海外の作家にとっての日本の魅力とは? 『PERFECT DAYS』プロデューサーとフランス人監督が語る

横浜フランス映画祭2024のマスタークラスにて「海外から見る"日本"」が開催。同映画祭出品作の『日本のシドニー』のエリーズ・ジラール監督と、『PERFECT DAYS』のプロデューサー・高崎卓馬氏と柳井康治氏が登壇した。

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横浜フランス映画祭2024「海外から見る
横浜フランス映画祭2024「海外から見る"日本"」
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3月23日、横浜フランス映画祭2024のマスタークラスの一環として「海外から見る"日本"」が開催され、同映画祭出品作の『日本のシドニー』のエリーズ・ジラール監督と、『PERFECT DAYS』のプロデューサー・高崎卓馬氏と柳井康治氏が登壇。日本という国を海外の視点で描くことについての活発な議論を繰り広げた。

トークセッション前には、フォトセッションの時間が設けられ、『日本のシドニー』に出演している俳優の伊原剛志氏も参加してくれた。

日本の「静寂」が素晴らしい

『日本のシドニー』は、小説デビュー作が日本で出版されることになったフランス人女性作家が来日し、日本人編集者との出会い惹かれてゆくが、亡き夫との思いに葛藤するという物語だ。

まず、エリーズ監督が日本を舞台に映画を撮影することになった経緯を説明してくれた。彼女は2013年に初めて日本を訪れ、感銘を受けたために映画を作ることを決意。高崎氏から日本のどんな点に独特な印象を受けたのかとの質問を受けて、日本の街中の「静寂」に惹かれたという。奈良を訪れ、3,000人ほどが周囲にいるにもかかわらずとても静かだったことに驚いたという。そして、建築の線の美しさや、伝統とモダンが自然に共存している点、洋服のデザインもシンプルな美しさがあるとのことだ。

そして、エリーズ監督はその時の実体験をもとに、フランスの女性が日本の美しさの中で精神状態が影響されることを物語に込め、登場人物に投影していったとのこと。伊原剛志演じる溝口が日本の良い部分を体現していると高崎さんは指摘、監督もその通りだという。

また、司会から日本の幽霊を信じる文化について質問されたエリーズ監督は、まさに日本独特のものでフランスにはないもの、日本人の死者に対する感性は独特であり、それを映画で描きたかったとのこと。実際に、『日本のシドニー』でイザベル・ユペール演じる主人公は日本滞在中に夫の亡霊を見るシーンがあるそうで、それはフランスでは体験したことのないもので、しかも恐ろしいものではなくコミカルな亡霊として見せたとのことだ。

高崎氏は海外の人と一緒に何かを作ると、日本人にとって当たり前すぎることに面白いものがあることに気付けるという。日本人の死生観もその一つではないかと指摘。

続いて柳井氏は、エリーズ監督に今この映画を作った特段の理由はあるかと問いかける。エリーズ監督は、自分の作品には時代性があまりなく、「今の自分を表現しているもの」だと語った。

『日本のシドニー』と『PERFECT DAYS』の共通点

次はエリーズ監督から『PERFECT DAYS』のプロデューサー2人にどのようにヴィム・ヴェンダース監督と出会ったのかと質問が飛ぶ。

柳井氏は、THE TOKYO TOILETのプロジェクトのあらましを説明。公共トイレを清掃することの大切さをどうすれば伝えられるかを高崎氏に相談したところ、その中で映像作品を作るアイディアが生まれ、2人が好きなヴェンダース監督に声をかけてみようとなったのだという。

ロケハンや脚本作りについて、高崎氏は、シナリオハンティングの最中、ヴェンダース監督から主人公の生活や生い立ちなどについての質問が繰り返されたという。ある程度輪郭が見えてきたら、主人公の暮らす家を見つけるために3日間歩き回ったそうだ。ヴェンダース監督のスタイルは、実際にあるものを尊重しよく観察するところから始まるのだそうだ。そのうち、「もののあわれ」という日本独特の感性を感じさせるものや「木漏れ日」という日本語にしかないキーワードを核にしてシナリオを構築したのだという。


また、エリーズ監督は撮影時のようすについても質問。ヴェンダースの撮影時には、高崎氏は常に監督に寄り添い、彼の目と耳になり日本語の芝居をチェックしたそうだ。

エリーズ監督は自身の作品に『PERFECT DAYS』と同じカットを発見したそうだ。それは高速道路に朝日があたるカットだという。これは全くの偶然だが、外国人の視点として共鳴するものがあったのだろうと語る。そのほかには、どちらの作品も日本のモダニティと伝統的な部分が混ざり合った点を描いているところが共通していると述べた。

『日本のシドニー』は現代アートで有名な直島を舞台の一つに選んでおり、伝統的な風景が残る島に現代のアーティストの作品が展示されている光景に衝撃を受けたそうだ。また『PERFECT DAYS』のトイレの先進的なデザインについては、清潔に保ってほしいというものであると同時に、排泄物を流す場所に最新テクノロジーを搭載しようとする日本人の考えが面白いと柳井氏は語る。

高崎氏は、モダニティと伝統の共存について特別に意識はしていなかったそうだが、自分たちが今生きているのは歴史の積み重ねのおかげなので、昔の人が積み上げてきたものを感じながらもの作りをした方が面白いものができる、今だけを考えると普遍的なものはできないのだろうと語った。

また、高崎氏はエリーズ監督の作品は一対一の関係性を描くものが多いのではないかと指摘。エリーズ監督は集団があまり好きではないそうで、一対一の関係のほうが本当の気持ちが出やすいからだと答えた。

観客との質疑応答も行われた。会場となった横浜市立大学の学生から「表現したいという思いはどのように生まれるか」との質問に対して、エリーズ監督は、6歳の頃から何かを書くことをしていたそうで、いつも頭の中にあるものを書き出す必要性を感じていたという。毎日日記をつけていたそうで、ある時に自分は物語を誰かに語ることができるのではと気が付いたとのこと。命は短いので自分のやりたいことをやるべきとエールを送った。

しかし、そんなエリーズ監督でもプロとして仕事をする上では辛い思いをすることもあるようで、〆切がないとなかなか作業を始めないことは多々あるそうだ。

高崎氏も全く同じタイプだそうで、好きなことのはずなのに辛くなってなかなか進まないことがあるという。〆切の重要さという、作家にとっての「あるある話」で盛り上がり、トークセッションは幕を閉じた。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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