あらゆる興行データが無料で閲覧可。韓国映画を支援するKOFICのデータサイト「KOBIS」の重要性とは

TIFFCOMにてKOFICのブースを直撃。興行成績のデータをリアルタイムでチェックできる「KOBIS」やKOFICの近況を伺った。

グローバル アジア
あらゆる興行データが無料で閲覧可。韓国映画を支援するKOFICのデータサイト「KOBIS」の重要性とは
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釜山に所在する、KOFICのオフィス。(KOFIC提供)

東京国際映画祭と併催されるコンテンツマーケット「TIFFCOM」には、一般企業から国家機関まで様々な団体がブースを出展している。韓国は国を挙げてコンテンツ支援を行っているため、世界中のマーケットに国の支援組織が積極的にブースを出すことで知られている。

今年のTIFFCOMにも、韓国の映画産業支援を担う特殊法人・KOFIC(韓国映画振興委員会)がブースを出していた。Brancは、そこでインターナショナル・リレーション・チームのマネージャーを務めるJiwon Choi氏に話を聞くことができた。Choi氏は、KOFICの成り立ちから役割、現在抱える課題について語ってくれた。

Jiwon Choi氏。

国内部、国際部、研究部を持つKOFIC

KOFICは、韓国映画を支援する公的機関で文化体育観光部(日本の省庁にあたる)所管の特殊法人だ。1973年に設立され、韓国映画の制作や海外プロモーション、教育機関や撮影スタジオの運営など幅広い支援事業を展開している。

その資金源は、映画館の売上の3%を徴収する映画発展基金だ。組織体系としてはChoi氏が属する国際部、国内部、さらにリサーチや研究を行う部署もあるという。

国内部は、主に韓国映画の制作支援を行う。支援対象は大作映画だけでなく、インディペンデント映画や短編作品、アニメーションも対象になるという。研究部では、映画業界が必要とするレポートなどを作成している。これには映画館の日々の興行成績の分析や開示も含まれている。

国際部は海外での映画セールス支援が主な業務で、TIFFCOMのようなマーケットへの参加や映画祭参加のためにチケット代を出したり、海外でのプロモーション費用を助成したりすることもあるという。

海外作品のロケーション誘致業務もKOFICが担当している。韓国で使用する製作費の20~25% 助成金として出す仕組みで、これを活用して撮影された作品に、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン(2015)』 や『ブラックパンサー(2018)』などがある。

興行成績のリアルタイムデータを無料で提供

KOFICの映画支援の手厚さは、日本の映画業界人からも注目されているが、同組織の重要な働きはそれにとどまらない。映画興行のデータを世界中に無料で公表しているのだ。

KOFICが運営するKOBIS(Korean Box Office Information System)というサイトでは、韓国の映画館の興行成績がリアルタイムに反映されたデータを無料で閲覧できる。日毎の興行成績ランキングはもちろん、地域別のシェアから作品ごとの座席占有率、映画館のチェーンごとの各作品の売上まで把握できる。しかも、座席前売りの売上推移はリアルタイムに更新されるという優れものだ。さらに、KOBISではあらゆるデータをエクセルでダウンロードすることも無料だ。

KOBISのトップページ。

韓国の配給会社や宣伝会社は、こうしたデータを見ながらプロモーション戦略を立てている。このようなデータは、日本なら無料では入手できない。Choi氏はこのデータは映画会社にとって一番重要なデータで、どの映画会社も常にチェックしているという。また、一般人にもこのサービスは浸透していて、劇場での作品選びにも使われているとのことだ。

予算が潤沢な大手の会社だけでなく、小さな会社でも等しくデータが利用できるようになっていることの意義は大きい。「小さい会社は有料でリサーチするお金がありません。皆さんが平等に見られるデータを用意して、フェアな競争を促すことを大事にしているんです」とChoi氏は言う。

リアルタイムにデータが取得できれば、宣伝戦略の練り直しなどの意思決定も早くできるようになるだろうし、メディアも情報を入手しやすい。業界全体に大きなメリットがあるだろう。

コロナで訪れたKOFICの危機

利便性の高いデータ公表に制作から配給・プロモーションまで手厚い支援を提供しているKOFICだが、コロナ禍を経て課題を多く抱えているという。

アフターコロナの2023年になっても、韓国の映画館はコロナ前と比べて60%程度の観客動員にとどまっている。KOFICは劇場に足を運んでもらうために、映画のPR支援や文化部と共同でチケットの値引き施策などを行っているという。

KOFICの活動資金は、映画館の売上から捻出されているため、劇場の売上低下はKOFICの資金低下をも意味する。韓国映画の躍進を支えたKOFICはコロナ後、資金面で課題を抱えているようだ。

また、KOFICの支援対象は映画とビデオ作品のみで、テレビや配信向けのドラマは対象外だ。これが近年の動画配信の伸長でKOFICにとって課題となっているそうだ。

KOFICの支援対象が劇場映画とビデオ作品に限られているのは、法律によってそう定められているからだ。若い世代を中心に、動画配信での映像コンテンツを視聴する習慣が根付き、劇場に戻ってきていない状況であることから、KOFICとしては配信作品も支援対象とし、配信企業からも基金の費用を徴収できるように法改正に向けて活動していると、KOFICのパク委員長は先日の日本での会見で語っていた。


韓国映画の躍進を支えてきたKOFICは、コロナ以後の映画産業の変化を見極め対応しようとしている真っ最中のようだ。

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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