アニメ情報を海外に届けるニュータイプとテレ朝の挑戦!「今こそ国内からの情報発信が必要」【IMART2023】

海外でアニメ人気が高まる中、“アニメ情報”を世界に届けようとするプロジェクトも動き始めている。「IMART2023」では老舗雑誌「ニュータイプ」やYouTubeチャンネルを運営するテレ朝の取り組みが紹介された。

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アニメ情報を海外に届けるニュータイプとテレ朝の挑戦!「今こそ国内からの情報発信が必要」【IMART2023】
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マンガ・アニメーションのボーダーレス・カンファレンス「IMART2023」が、11月24日から26日の日程で開催された。

IMARTは、「マンガとアニメーションの未来を作る」ことを目標に、両業界の実務家や先進的な取り組みをしている方をスピーカーとして招くトークセッションを中心に構成される。マンガとアニメの業界交流と知見の共有をはかり、急速に変化していく業界を多角的に議論する場だ。

本稿では、25日20時30分から行われた「アニメカルチャーをいかに海外に伝えるか -国内メディアの挑戦-」のレポートをお届けする。

アニメ作品自体は世界中で観られる環境が整ってきているが、制作スタッフの声や声優情報、作品の背景や文脈などの情報はまだ充分に届いているとは言い難い。それを担う国内のメディアは、その状況に対してどんな役割を果たせるのか。国内から海外にアニメ情報を届ける取り組みをする老舗雑誌「ニュータイプ」や、YouTubeで海外にアニメの魅力を発信しているテレビ朝日の担当者が、その取り組みを紹介してくれた。

登壇者は以下の通り。

鳩岡桃子(KADOKAWA 雑誌「月刊ニュータイプ」副編集長)
井木康文(株式会社テレビ朝日 インターネット・オブ・テレビジョン局)
数土直志(アイマート実行委員会委員。ジャーナリスト。日本経済大学 大学院エンターテインメントビジネス研究所特任教授)

老舗ニュータイプの副編集長が仕掛ける海外展開

アニメファンにお馴染みの雑誌、ニュータイプで副編集長を務める鳩岡氏は、KADOKAWA海外事業局主催の公募プロジェクト(グローバルビジネスアクセラレーションプログラム、通称GAP)でアニメ情報を海外に届ける「Newtype 海外展開プロジェクト」を申請し、採択されたという。

その事業の一環で、毎年NYで開催されるアニメコンベンション「Anime NYC」での視察の報告をしてくれた。Anime NYCは全米の中でも西海岸で行われるAnime Expoと同じくらいの規模感になってきているそうで、「東京ビッグサイトの東館くらい」の規模だという。

ニュータイプの海外展開プロジェクトは、KADOKAWA内で、社内から広く人を集めてチームを組んで行っているという。このプロジェクトは文字通り、ニュータイプの記事など、アニメの情報を海外に届けていくというものだ。コンセプトとしては、アニメの情報を届け、アニメをもっと好きになってもらうことを目指すというもの。サイマル配信によって日本と時差なくアニメを視聴できる環境が整っているので、情報も本編とともに海外に積極的に出していくことを目的にしている。

活動事例としては、ニュータイプ本誌の記事を翻訳してウェブに掲載している。翻訳・監修をNewtype海外展開プロジェクトで行い、「Anime News Network」で最終チェックしてもらい掲載しているという。その他、最近の例ではアニメ部と連携をして「ダンジョン飯」の先行上映のレポートを配信するなど、国内のアニメイベントの模様を海外にも届けていこうとしているそうだ。記事配信のサイクルとしては、イベント取材し、執筆し校正して翻訳するので最低でも中7日ほどかかるという。

鳩岡氏はこの活動の課題として、国や地域の文化・習慣の違いとお金の問題を挙げた。メディアとお金の問題は、どこの業界でも深刻な課題となっているが、海外に情報を届けるとなると、翻訳料や監修など、時間もお金もかかる。やはり、マネタイズが最大の課題となっているようだ。しかし、アニメをもっと世界に広げていきたいという思いで引き続き課題に挑んでいくつもりだという。

