミングが合致したという感じです。

――人材確保の面でスタジオがあることにメリットがあるわけですね。

はい。他社があまりやっていないことなので、今始めると有利かなと。ソウルのスタジオは10月から稼働する予定で、韓国出身のこれまで日本で活躍していた方を中心に立ち上げることになりました。彼は、アニメーターと演出も経験していて、指導もやっていた人なので適任だと思っています。いつか韓国に戻ることを考えていたので、思い切って誘ってみたんです。

――ソウルのオフィスは、いわゆるサテライトスタジオという位置づけになるんでしょうか。それとも独自に企画を立てていくような方向になるんですか。

独自に企画できるような方向を目指したいと考えています。今、韓国のWebtoon発のアニメ作品も生まれていますが、そういう作品を韓国のスタッフで作るということも求められてくると思うし、その方が原作サイドとのコミュニケーションの課題もクリアしやすいでしょうから。日本アニメは独自の進化を遂げているので、その魅力を生かしたシリーズ作品を韓国国内で作れる体制を整えたいと思っています。

――日本のアニメ業界としてもWebtoonは原作の供給源として存在感が増していますが、韓国国内で制作できた方が効率はいいわけですね。

日本で作る場合、他の会社がどうしても間に入りますし、言葉の問題もありますから、直接韓国でやり取りして制作できるとメリットは大きいと思います。

国内では人材の取り合い、海外のクリエイターを求める必要性

『数分間のエールを』©「数分間のエールを」製作委員会

――100studioは台北にもスタジオを持っていますね。

台北出身のスタッフがいたのが大きいです。向こうは物価などが日本よりも安いというのもありますが、台北にはまた独自の魅力があって、2Dアニメーターに優秀な人が多いんです。映画祭など台北芸術大学とやり取りしているんですが、優秀な在学生や卒業生が多いですね。

日本で経験を積んだ人たちもいずれ地元に戻ることがあるので、100studio Taipeiもソウル同様、そういう時の受け皿になるといいなと。長い目で見て、そういう環境を整えていくのが人材を確保していくことにもつながると思っています。

――日本に残る人もいれば、いずれは地元に帰って仕事したい人も当然いますよね。

はい。ソウルも台北も、日本よりもアニメ業界の規模が小さいですから、アニメーターになるという選択肢がそれほど多くないということもあって日本に来るんですが、ずっといられるとは限りませんし、これまでも自国に戻るクリエイターさんを見てきました。実際、韓国出身の人が日本で働くと、両国の年金を払わないといけないですから、大変ですよね。

――優れた人材を海外にも求めて、それらの地元で受け皿を作るというのは、会社の発展を考える上で重要なわけですね。国内だけでは、人材の確保が難しいほど、需要は多くなっているということもあって。

そうですね。制作会社もどんどん増えていますし、国内だけだと人材の取り合いになってしまっています。そういう中で海外にスタジオを持つと、各々の個性も活かしやすいと思うんです。日本のスタジオではやっぱり日本のルールで仕事をしないといけないですし、言語の問題もあります。育成するにしても、わざわざ日本に来てもらう必要がなくなります。

――今後、海外支社をさらに広げる予定はありますか。

東南アジアにも注目しており、ベトナムの会社とやり取りをしています。ベトナムにもクリエイターが多く、日本のアニメを請け負う背景会社もあります。今は背景会社も足りなくて、取り合いになっています。タイのCG会社も有名ですし、東映アニメーションさんはフィリピンに支社を持っています。アニメの海外人気が高まるにつれて、アニメをやりたいクリエイターも世界中に増えていくと思いますから、そういう人たちが活躍できる環境を今後整備していきたいです。

「製作」と「制作」両方をできるスタジオに

『この世界は不完全すぎる』©左藤真通・講談社/『この世界は不完全すぎる』製作委員会

――100studioは設立からまだ3年で、100名近くのスタッフを抱える規模になっています。今後も採用を続け、来年には200名を目指すそうですが。

仕事が動いているので結果的に増えている感じです。おかげ様で、数年先まで予定が入っている状態です。

――今、どんな人材を求めているのですか。

メインクリエイターが必要です。キーアニメーターとしてクレジットされるような、作品のメインスタッフになれる人材ですね。100studioは、先日発表になった『ペルソナ3 リロード: Episode Aegis』のオープニング映像といったテレビアニメ以外にゲームの仕事も多いのでそういうところで経験を積むことができます。ゲーム内のコンテやMVも増えてきているので、演出家志望の人が経験を積むにもいいと思います。

――今後はテレビアニメの元請けも増えていきそうですか。今年は、劇場アニメ『数分間のエールを』とテレビアニメ『この世界は不完全すぎる』がありました。

はい。元請けが中心になっていくと見ています。来年、再来年の作品もすでに決まっていて、現在制作中です。

――来年放送の作品をもう制作中なんですね。

来年放送の作品は年明けには終わらせないといけないスケジュール感ですね。納品に対する時間の感覚が変わってきています。

――100studioは、いわゆる衣のついた「製作」(作品の出資・企画)と「制作」(実際の作品)を両方やっていますが、これができる会社はアニメ業界全体でもそんなに多くないですよね。なぜ御社は可能なのですか。

原作の許諾をもらうにも、スタジオの実績が重要になってきています。出版社も原作者も良い作品にしてもらいたいと思うのは当然ですし、版元も含めてみんなでビジネスをやっていこうという感じになってきているので、制作できるスタジオを持っている会社が選ばれる傾向にあるのではないでしょうか。トレンドとしては、大きな会社がスタジオを買収していく流れですが、うちは出自がちょっと特殊なので、自分たちで出資していくことになりました。

――確かに大企業によるスタジオ買収が増えていますね。そういう大きな企業とも競争しないといけないと思いますが、どう戦っていくのですか。

HIKEがゲームに関連する事業(開発、開発補助、パブリッシング、プロモーション、マーケティングなど)をやっているので、ゲームの仕事も多いことをポジティブに捉えています。アニメもゲームもどちらも好きなクリエイターは多いですし、そのどちらにも携われる環境にあれば、クリエイターのニーズにも応えやすいと考えています。

クリエイターとして独立する人は、その大きな理由の1つに仕事を選びたいというのがあると思うので、色々な仕事をしていける体制を作っていきたいですね。

そして、HIKEとして増やしていきたいのはメディアミックスです。例えば、舞台として上演された作品を映画にしたり、アニメにしたり、そこにVTuberが声優として出演したりとか、ひとつのIPに対して360度的に事業を展開できる強みを今後も活かしていきます。


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《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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