グローバル展開にAI……。2023年、映像産業の変化を3つのテーマで振り返る

2023年の映像業界を3つのテーマ「日本IPのハリウッド映像化の成功」「グローバル市場で躍進する日本映画」「AIの脅威とハリウッドストライキ」で振り返る。

映像コンテンツ 制作
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Photo by Martin Lopez

2023年の映像業界は大きな地殻変動に見舞われたと言ってもいいかもしれない。

2023年は、世界的なコロナウイルスパンデミックからの本格的な回復がテーマとなるかと思われた。日本映画産業はなんとかその影響を数字の上では払拭。加えて、コロナ禍にグローバル市場で大きく伸長したアニメ人気が市場全体を牽引しつつも、『ゴジラ-1.0』が北米市場で大ヒットを記録するなど、実写映画にも注目すべき動きが現れた。海外に目を移すと、中国市場はコロナの影響を払拭する一方、韓国映画産業が長いトンネルを脱しきれずにいる。サウジアラビアはコンテンツ投資を加速させ、インド市場も急成長の兆しを見せている。

そして、コロナの影響を抜け始めたら、今度はAIという新たな課題と映像業界は向き合う必要が出てきた。ハリウッドでは脚本家組合と俳優組合による歴史的ダブルストライキに揺れ、動画配信サービスからの報酬改善に加えて、AIとクリエイターの権利保護をどうするかという課題と向き合った。これはコロナウイルス以上に今後の映像産業を左右することになるかもしれない。

様々な出来事があった2023年だが、本コラムでは2024年以降にも大きな影響を与えるであろう、大きな3つの変化を挙げて振り返ってみることにする。

「マリオ」に「ワンピース」、日本IPをハリウッドが大ヒットに導く

2023年の世界市場を代表する大ヒット作となった『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』、Netflixによって実写シリーズ化された「ONE PIECE」。今年は、日本発のIPを海外スタジオが制作し、大成功を収めた年となった。

この2本が過去の日本IPをハリウッドが映像化した作品群と異なる点は、日本の権利ホルダーたちの制作への関与が深いことだ。『マリオ』については、任天堂の宮本茂・代表取締役フェローがプロデューサーとして名を連ね企画全体を仕切る立場にあり、『ONE PIECE』では、原作者・尾田栄一郎がクリエイティブの深いレベルまで関与していることが報じられている。その結果、どちらの作品もオリジナル作品のエッセンスを損なうことなく、映像化することに成功した。

これまでのハリウッドは、クオリティコントロール権を保有し、映画製作者側が自由に作れることを優先していたが、この2本の成功は原作サイドの深い関与がむしろヒットの方程式だということを証明したと言える。後に続く企画が、これに習うかどうか気になるところだ。MCUシリーズなど、スーパーヒーロー映画の人気がピークアウトする兆しを見せ始めたタイミングで、入れ替わるように台頭したこの2つのヒットは、今後のハリウッドのトレンドとなるかどうか、次の2、3年が試金石となるだろう。

12月14日からNetflixで配信開始となった「幽☆遊☆白書」、さらに「NARUTO-ナルト-」や「僕のヒーローアカデミア」の実写化企画も進行中で、任天堂は「ゼルダの伝説」の実写映画化に踏み切った。講談社からは、Boichi原作の「ORIGIN<オリジン>」の実写化も発表。さらに、小島秀夫氏率いるコジマプロダクションがゲーム『DEATH STRANDING』をA24と映画化することも決定した。ハリウッド以外にもイタリアで「タイガーマスク」の実写化が発表されている。

原作を持つ出版社側も、これを機と捉えているのか、東京国際映画祭に併設されるコンテンツマーケット「TIFFCOM 2023」において、大手出版社4社(集英社・講談社・小学館・KADOKAWA)が参加し原作権の売買を行う「Tokyo Story Market」も開催された。


グローバル市場も優秀な原作を求めている。日本のマンガや小説・ライトノベルなど豊富なIPは、これまでほとんど日本国内で制作されていたが、今後出版社の原作供給は世界に拡がっていくことになるのではないか。