テレビ朝日の海外向けYouTubeチャンネル

続いて、井木氏が手掛ける事業の紹介が始まった。

井木氏は、テレビ朝日のインターネット・オブ・テレビジョン局という部署でアニメ関連事業に携わっている。この部署は、テレビのコンテンツを活用してインターネットの領域でマネタイズを目指しているもので、この部署で「Anime Insider Japan」というYouTubeチャンネルを立ち上げ、日本以外のアニメファンをターゲットにした番組作りを行っている。

このチャンネルは2023年7月に開設し、海外ユーザーに特化しているため、日本からはアクセスできないようにしている。声優が出演したテレビの番組を翻訳して提供したり、アニメ制作の現場を紹介したバラエティ番組やオリジナルニュースを制作する予定とのこと。このチャンネルの目的は、第一に日本アニメの楽しみ方を海外に向けて伝えること、そして、収益化の手段の模索と潜在的なマーケットの開拓だ。

こちらもマネタイズが課題となるが、広告収入以外のマネタイズ手段を模索しているという。そして、アニメファンがどこにいるのか、潜在的なニーズを調査することにも役立っているようで、YouTubeの解析データを分析することでどの地域にアニメファンがいるのかを調査しているとのこと。

番組作りの苦労として、英語圏のテイストにするためサムネイルも海外向けに受けるものを作るなどの工夫が必要だそうだ。そして、台詞なども直訳ではダメで、マンガではどう翻訳されているかなどのチェックがとても大変だという。

視聴者の反応は好意的なものが多いようで、コメントなども積極的に返すようにしているとのこと。視聴ユーザーの地域は1位がインドで2位がアメリカ、3位がフィリピンだそうだ。年齢層は若めで男女の数は半々だという。井木氏は、番組開始前はフランスやドイツからの視聴が多いと予想していたようだが、結果的にはアジアからの視聴が多くなっていると語る。日本のアニメがアジア圏で強力なコンテンツとなっていることを実感させる話だ。

モデレーターの数土氏は、中東のアニメシーンについてどう感じているかと質問。井木氏は先日ドバイから帰国したばかりで「中東は熱い」と感じたという。日本のファンと同じくらい旧作にも詳しい人がいて驚いたとのこと。ちなみに、ドバイで開催されていたコンテンツマーケットでは、中東地域の他にロシアの企業などからも日本のアニメの需要が高まっていることを実感したという。

テレビ朝日 井木康文氏。

数土氏は、海外にアニメの情報を届けることのハードルについて質問。2人はやはりマネタイズの課題を挙げた。メディアもビジネスなので、マネタイズの出口を示さないといけない、そして翻訳する必要の分だけコストもかさむという。井木氏の場合は、映像による発信のために権利の交渉の中で有料素材もあるとのことで、時間もコストもかかると語る。この分野特有の問題として、翻訳するにも専門用語が多いため、翻訳可能な人材も限られるという。

数土氏は、翻訳のコストなどは両社がパートナーとなることで抑えられるのではと提案。井木氏も鳩岡氏も、国内から海外にアニメ情報を発信している人がいるとは知らなかったという。鳩岡氏は、このトークセッションによってこういう取り組みが他にもあるという情報があれば知りたい、そういう人たちと一緒に何かできるといいと呼びかけた。「今は一緒にやっていくことが大切」だと鳩岡氏は語る。井木氏も、ドバイのマーケットで韓国が国家一丸となって巨大なパビリオンを出しているのを見て、日本の企業が連携することの重要性も感じたという。

数土直志氏。

最後に、鳩岡氏は海外にアニメの情報を届けることについて「今が本当にその時ではないか」と語った。井木氏も「今が絶好の機会」だと語り、ドバイで現地の方と食事している時も、日本のどのアニメスタジオが好調かなどかなり深い情報を持っているという。そういう状況に対して、日本から的確な情報を送り出す必要があると感じていると語り、セッションは幕を閉じた。

KADOKAWA 鳩岡桃子氏。
《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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