『最後まで行く』はどのように日本リメイクが実現したのか?【小出PインタビューVol.1】

『22年目の告白 -私が殺人犯です-』『見えない目撃者』『最後まで行く』等、日韓の映画界をつなぐ架け橋を務めてきた制作会社ROBOTのプロデューサー・小出真佐樹氏。5月19日(金)公開の『最後まで行く』はどのようにリメイクが実現したのか?ロングインタビューの第一弾。

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『最後まで行く』はどのように日本リメイクが実現したのか?【小出PインタビューVol.1】
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『22年目の告白 -私が殺人犯です-』『見えない目撃者』『最後まで行く』等、日韓の映画界をつなぐ架け橋を務めてきた制作会社ROBOTのプロデューサー・小出真佐樹氏。

次々にグローバルヒットを生み出し、Netflixが今後4年間で25億ドル(約3,300億円)を投じると発表するなど、映像エンタメの中心地といえる韓国。しかし小出氏によれば、それはあくまで一元的な見方だという。そこでBrancでは、小出氏にロングインタビューを実施。

「『最後まで行く』が出来上がるまで」「韓国映画界に訪れた危機」「日本映画界の課題と希望」の全3回にわたって、じっくりと語っていただいた。第1回は、小出氏が韓国映画人と関わるようになったきっかけから、『最後まで行く』日本リメイクを実現するまでのエピソードをお届けする。

制作会社ROBOT プロデューサー・小出真佐樹氏。

『ブラザーフッド』のワールドプレミアに同行したことから人脈が広がった

――まずは、小出さんが日本と韓国をつなぐ仕事を始めたきっかけを教えて下さい。

そもそも、もう20年以上前から韓国語は学んでいて、個人的に韓国に映画が公開されるたびに月1ペースで見に行っていたという大前提があるのですが(笑) それはあくまでも趣味の範疇で、仕事で名前が出ているものでいうと、最初は『リトル・フォレスト 春夏秋冬』(2018)ですが、発端は『ブラザーフッド』(04)のワールドプレミアに当時ROBOT所属だった本広克行監督が招待され同行したことです。

そのときにお会いしたカン・ジェギュ監督が僕のことを覚えてくれていて、『マイウェイ 12000キロの真実』(11)の制作時にコンタクトを取ってくれました。日本の出資を仰げないかとか、キャスティングの相談を受けました。その時の演出部のひとりが、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(17)の原作となった『殺人の告白』のプロデューサーを後に紹介してくれた人物です。

韓国が日本と国際共同制作をしたいと日本のプロデューサーに色々声をかけていた時期でもあって、釜山国際映画祭のピッチングに呼んでいただけたりと様々な関わりがありました。韓国の方々はカカオトークで簡単に連絡、招待してくれるんですよね(笑)「『殺人の告白』(12)のVIP試写(日本の完成披露試写のようなイベント)をやるからチケット取っておくよ!」みたいに。海外なんですが(笑)。

――フランクですね(笑)。

そうなんですよ。そして僕も行くという(笑)。韓国って、こうしたVIP試写の後の夜10時くらいから午前3時くらいまで関係者が打ちあげを開くんです。そこに参加するのは監督をはじめとするスタッフや俳優陣はもちろん、俳優陣が呼んだ俳優仲間に投資会社にプロデューサー、そのプロデューサーと一緒に来た演出部といった感じで様々な人が集まります。そこでまた色々な仕事の話が出来るから、僕もほぼ日帰りで参加することもあります。

『殺人の告白』については、実はあまり期待せずに観たらすっごく面白くて「これリメイクできない!?」とすぐプロデューサーに話しました。そこが発端となり『22年目の告白 -私が殺人犯です-』『見えない目撃者』(19)『最後まで行く』と韓国の作品の日本リメイクが続きました。

――日本作品の韓国映像化は、先ほど伺った『リトル・フォレスト』ですね。

はい。『リトル・フォレスト 春夏秋冬』の日本版はROBOT制作なのですが、釜山国際映画祭併設のピッチングに参加しているときに韓国版のプロデューサーが会いに来てくれて。日本と韓国ではちょっとシステムが異なっていて、韓国は出版エージェントという存在がいます。最初はそこが原作権を持っている講談社に打診するとのことだったようですが、1年経ってもそのエージェントから何も進展がないとのことで相談を受け、最終的にROBOTが担当することになりました。

そこから、講談社の国際ライツとメガボックスという投資会社とプロダクションをつなぐ仕事が始まりました。制作費も限られていて大変でしたが、観客動員150万人の大ヒットになり、そこから「このIPは韓国映像化できないか」という問い合わせがカカオトークで頻繁に来るようになりました。こうした相談は別の会社からなので、完全に人脈だけで今日まで来た感じですね。

