「オイルマネーではなく、コンテンツマネーだと思ってほしい」サウジのマンガプロダクションズCEOが語る、中東アニメビジネスの課題と可能性

日本のアニメビジネスをどのようにサウジに広げられるか?マンガプロダクションズの最高経営責任者(CEO)ブカーリ・イサム氏がサウジアラビアのコンテンツ市場の現状や日本企業がビジネスする上での課題を講演した。

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「オイルマネーではなく、コンテンツマネーだと思ってほしい」サウジのマンガプロダクションズCEOが語る、中東アニメビジネスの課題と可能性
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AnimeJapan 2024ビジネスデイで、シンポジウム「中東のアニメビジネス:新たな金脈はあるか?」が開催された。

登壇者は、中東でアニメとマンガのビジネスを展開するマンガプロダクションズの最高経営責任者(CEO)ブカーリ・イサム氏。ブカーリ氏は、マンガプロダクションズ創業前は外交官として日本のサウジアラビア大使館に勤務していた経験があり、日本語も堪能だ。

同氏は、大使館勤務時代にサウジの留学生の面倒を見ていたそうだ。2011年の東日本大震災当時、諸外国は学生を国外退避させたが、サウジはむしろ新たな学生の派遣を増やしたという。サウジアラビアは第二次世界大戦後に復興した日本を賞賛しており、必ずまた立ち上がる、それを間近で学生に学ばせるチャンスだと考えたからだという。現在、マンガプロダクションズには、当時の留学生が勤務しているそうだ。

国民の3人に1人がアニメを観るサウジ。コンテンツ全体への投資を拡大

ブカーリ氏は日本人の持つ中東のイメージはオイルマネーや砂漠といったものが多いが、今のサウジアラビアは大きく変わっており、巨大都市を建設しコンテンツへの莫大な投資が行われていると語る。サウジアラビアではアニメの人気が上昇しており、2022年にアニメ作品を視聴した人の数は1,300万人、国民の3人に1人が観たという。アニメだけでなくエンターテインメント市場全体が成長しており、国内市場は2028年には30億ドル規模になる試算とのこと。特に映画市場は、2018年まで映画館が禁止されていたにもかかわらず、以降6年間で中東市場全体の半分ほどのシェアを占めるほどに急成長しているそうだ。

各国のソフトパワーを示す「グローバルソフトパワーインデックス」では、サウジアラビアは19位についており、その他UAEやカタールも伸びていて、中東全体がランクを伸ばしている状況にある。そして、昨今サウジへの外国人訪問数は日本よりも多く、昨年は1億人の観光客数を記録したという。その動機もかつては巡礼などだったが、今はエンタメイベントのために訪れる人が多いのだとか。

2024年夏にはeスポーツのワールドカップをリヤドで開催する予定で、2030年までにサウジの国内総生産(GDP)に対するゲーム産業の寄与を130億ドルに引き上げることが目標だという。

東映アニメーションとアニメを共同製作。マンガプロダクションズの取り組み

サウジ全体のエンタメ概況の説明に続いて、マンガプロダクションズについてのプレゼンがあった。同社のミッションは「未来のヒーローたちの心を動かす」で、アニメやマンガを作るのではなく、「次世代を作る」ことが目標だという。具体的な業務内容は、人材開発や配給にライセンス、販売と多岐にわたる。

東映アニメーションと共同製作した『アサティール 未来の昔ばなし』は、世界の35のチャンネル・プラットフォームで展開され、1億人近くが鑑賞したそうだ。また長編アニメ映画『ジャーニー  太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』は世界で50を超えるプラットフォームで配信され、6カ国の吹替版が制作、サウジアラビアアニメで初めてのフィギュアも制作され、1億5千万人が視聴したという。2024年には『アサティール 未来の昔ばなし』シーズン2の放送も予定されている。

同社はアニメ製作だけでなく、マンガ事業も行っている。創業当初に東映アニメーションにインターンシップをお願いしていたそうで、その時インターン生だった作家が今、中東で人気のマンガ『ビッサ(Bissa)』を描いているのだとか。また『マーキュリーガール』というマンガはKADOKAWAにインターンシップをしていた作家が描いたもので、日本のマンガ・アニメ産業で学んだ作家が着々とデビューしているようだ。

IP管理事業については、日本の作品も手掛けており、同社は『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一氏がクラブのオーナーを務める日本のサッカーチーム「南葛SC」のユニフォームパートナーとなり、中東での同作の配給も担当している。日本作品を扱う時は、作品に愛情を持ちきちんとマーケティングすることを心がけているという。昨年発表された『グレンダイザーU』は、日本をのぞく全世界の配給権を獲得しているとのこと。予告編の視聴数は1億を突破しているそうだ。また、リヤドにある「ブールバード・ワールド」に高さ33.7mのグレンダイザー像を建設し、世界最大立像としてギネスにも認定された。


人材開発については、サウジアラビア文化省と協力して350万人にオンラインでマンガを教えているとのこと。国立学校でもマンガのコースを設けているそうだ。また4,500人ほどインターンとして派遣している。ブカーリ氏は、今後はAIの時代になるので想像力に投資する必要があると語る。

サウジアラビア×日本:アニメビジネスの3つの課題

続いて、サウジと日本のアニメビジネスの課題について話が移る。ブカーリ氏は主に3点の課題を挙げた。

1つ目は海賊版だ。


《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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