話題のコンテンツを生み出してきたCHOCOLATEが劇場アニメを作る理由。「映画館の持つ、心に残る力に向き合いたい」

先日、製作費10億円をかける劇場アニメ『KILLTUBE』を発表したCHOCOLATE。同社チーフコンテンツオフィサーの栗林和明氏が監督を務める。映像コンテンツを中心に様々な分野の広告関連のプロジェクトを手掛けてきた栗林氏が、なぜ畑違いの劇場アニメを監督するのか?その真意を聞いた。

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話題のコンテンツを生み出してきたCHOCOLATEが劇場アニメを作る理由。「映画館の持つ、心に残る力に向き合いたい」
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  • 劇場アニメ『KILLTUBE』より
  • 劇場アニメ『KILLTUBE』場面カット
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  • 劇場アニメ『KILLTUBE』場面カット
  • 劇場アニメ『KILLTUBE』場面カット
  • 劇場アニメ『KILLTUBE』場面カット
  • 劇場アニメ『KILLTUBE』実験パートナー募集

6秒商店などのショート動画から、『14歳の栞』や『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』といった長編映画まで製作してきたCHOCOLATE Inc.が先日、劇場アニメ『KILLTUBE』のプロジェクトを発表した。


製作費10億円で2026年の公開を目指すという同作は、CHOCOLATEの完全オリジナル企画で、作り方や届け方の様々な実験を重ねて新たなIPを創出することを目指すプロジェクトだという。

このプロジェクトは、映画監督の竹林亮や、星街すいせいのMV『ビビデバ』で注目された擬態するメタなど多くのクリエイターが参加予定で、現在も参加希望者を募集している。

監督を務めるのは、チーフコンテンツオフィサーの栗林和明氏。映像コンテンツを中心に様々な分野の広告関連のプロジェクトを手掛けてきた栗林氏が、なぜ畑違いの劇場アニメを監督するのか、その真意を聞いた。

CHOCOLATE チーフコンテンツオフィサー 栗林和明氏。

KILLTUBE概要

2026年、江戸幕府による鎖国が続く日本。厳しい身分制度の中で、社会のゴミとして扱われる3人が牢獄で運命の出会いを果たし、自由を勝ち得るために決闘動画プラットフォーム「KILLTUBE」に参加して成り上がりを目指すことになる。 「強いものを倒す」ただそれだけで巨万の富を掴むことが出来る"大決闘時代"の中で、力と権威を求め戦う侍や商人たちに差別されながらも、常識のリミットを外して次々勝利する3人が人気を博して"時の人"になった頃、彼らは「KILLTUBE」というシステムに隠されたある事実を知ってしまう。


映画を作って実感した劇場の持つ力

――CHOCOLATEさんが劇場アニメを作ると聞いて驚いた人は多いと思います。製作の動機からお聞かせいただけますか。

一番はとにかく面白いエンタメを作りたいということですけど、これまで色々なコンテンツを作ってきた中で、映画館の持つ力はすごいと感じたんです。そして、“世界に広がるエンタメ”としてアニメの力もすごく強いし、ならば劇場アニメで、エンタメのど真ん中で勝負できないといけないんじゃないかと思って企画しました。

――映画館の持つ力というのは具体的にはどんなものでしょうか。

一番は心に刻まれる力ですね。映画館では、約2時間スマホを一切見ずに作品だけに没頭させるわけですよね。人の心に強く残れば、一年経って再上映しても同じ映画を観に来てくれることもあります。 僕らも映画を作った時、そこに生まれる熱量がこんなに違うのかと実感しました。

――この企画には、CHOCOLATEさんがこれまで作ってきた長編映画の上映体験も関係しているんですね。2021年に上映を開始した『14歳の栞』 は今年も再上映されていて、お客さんも結構入っていますよね。

そうなんです。実は最初の上映時と同じくらいのお客さんが来てくれていて、僕らも予想外でした。

――そもそも、CHOCOLATEさんはウェブのショート動画のイメージが強かったですが、なぜ長編映画を作ろうと思ったのですか。

ショート動画の拡散性は素晴らしいですが、同時に忘れられてしまうことの虚しさも感じていました。『14歳の栞』は僕自身、一視聴者の視点で見たときに、大袈裟に言えば人生が変わった感覚が生まれました。同じように感じてくださっている方がいたなら、それはものすごく価値があることだと思うし、そこに向き合わないといけないという感覚があったんです。