日本映画がグローバル市場で躍進

グローバル市場で注目された日本のコンテンツは、「原作」だけではない。映像作品そのものも世界市場を切り開いた。

正式な数字は発表されていないが、おそらく2023年は、日本映画の海外興行収入が歴代トップとなるだろう。『すずめの戸締まり』と『THE FIRST SLAM DUNK』が中国市場で日本映画の記録を更新し、『ゴジラ-1.0』は北米市場で実写日本映画の記録を塗り替えた。

その二ヶ国以外でもアニメ映画を中心に興行は好調。実写映画も今年始めに韓国で道枝駿佑主演の『今夜、世界からこの恋が消えても』が大ヒットし、是枝裕和監督の『怪物』も190の国での配給が決定、韓国をはじめアジアでの興行が好調だと伝えられている。

そして、宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』も北米で大ヒット発進。賞レースでも注目の一本となっており、来年アカデミー賞ノミネートの期待も高まっている。

日本映画は今、グローバル市場を必要としている。今年の4月には、映画業界の労働環境改善のために「映適(日本映画制作適正化機構)」がスタートし、一日の労働時間は最大13時間、週一日の撮休を義務付けるなど改善の努力が始まっている。

しかし、それに伴い映画制作のスケジュールはこれまで以上に長くなり、製作費も増加することになる。東映の和田耕一専務取締役は決算説明会で、映適の条件に対応すると製作費、制作期間ともに従来の120%から130%になる」という。つまり、その分リクープラインも上がるため、従来のように国内市場だけで利益を出しにくくなる。

日本映画業界に若い人材が減っているのは、劣悪な労働環境を放置し続けたことが大きい。このままでは映画産業が「持続可能」となるのは難しく、環境整備が必須だが、そのためには映画の利益も増やす必要があるのだ。しかし、人口減少時代に突入している日本市場だけでは、それを実現することはほとんど不可能だ。だからこそ、日本映画はグローバル市場に出るしかないのだ。

その危機意識は高まっており、国際共同製作によって海外市場に打って出る方法など、様々な手段が模索され始めている。



アニメ、怪獣映画はあらかじめ熱心な海外ファンが多く、課題はそれ以外の作品をどうグローバル展開するかだろう。そのためには、ある程度まとまった体制で日本映画・ドラマをブランディングしていく戦略が必要になるのではないか。かつて韓国がやったように、国も巻き込んで一丸となる体制を作れるかどうかが鍵になるだろう。

AIへの危機感とハリウッドのダブルストライキ

Photo by Mario Tama/Getty Images

世界の映画界を揺るがしたハリウッドのダブルストライキは、なんとか年内に集結することとなった。

2つのストで要求されたことは主に2点。ストリーミングサービスからの報酬増やデータ開示など待遇改善、そしてAI絡みの権利保護だ。既存の映画ビジネス慣習を崩したストリーミングの台頭によって、クリエイターに支払われる報酬が低下傾向にあった。とりわけコロナ禍でハリウッドメジャー各社が、一斉に配信に舵を切りだしたことでその危機感が広がった。配信を前提とした新たな契約のスタンダードを必要としていたのだ。

そして、AIだ。映像業界に限らず、2023年は社会全体でAIといかに向き合うべきかが広く議論された年となった。大きな変革を起こすだろうAIのインパクトに対して、ハリウッドは役者や脚本家が権利の保護を求めて早々に動き出したわけだ。

しかし、一方でハリウッド各社はAIへの投資を加速させているとも伝えられている。


AIからクリエイターの権利を守ることは大事なことだ。しかし、一方で新たな技術をいかに活用すべきかの研究を止めることは将来の競争力を削ぐ恐れがある。たとえ、欧米がAIを禁じても中国や他の国は開発を加速させるだろう。そんな中で日本はどのように舵取りすべきかを独自に考えなくてはならない。脅威と可能性が混ざり合うこの問題をどうハンドリングしていくのは、2024年以降も引き続き、重要なトピックとなることは間違いない。


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《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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