冒頭30分が抜群に面白い!『最後まで行く』に感じた可能性

――そんななか、『最後まで行く』の日本リメイクはどういう経緯で始まったのでしょう。

これは僕が持ちかけました。これまた2014年に韓国のVIP試写会に参加して、これは日本リメイクしたら面白いぞと感じたんです。冒頭30分が抜群に面白い。ただそれ以降は物語の展開がちょっとストレートすぎるように感じて、日本に置き換えたうえで、もっと面白い作品に出来るんじゃないか、新しいものを作れるんじゃないかと思いました

『最後まで行く』に関しては、3年ほどどうしようか考えましたが、『殺人の告白』で配給会社のショーボックスとも関係値もあったので最終的に単独でオプション契約を結びました。リメイク権を得てからは当時ROBOTに所属していた脚本家の平田研也さんとプロット開発を進め、その後日活のプロデューサーの西村信次郎さんに出会えたという形です。

――藤井道人監督に白羽の矢を立てたのはどういう経緯からだったのでしょう。

業界で注目し始めている監督で興味を持ってくれそうな人がいないかと西村さんと打ち合わせをし、西村さん所属の日活で『デイアンドナイト』(19)を作った藤井監督がよいのではないかと提案してくださいました。そこで、藤井さんに連絡を取り、渋谷の中華レストランで最初の顔合わせをしました。

――『最後まで行く』を日本リメイクする際、文化の違いからどうしても設定の変更が必要になります。大きなものだと、「死体を隠す」際に、土葬を火葬に変えなければならない。しかし作品を拝見して、違和感のなさに驚きました。

そうした変更は、リメイクにはつきものですよね。例えば『22年目の告白 -私が殺人犯です-』では時効の設定を調整する必要がありましたし、『見えない目撃者』ではタクシーの表現をどうするか話し合いました。韓国のタクシーはドアが手動なのですが、それをそのまま日本に持ち込んだら変じゃないですか。そこでその部分の設定を大きく変更しました。『最後まで行く』も、火葬であれ棺桶に入れるところまでは同じ。その先、どうするかはアイデアを出し合いました。

――リメイクに関して、どのくらい変更するかというのはチェックバック等を行ったのでしょうか。

僕の経験からいうと、韓国に関しては監修の文化がないように思います。日本はそこが大変なので、日本の作品を韓国で映像化する場合はすべて監修が必要になってきます。

――監修の文化がない! それは凄いですね。

脚本を読んで面白かったかどうか位のリアクションはきますが、監修しようという気持ちはないと思います。基本的には契約締結の段階では「そちらで面白く作ってくれるんですよね。利益配分はこうですよね」といったある種ビジネスライクな感じです。

プラス、先ほどチラッと話したように人脈文化なんですよね。人と人とのつながりを大事にしているから、原作権を有するプロダクションに直に会いに行って話すと契約しやすく条件も融通を利かせてくれやすいこともあります。

――顔が見える直接のコミュニケーションを重視しているのですね。

『最後まで行く』に関してはショーボックスが投資してキム・ソンフン監督が原案であり、共同製作会社はAD406とダセポクラブの2社です。私が担当した曽根圭介さん原作の『藁にもすがる獣たち』(21)の韓国映画化の打ち入り(撮影現場入り前に行う宴会)の場にキム監督が遊びに来たので「今度『最後まで行く』のリメイクをやらせていただきます」と声をかけて、「おお、楽しみにしているよ」とこれくらいのやり取りでしたね(笑)。各社ともしょっちゅう連絡は取り合っていますし、ちゃんと筋を通しておけばかしこまったメールのやり取りを経る必要はありません。全部カカオトークのチャットでいいのか!!という問題はありますが(笑)

韓国での映像化の場合、一社ずつアタックして可否をもらって、また次の会社に……みたいな形ではなく投資配給会社には同時にあたることが多いですね。「他の会社にも話している」ことが分かったうえで脚本や座組を見るので、興味がなければ「ごめん、興味ない」とすぐレスポンスしてくれるんです。それは非常に効率的ですね。


Vol.2:韓国映画業界のリアルな今、コロナ後訪れた危機


『最後まで行く』

Based on the film ‘A HARD DAY’ directed by Kim Seong-hun

Producer:Cha Ji-hyun, Billy Acumen

5月19日(金)全国東宝系にて公開  

© 2023映画「最後まで行く」製作委員会

監督: 藤井道人

脚本: 平田研也 藤井道人

音楽: 大間々昂

出演: 岡田准一 綾野剛

広末涼子 磯村勇斗

駿河太郎 山中崇 黒羽麻璃央 駒木根隆介 山田真歩 清水くるみ

杉本哲太/柄本明

製作幹事:日活・WOWOW 

制作プロダクション:ROBOT

配給:東宝

《SYO》

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物書き SYO

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説・漫画・音楽・ゲームなどエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。並行して個人の創作活動も行う。

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