――『KILLTUBE』でも新しい作り方や届け方を実験したいと表明していますが、ある種、異業種のような立場で映画産業に関わってみて、業界に対して何らかの課題意識を持っていたのでしょうか。

手探りで進める中で感じたことが大きく2点ありました。1つは作る工程と届ける工程が分断されていることです。『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』という映画を作った時、内容も評価いただいたんですが、プロモーションが斬新だと言っていただいたんです。この映画は自分たちで企画したもので、企画段階から制作チームと宣伝チームが同じ机にいて、意見交換をしながら作りました。プロモーションでもスムーズに意思疎通を図りながら、どんどん色々なことが試せたんです。

例えば、たまたまインターン生にTikTokコンテンツのプロがいたので、その子にどんどん素材を自由に活用してもらって動画を作成したりしていましたが、業界の方に話を聞くと通常はそういう環境ではないようで、僕らが特殊だと初めて気づきました。制作と宣伝チームを融合させたらもっと面白いことができると思うんです。

――普通の映画宣伝の場合、素材の確認だけですごく時間がかかりますね。『MONDAYS』はどういう経緯で作ることになったのですか。

僕らもストーリー映画に挑戦したいという話を常々しており、TAKE Cという社内のストーリーチーム主導でまずは「短編映画」の企画と脚本を進めていたのですが、気づけばそれが長編サイズの物語になってしまい……どこで公開すればいいのかと途方に暮れていたところでPARCOさんとご縁をいただいたという流れになります。

――自主製作として始まったんですね。あの作品もかなり大きな反響を呼んだのではないですか。

おかげさまですごく手ごたえを感じています。僕らにとって初のストーリー劇場作品でしたが、竹林監督は日本映画批評家大賞の新人監督賞と編集賞を受賞できました。さらに、海外の映画祭にも呼んでもらえて、リメイクのオファーもたくさんいただいています。

IPの新しい作り方を見つけたい

――もう1つの気づきはなんでしょうか。

もう1つはオリジナルIPがあらゆる業界で重要視されているけれど、そのIPを生み出すための新しいカギがまだ見つかっていないんじゃないかということです。この新しいカギが分かれば、僕らだけじゃなく色々なクリエイターや企業にとってもポジティブな影響があるんじゃないかと思うんです。

――IPを育てることは、今多くの企業が一番力を入れていることですね。そのIP作りにおいて、日本ではマンガの力がひときわ大きいと思いますが、今回は別のルートでIPを生み出すという挑戦でもあるのでしょうか。

そうですね。マンガは個人、あるいは少人数で作って作家性を込めることが大切だと思います。対して、僕らは、チームのアイデアを盛り込む形を模索していて、それは劇場アニメの方が合っているのではないかと思っています。僕自身、個人で作るよりもチームの形で才能を集約して作ることが性に合っているので、そういうやり方でIPを生み出す方法を模索したいんです。

もう1つ、僕らは「世界観IP作り」に挑みたいと思っています。日本のマンガは優れたストーリーとキャラクターを次々と生み出していて、キャラクターIPを中心にメディアミックスしていく形ですよね。世界観IPは例えばマーベルやハリーポッターのように、キャラクターが変わっても強固で緻密な世界観を中心に成り立ち、展開していくものです。日本でも『ポケモン』は世界観IPとしても素晴らしいと感じていて、キャラクターが変わっても成り立ちますよね。

このタイプのIPは最初から密度の濃い世界観を構築するのが重要で、例えば、僕はハリーポッターシリーズが大好きなのですが、世界観IPの最高峰だと思っています。学校の廊下ひとつとっても面白いですし、あの世界に魅了されるんです。J.Kローリング個人の頭からあの世界観が創出されているのはすごいことで、僕個人ではとても敵いませんが、みんなのアイデアを詰め込むことで魅力的な世界が作れるかもしれないと考えています。

――しかし現在、長編映画のオリジナル企画自体なかなか成立が難しく、それこそ人気IPの劇場版が多いですよね。そもそもなぜ今オリジナル企画は成立しにくいと思いますか。

やはり、保証がないのが一番大きな要素だと思います。でも、オリジナル作品自体は増えています。いくらでもYouTubeで作品を公開できる時代で、実際にたくさんの人がやっているわけです。でも、その次のステップに行く階段が用意されてない。マンガは、マンガ→テレビアニメ→劇場&その他メディアミックスという最高によくできたステップがすでに確立しています。今、その階段づくりが難しい状況なので、実験しながら次のモデルを作っていきたいんです。

