横浜フランス映画祭が、3月20日から24日の日程で今年も開催される。1990年代から続くこの映画祭は、横浜の映画イベントとして映画ファンの間で定着しており、多くの監督や俳優が来日し、触れ合えることで人気を博している。
本映画祭を主催しているのは、フランス映画を国際的に振興することを目的とした組織・ユニフランスだ。日本にも支部を持ち、同国映画の日本への輸出支援や、市場調査などを行っている。フランスは手厚い映画産業政策で知られているが、ユニフランスはそんな同国の映画支援の重要な部分を担う存在だ。
今回はユニフランス東京オフィスの代表を務めるエマニュエル・ピザーラ氏に、同組織の活動内容やフランス映画祭を国外で開催する意義、そして世界の映画市場におけるフランス映画の存在感について話を聞いた。
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ユニフランスのミッションとは
――ユニフランスの活動内容について教えてください。
ユニフランスはフランスの映画関係者、映画製作会社、プロデューサーや監督、さらに俳優や脚本家、エージェントなどの会員から構成される団体で、第二次世界大戦後に、「映画が平和を作る礎になれるように」との願いから誕生しました。現在はフランス国立映画映像センター(CNC)のもと、映画をはじめとする映像作品の海外輸出やプロモーション、世界の映画市場でのフランス映画買付のサポートなどを主に行っています。それから、この度開催するフランス映画祭のようなイベントを世界各地で開催しており、フランス映画の公開時に映画人の来日を手伝ったりすることもあります。
世界の映画市場のリサーチも重要な仕事で、私はアジア市場の分析を担当しています。フランス映画が世界市場でどのように受け入れられているのかを細かく分析しているのですが、これだけ手の込んだ市場調査を行っているのはフランスだけかもしれません。
――ユニフランスの行っている海外輸出や制作支援についてもう少し詳しく教えていただけますか。
ユニフランスでは、映画祭や買付サポートを通じて、多様な作品の支援を行っており、若いクリエイターが世に出ていくためのサポートもしています。例えば、オリジナリティのある若手作家の短編映画制作のプロモーションをするなどして、個性を持ったアーティストが表現できる場を作り、世に出ていくための可能性を拡げています。また、上部組織であるCNCでは制作支援や資金調達サポートなどでクリエイターを支援しています。
数年前から「10 to Watch」というプロジェクトを立ち上げ、毎年10人の注目すべき監督や俳優を選出しています。長編映画1作目の作家を国際的に紹介できるように、1年間、様々な映画祭などに行けるような仕組みを作りました。こうした支援活動の中から、セザール賞(フランスにおけるアカデミー賞のような映画賞)を受賞する人材が輩出されています。
フランス映画の世界でのシェアは?
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――市場調査もユニフランスの重要な仕事とのことですが、世界の映画産業の中でフランス映画は現在、どの程度のシェアを持っているのですか。
年度によって異なりますが、概ね世界のトップ5に入るだけのシェアをもっています。国ごとにも異なるのですが、世界全体ではフランス映画はだいたい5%くらいのシェアになります。5%というのは少ないと感じられるかもしれません。しかし、世界各国の映画市場はどの国々も、アメリカ映画と自国の映画がシェアのほとんどを占めているのが現実で、残りの少ないシェアを各国が争っている状態です。ですから、5%というのは決して少ない数字ではないのです。欧州の国々では、フランス映画のシェアは5%より高いことが多いですね。
――日本を含めたアジア市場では、フランス映画はどのような位置づけになるでしょうか。
アジアと言っても、フランス映画の受容は多用です。日本は、昔からフランス映画を好む層がたくさんいます。現に、2023年だけで日本ではフランス映画が100本近く公開されています。ベトナムではフランスのアニメーション作品が人気ですし、韓国では日本と似た傾向があり、ある種のスタイルがある作品が人気です。
アジアについては、それぞれの国の歴史がフランス映画の受容と関係していると思います。日本は自国の映画文化が成熟していて、昔から海外作品の受け入れにも積極的ですが、インドネシアなどは少し前まで海外の映画を受け入れていませんでしたし、韓国もかつては制限をしていました。そういう歴史とフランス映画の受容は密接な関連があるように思います。
――フランス映画にとって日本という市場の重要度はどれくらいなのでしょうか。
日本はフランス映画にとって世界の中でもトップ10に入る大きな市場です。フランス映画を好きな観客も多くて、フランス自体に親近感を感じてくれている方もたくさんいらっしゃいます。日本には配給会社の数も多く、その中の多くがフランス映画を手掛けた経験がありますし、マーケティングもきめ細やかでポスターなども素晴らしいものを作ってくれます。
――ユニフランスは、2022年にコロナ禍で苦しむ日本のミニシアターを支援する施策を行っていました。なぜ日本の映画館を支援し、そのための予算をどのように捻出されたのですか。
ユニフランスの予算の使い方は、毎年理事会と委員会で議論して決定しています。2022年、世界全体がコロナで苦しみ、映画産業においては映画館は特につらい立場に立たされました。日本には独立系の映画館が多数あるのが素晴らしいと私は思いますが、岩波ホールなど象徴的な劇場が閉館になることもありました。映画館は我々にとって重要なパートナーなのです。映画館がなくなってしまったら、フランス映画を紹介することもできなくなりますから。
そこで、コロナでイベントが開催できないこともあって、その分の費用をパートナーである映画館の支援に当てようという結論になったのです。2017年以降に製作されたフランス映画を2本上映(1本最低10回上映)する映画館に対して50万円の助成金を出すという支援内容で、11の劇場に支援させていただきました。こうした映画館の支援は、メキシコや韓国など、独立系の映画館が多い他国でも実施しました。
今年のフランス映画祭の見どころは?
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――フランス映画祭の開催は、日本ではすでに30回を超え、他国でも同様の映画祭を開催しておられますが、この映画祭の狙いとはどういうものですか。
映画祭を開催することで、フランス映画の話題のテコ入れを図ることですね。映画祭でフランス映画に触れてもらい、映画人と接することで、フランス映画をもっと観たいと思ってもらうことが第一の目的です。もう一つは、フランス映画の多様性を知ってもらうことです。フランス映画には、優れたドキュメンタリー映画もホラーもドラマもありますし、アニメーション作品だってあります。広く作品を紹介することでフランス映画のイメージを拡げることができるわけです。
――今年のフランス映画祭、見どころや注目ポイントはなんでしょうか。
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全部で13本の作品を上映する予定で、12本は長編映画、もう1本は初めての試みとしてテレビシリーズを上映する予定です。各作品の監督たちはほぼ全員来日しますし、俳優も何人か来てくれる予定です。それから、コロナ禍にはできなかった上映後のQ&Aやサイン会も復活させます。映画祭のオープニング作品『愛する時』のヴァンサン・ラコストという俳優が来日予定で、彼は、フランスではかなり知名度が高く、日本ではまだそれほど知られていませんが、これから大スターになるので覚えておいてくださいという気持ちで今回紹介します。
それから、レッドカーペットイベントを桜木町の駅前で行います。これは無料で誰でも見られるようにしたいと思います。さらに、横浜市立大学と東京藝術大学の横浜キャンパスと協力してマスタークラスの開催、クレール・ドゥニ監督の名作『美しき仕事』の4Kレストア版に合わせて、彼女の作品を特集上映する予定ですので、楽しみにしていてください。
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横浜フランス映画祭 2024 Festival du film français de Yokohama 2024
期間:3月20日(水・祝)~3月24日(日)全5日間
会場:横浜みなとみらい21地区を中心に開催
主催:ユニフランス
共催:横浜市、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
特別協賛:日産自動車株式会社