長く愛される作品作りに大切なことは?Keyを育てたビジュアルアーツ創業者が語る息の長いコンテンツ作りの秘訣【IMART2023】

メディアミックスで人気を拡大し、“息の長い”コンテンツ作りに成功している「Key」のビジュアルアーツ。そのための戦略作りにおいて大事なこととは?ブランドを育てた馬場隆博氏とエンタメ社会学者の中山淳雄氏が議論した。

映像コンテンツ マーケティング
長く愛される作品作りに大切なことは?Keyを育てたビジュアルアーツ創業者が語る息の長いコンテンツ作りの秘訣【IMART2023】
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マンガ・アニメーションのボーダーレス・カンファレンス「IMART2023」が、2023年11月24日から26日の日程で開催された。

IMARTは、「マンガとアニメーションの未来を作る」ことを目標に、両業界の実務家や先進的な取り組みをしている方をスピーカーとして招くトークセッションを中心に構成される。マンガとアニメの業界交流と知見の共有をはかり、急速に変化していく業界を多角的に議論する場だ。

本稿では、24日15時30分から行われた「『息の長い推し』を生み出す仕掛け」のレポートをお届けする。

アニメビジネスの根幹と言えるIP戦略。放送が終了した後も、長期的に利益を生み出すためには「息の長い」ファンとの関係を築くことが大切。そのための戦略作りについて、株式会社ビジュアルアーツで「Key」のブランドを育てた馬場隆博氏とエンタメ社会学者の中山淳雄氏が議論した。

登壇者は、以下の通り。
馬場隆博(株式会社ビジュアルアーツ相談役)
中山淳雄(エンタメ社会学者)
岩本貴子(一般社団法人マンガナイト理事、ライター)※モデレーター

20年以上衰えないKeyのブランド力

まずは、中山氏から「推し」ビジネスの概況について説明があった。「推し」という単語のツイート数は2020年以降大きく増加しているという。特に今年は「推しの子」のブームもあって、最盛期には1日25万ほどのポスト数になっていたそうだ。今年は「推し」という事象の功罪について考えさせられる事件が様々あったが、2024年以降もこのトレンドは概ね堅調に推移していくのではと概況を語った。

続いて馬場氏からビジュアルアーツの沿革について説明があった。『AIR』『CLANNAD』などで知られるKeyブランドを育てた同社の創業者である馬場氏は、今も健在の息の長いコンテンツの仕掛け人と言える存在だ。

1作目の『Kanon』は1999年にPCゲームとして発売されて以降、アニメやコミックなどメディアミックスを通じて人気を拡大させ、2023年の4月にはNintendo Switch版も発売されるなど、20年以上展開が続く「現役のコンテンツ」だ。同ブランドのゲーム『CLANNAD』もSteam版が2015年11月に発売され、登壇直近だった2023年9月の1か月間だけで14,580本のセールスを記録しているという。

馬場氏は、息の長いコンテンツを作るための「5つのポイント」を挙げた。1つ目は「名作を作る」ことだ。馬場氏は名作を作るためには「待つこと」が必要だという。当然納期を守ることも重要だが、納期を重視するか完成度を重視するかを迫られた時、馬場氏は完成度を重視し待つことを選択し、結果としてKeyのゲームは名作となったという。

2つ目は「クリエイターを大切にする」ことだ。たとえ、クリエイターが退職しても良好な関係を保つことが重要だという。3つ目は「社会化のために版権許諾を積極的に行う」ことだ。コンテンツの寿命を伸ばすためには有名になる必要があり、積極的な版権許諾で、認知度を拡げていくことが重要だそうだ。そのためには単独で版権管理できることが望ましく、そうすることで自由に展開させることが可能になるという。

4つ目は「ファンコミュニティに耳を澄ませる」ことだ。ファンの一言には重要なヒントが含まれており、新作を企画する際にそれは役立つと馬場氏は言う。そして5つ目は「新作も作る」ことで、それはブランドが輝かないとコンテンツも輝かないからだとのこと。息の長いブランド力が最終的に息の長い推しを作ることになるのではないかという。

メディア展開する時に解釈違いを起こさせない

中山氏は長くモバイルゲームの仕事に携わっていた経験から、ビジュアルアーツの手掛けるストーリー重視のゲームが後からモバイルゲーム市場を席巻したことにショックを受けたという。モバイル市場では後発だったにもかかわらず、強力な魅力を持つキャラクター重視の作品が結果としては市場を席巻することになったからだ。

中山氏は馬場氏に対して質問を続ける。版権許諾の戦略について、かつてはゲームをアニメ化する時、主題歌が変わることなどは当たり前だったが、馬場氏は「ゲームで一番聴いている曲がアニメで聴けないのはおかしい」と主張し、『Kanon』の時はそれを譲らなかったそうだ。その意思を貫いたのはファンの想いに答えたかったからだという。別メディアに展開する時に、ファンとの解釈違いを発生させない方が息の長い推しを作ることにつながるということだろう。

そして、KeyのゲームはPCから始まりコンシューマなど別の媒体に移植されつづけることで、長期的な展開を可能にしているが、このことについて馬場氏は、名作を作りファンが盛り上がればそういう話は向こうから来ると語る。

ファンの盛り上がりに耳を澄ませるという点については、海外展開でも同じことだと馬場氏は語る。『CLANNAD』のSteam版をリリースしたのは海外のイベントに参加したことがきっかけだったそうで、日本のファンと同じくらいの熱意がある人が世界にいることを知ったからだという。

ビジュアルアーツは今年、中国大手企業テンセント・ホールディングスへの売却を発表。このことについて、中山氏の「大手の外資企業は名作が生まれるのをなかなか待てないのでは」との質問に、馬場氏はその辺りのミスマッチはあるので啓蒙していると語った。しかし、ゲームは工業製品という側面もあるので、相乗効果を期待しているとのことだ。

馬場氏が語ったことは当たり前に感じられるかもしれないが、実行することは難しい。名作が生まれるのを待つためには資金の問題があるし、ファンとの良好な関係を長く続けることも簡単なことではない。当たり前のことを実現したビジュアルアーツのすごさを実感させるトークセッションだった。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。