――その気づきは、普段から個人のクリエイターさんと一緒に仕事する中でも感じますか。

めちゃくちゃ感じていますね。素晴らしい短編やキャラクターを作れる方はどんどん増えているけど、ビジネスにするのが本当に難しい。だからこそ、今回の企画では、作り方や届け方のみならず、稼ぎ方でも色々な実験をしたい。クリエイターの立場で稼ぎ方について言及すると、純度が濁ると感じる人もいるかもしれませんが、そこを直視しないと未来が見出せないので、敢えて稼ぎ方についてもちゃんと言おうと思ったんです。

制作中の実験は公開していく

――『KILLTUBE』のコンセプトやこだわりについて教えてください。

中学生くらいの時から、日本が鎖国を続けていたらどうなっていたかをぼんやり考えていたんですけど、もし江戸の風習も現代まで続いていて、今のカルチャーと融合したら、きっと配信者なんかもいるだろうなと。侍の決闘配信が人気エンタメになっている世界線は面白いんじゃないかと考えました。この世界観で色々な人に遊んでほしいので、多くの人が想像しやすいものにしたいなと思ったのもあります。二次創作なども大歓迎です。

それと、新しいルックを作れるかどうかもポイントで、新版画の要素を取り入れたいです。江戸のセンスを基盤にしつつ、立体表現を取り入れたことで新しいものを生み出したという新版画が、今回の世界観と親和性があると思っています。ただ、それにこだわりすぎず、色々な要素を取り入れていきたいですね。

――本企画には、108の実験を行うとありますが、この狙いを教えていただけますか。

例えば僕は絵が下手で、普通に絵コンテを描いてもなかなか伝わりにくいので、従来のやり方ではない新しいコンテの作り方を試してみたい。脚本作りも、ハリウッドのライターズルームを日本流にアレンジできないか試してみようと思っています。色々な分野の知恵を入れても崩れないような形を模索して、演出チームにも、音楽プロデューサーとか小説家とか広告プランナーとか、いろいろな領域の方に入ってもらいたいけど、異業種の人ばかりでなくベースは各分野の専門家にまとめてもらうような形ですね。それらの試みの成否も全てオープンにしていきたいんです。実験の過程はYouTubeチャンネル(※)で公表していきたいです。

※実験の過程が公開される「エンタメ実験中毒」のチャンネルhttps://www.youtube.com/@entame_chudoku

――新しい作り方を探すのは、既存の作り方では表現できないものがあるという想いがあるのでしょうか。

できないものがあるというよりも、畑の違う人が無理やり足掻いた時に、新しいものが生まれるという感覚があります。それは僕らが過去やってきたことでもあるんです。ボードゲームを作ってみたり、新しいキャラクターものを立ち上げたり、それこそ『14歳の栞』もそうですね。自分たちなりの武器で挑んでみて、それを多くの人に喜んでもらえたので、今度はその範囲を大きくしてみようということです。

――栗林さんはご自身で監督されることにこだわったのですか。例えば、ご自身はプロデューサー的な立ち位置で優秀なアニメーション作家に監督してもらうことは検討しなかったのでしょうか。

それはめちゃくちゃ考えて、一年ぐらい悩みました。でも、結論としては監督じゃないといけないと思ったんです。なぜかと言うと、中身に対しての判断をすぐにできないといけないので。例えば、一緒にゲームの開発を進めることになった場合、ゲーム開発側から映画の内容にも影響するようなアイデアが出てきたとしても、その実装可否を瞬時に判断できれば純度を下げずにより面白くできるし、そういうシームレスさが必要だと思ったんです。広告展開やグッズ作りなど、あらゆる領域でそういう判断の速さは求められると思ったので、内容にきちんと責任を持てる立場じゃないとこの構想は実現できないと考えています。

――色々な人のアイデアを取り込むためには、最終的には栗林さんの判断が絶対に必要になりますよね。その判断基準がひときわ大切になると思いますが、ここは絶対にブレないというポイントがあればお伺いしたいです。

一番の基準は「自分が愛せるか」です。それは面白い作品を作るための絶対条件だと思っています。今回出したティザー映像も、本当に全フレームを自分が心から愛せていないとバレると思っていたし、全部愛せるほど好きなものを詰め込んだら、共鳴してくれる人が現れるはずだと思っています。それはキャラクターデザインや世界観、全行程で大事にしています。要は自分の体重が乗っている感覚があるかどうかですね。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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